今までも色々なマンガ・小説が実写化されると作品持つ雰囲気から乖離していることが多く、「コレジャナイ!」とショックを受けることしばしば。三次元と二次元には壁があるんだと痛感し続けていました。
自分は『マリア様がみてる(以下マリみて)』の熱狂的な信者で、小説もアニメもCDもスピンオフもコンプリートしているほど。加えて実写映画への偏見もあって、もうこりゃだめだろう、しかもこの映画は大量にある原作の1巻分。でもマリみてファンだから、と意地をかけて観に行ったのです。
ところが蓋を開けてみたら、予想を覆すような完成度に驚きました。誰得な映画かと思っていましたが、これはマリみてファンのために、マリみてを本当に好きな人が丁寧に作った映画じゃないか!?
先に原作「マリみて」について簡単に説明しましょう。
原作の一巻が発売されたのは1998年。以降「マリみて」名義作品だけで37冊、スピンオフも含めて43冊で、現在も継続中のロングラン。累計540万部の大ベストセラーで、コバルト文庫の看板作品です。
私立リリアン女学園という規律正しい女学校を舞台にしたこの作品。上級生が下級生にロザリオを渡して「姉妹(スール)」になるという特殊な伝統があり、そこから人間関係のドラマが描かれるという、まさに少女達の楽園のような作品です。
そう、この作品はリアルな女学校を描いた作品ではなく清楚な女学校という空間を描いたファンタジー作品なのです。
実写版はここを理解してがっちり押さえているんです。徹底して「私立リリアン女学園」という空間を、何人たりとも触れることの出来ない少女達の温室として描くことに全精力を注いでいるのです。歴史ある古びた校舎、「ごきげんよう」と挨拶をする女学生達、挿し込む陽の光、響くピアノの音色。スクリーンに描き出された、ミュシャの絵画のごとく美しい女子校生達の佇まいと校舎の組み合わせは、あまりにも眩しい。
また好感が持てる点として「マリみて」の重要なファクターを、原作をよく読み込んだ上で詰め込んでいる構成になっている部分をあげたいです。単なる女子校賛歌で終わっていないんです。
小説の面白さのポイントは、百合的な匂いのする少女同士の憧れ、どういう結論にたどり着くか分からない推理仕立てな物語の展開、おとなしそうなキャラ達がとんちんかんな行動を取るというコミカルさなどです。
この映画はその美点をすべて逃さない! 蔦子さんと祐巳が取っ組み合って写真を取り合うシーンなどのはちゃめちゃさなんか、よくぞ入れたなあと感じられました。
「マリみて」の小説が本当に面白くなるのは3巻以降、人間関係があらわになり始めてからなのですが、この映画はうまくキャラクター同士の掛け合いを挿入することで、1巻部分だけでも十分楽しめるようになっています。
例えば美しい庭園で祐巳がごはんをムシャムシャほおばるのに対し志摩子さんが静かにサンドイッチを食べるシーンなどは、まさに「マリみて」ならではの軽快さと美麗さをミックスしたようなシーンでした。
個人的に由乃さんという、途中から暴走超特急になるおさげキャラが大好きなんですが、彼女原作一巻では出番全く無いんです。しかし今回映画の中のとあるシーンで、彼女のテンションの高さがさりげなく描かれていたのにはうーむと唸らされましたよ。この映画を作っているスタッフは本当にマリみてが好きなんでしょうね、どのキャラも活かす姿勢が見られます。
加えて主人公の祐巳は、山百合会という憧れの生徒会を遠くから見守る一般人役。作中でも非常に他の登場人物より幼い行動と容姿が目立つんですが、演じている未来穂香はなんと97年生まれ!原作開始とほぼ同じ時に生まれた、現在まだ高校生にすらなっていない少女でした。どおりで幼いわけだ! あえて幼い彼女を起用することで、一般人祐巳と高嶺の花である山百合会の間にあるバリア感を演出しており、非常に「らしい」画面が完成しているのです。
惜しむらくは何人かのキャラは演技がしきれていないこと。稚拙さがトレーラーから感じられて観に行く脚を止めている人も多いかも知れません。
しかし実際に映像全体としてみるとそのぎこちなさが逆に「祐巳から見たリリアン女学園」っぽくもあるんです。無論演技は上手いに越したことはないんですが、雰囲気重視で割り切っているのが功を奏して、彼女たちがリリアン女学園というファンタジーの絵画の一部になっており、演出で演技の拙さは補われるどころかプラスに増幅されています。
出演しているヒロインたちのかわいらしさは……動きを観てもらうのが一番。
最初はファンとして「映画やるならアニメでやってよ!」と思いました。しかしファンタジーとしての「マリみて」世界は、この実写化によって一つ広まった感があります。観終わったあと「この由乃さんが活躍する部分が見たい」「乃梨子や瞳子など下級生が入ってくる部分も見たい」と妄想していた時点で、やられた!と感じました。
マリみてが好きで、興味はあるけどどうしようかなあという人は思い切って是非行ってみてください。リリアン女学園のサファイアのような澄み渡る空気を、劇場で吸うことができますよ。(たまごまご)