「俺に勇気をくれ!!」と俺に握手を求めてからステージに上がる米光さん。
普段はこんなことを言う人じゃないのに、珍しく緊張しているみたいだ。


11月7日「夜のゲーム大学5」が阿佐ヶ谷ロフトAで行われた。

「夜のゲーム大学」はゲームクリエイターの麻野一哉さん、飯田和敏さん、米光一成さん3人のゲーム講義を、お酒を飲んだり、からあげを食べながらゆるい気持ちで見るイベントだ。

今回、エキサイトレビューライターの米光一成さんから「イベントやるから取材に来て来て~」とお誘いを受けたので行ってきました。取材で入るのは初めて。「3」と「4」は普通に見に行きましたよ。

米光さんにはしょっちゅう会っているけど、麻野さんや飯田さんとはもう半年以上もご無沙汰だったので、久しぶりに会いたかったというのもあります。



「夜のゲーム大学5」のサブタイトルは「Play or DIE ゲームの未来と再生」
ということで、3人が処女作、出世作、遺作について語るとのこと。
麻野さんだけ事前の会議に出席しておらず、よくわかっていなかったのか「なんでエロゲーの話をしとるんやろと思っていた」とボケを飛ばしていました。
どうやら、エルフの18禁ゲームの「遺作」と勘違いをしていたよう。

飯田「麻野さんだけスカイプの会議に来ないからだよ」
米光「そうだそうだー!」
麻野「あの時間はネットやらんって決めてたんよ」

まずは処女作担当の飯田さんのターン。
以前、飯田さんが作ったWiiウェアソフト「ディシプリン*帝国の誕生」一緒に実況したことがあり、ゲームという点では一番飯田さんと関係が深く、これは真剣に聞かないと! と思っていたのですが……。

飯田「これからOL24(飯田さんアシスタントのお姉さん)が僕の処女作をプレイしてくれます! OL24がプレイしてくれます! OL24のプレイ!」

きょうも幸せそうな飯田さんを確認してひと安心した俺は、フライドポテトとたこ焼きを頼みにカウンターへ。


マルセル・デュシャンやジョン・ケージといった、美術家や音楽家の話になり、ケージの「4分33秒」というオーケストラ動画を流し始める。
「アクアノートの休日」はこういうことをやりたかったんですよ。と飯田さんはうれしそうに言っていたけど、その芸術家の名前は初めて聞きました。

すっかりちんぷんかんぷんになって何を話しているのか(俺が)意味不明な状態になったところで、講義は終盤に。もうそろそろ終わりかな、と思っていると、ノリノリな音楽を流しいきなりラップ調で歌い出す飯田さん。

飯田「個体発生は系統発生を繰り返す! 個体発生は系統発生を繰り返す! 個体発生は系統発生を繰り返す!」

何かと思ったら、三木成夫の『胎児の世界』からの引用だそうです。


いつもの飯田さんだと、すぐにギターを取り出して「ソウルフルなんとかイェー!」と歌いだすはずなんですけど、そのまま終わってしまいました。
あとで聞いた話によると、事前に米光さんから「歌ってばかりじゃダメ!」と釘をさされていたみたいです。しかも毎回。歌わない飯田さんなんて飯田さんじゃないよ!

もちろん、ちゃんと真面目な話もしていましたよ。
「ゲーム会社に入ってずっと下積みをしていたけど、どんどんと会社が嫌になり、辞める前に1回だけ好き勝手なことをしよう」と作ったのが「アクアノートの休日」。

「テトリス」を1日中遊んだあとに、窓ガラスを見たりすると、その隙間にブロックをはめ込みたくなる。
そういう感覚をゲームで表現したい。
「インスタント瞑想マシーン」を作ったと言っていました。

面白かったのが「イーバ」という脳波測定システムを使ってデバッグを行った話。
例えバグを発見しても、脳波が安定して、アルファ波がでていればバグとは認めなかったそうな。
プレイ中に突然、舞台が海中から砂漠に移ったとしても脳波が乱れなかったら、それも仕様と片付けられたんですかね。


お次は出世作担当の麻野さんの出番。


ステージに現れた麻野さんはいきなりYouTubeにアップされている「かまいたちの夜」プレイ動画をスクリーンに映し「便利な時代になったなー」
麻野さん自身も「かまいたちの夜」の死亡シーン集を何日もかけて作り、アップしているそうです。制作者本人が動画アップって! 何やってるんですか!

「かまいたちの夜」をメインに語るということで、シナリオを担当した小説家の我孫子武丸さんもゲストに登場。

なぜ我孫子さんが「かまいたちの夜」のシナリオを担当することになったのかという話になり。

麻野「『弟切草』発売後に、いろんなミステリー作家にスーパーファミコンと『弟切草』をセットで送りつけたんですよ。いい返事が帰ってきたらシナリオを依頼しようと考えていて、でも返事をくれたのは我孫子さんだけだったんです」
我孫子「『弟切草』はすでに買っていたから、もらってないんです。でも『ドラゴンクエスト』を作っているチュンソフトから手紙が来た! って」
麻野「ウハウハやった?」
我孫子「当時は『ドラクエ』って発売日に買い逃したら、もう1、2ヶ月は手に入らない時代だったじゃないですか。
だからチュンソフトとつながりを作っておいて『かまいたちの夜』も監修だけやって『ドラクエ5』をもらえるなら美味しいと考えていたら、いつの間にか全てのシナリオを担当することになったんですよ(笑)」
麻野「こっちとしても、やっと捕まえた! って感じやからね」
我孫子「すでに『弟切草』というサウンドノベルを作っている会社なんだから、専用のツールがあると思ったら何もない。一つひとつファイルを管理しないといけなくてめっちゃ大変だったんですよ」
麻野「僕もね『弟切草』を作っているときは気が狂いそうだった(笑)」

「弟切草」のタイトルは、花言葉の本を見ていて偶然珍しい花を見つけてそこから適当にとったそうだ。麻野さんは「お線香みたいな名前だしやめたほうがいいのでは?」と提案したら、中村光一社長は「ゲームらしくなく、気持ち悪い方がいい。こんな植物があることすらみんな知らないだろう」と大賛成だったそう。

我孫子「あとね制作が大体完了しているときに、スキーはするんですかってスタッフに聞かれたんですよ。やったことないし、ペンションも行ったことないって言ったら『それはよくないから行きましょう!』って強引にスキー場に連れていかれたことがありました」
麻野「僕も中村光一も、チュンソフトスタッフは全員スキーが大好きだったんだよ。それで趣味になったんやろ?」
我孫子「毎年行くようになったわ(笑)」

タイトルの「かまいたちの夜」は我孫子さんがデビュー前に書いていた作品からとったそうで「雪山でバラバラ殺人」という点以外は別物とのこと。

我孫子「『かまいたちの夜』ってなんで雪山のペンションが舞台なん?」
麻野「それはね、『弟切草』の舞台が夏だったからです!」

麻野さんのまったりとした喋りと、我孫子さんのスパっとしたツッコミで進行していて、なんだか芸人を見ているようでした。ふたりとも関西弁だったので余計そう感じたのかな。

そして、麻野さんが20年間誰にも言わずに隠してきた「かまいたちの夜」の秘密を初発表。
その様子は、エキサイトレビューライターの池谷勇人さんが「ITmedia Gamez 日々是遊戯」で書いているので参照下さい。
麻野さんが「他で言うの禁止ね!」って言っていたのに、ちゃっかり楽屋まで行って掲載許可を取ってくるなんて、さすが池谷さんですね!

最後は遺作担当の米光さん。
客席にいた俺のところまで来てがっしり握手をしてから、ステージに上がる米光さん。
するといきなり、スクリーンに米光さんの遺影が映り、お坊さんがステージに登場し、お経を唱え始めた。これは本当にゲームイベントなのか!?

と、思ったら急にお客さんをいじりだす。

米光「今日はコール&レスポンスで行きたいと思います。ぐりといえば?」
客席「ぐらー!」
米光「バンダイといえば?」
客席「ナムコー!」
米光「8時だよ」
客席「全員集合~!」
米光「そこまでは従わなくていいですよ。拒否もありです」

今までのゲーム遍歴を振り返るという趣旨で行われた米光コーナー。
バイトの面接で「プログラムを組める」とつい言ってしまい、1週間でプログラムを覚えなきゃいけない自体におちいり、MSXを買ってBASICの勉強をすることに。

……だが「ロードランナー」にハマってしまい、1週間ずっと遊びまくり、プログラムは覚えられず。
当然、バイト先からはカンカンに怒られたそうだけど、使いっ走りとして雇ってもらったそうだ。これが米光さんがゲームの世界に入ることになったきっかけに。

その後も「ぷよぷよ」の前身となったゲーム「ヒトヒト」や、フリーになったあとゲームの企画を持ち込んで断られて、根性がないから3社くらいしか行けなかったといった、すごく共感できる話が出てくる。

最後に、米光さんはおかしなゲームを発表。

ある日、米光さんの死体が日本全国で発見されます、という言葉とともにスクリーンには米光さんが死んでいる写真が……! どう見ても寝ているだけにしか見えないし、口からはケチャップを吐き出している、なんだこれ……。

米光さんの死体は、その後もどんどんと発見され、30体以上見つかり、飽きられはじめたころに、第1遺体の心臓のなかから謎の数字が書かれた包帯が見つかり、その謎を解き明かす。さあ、ゲームの始まりです。

という、遺作を発表してイベントは終了。どこまで本気なのかわからないまま、最後にスポンサーを募集する米光さん。
クローンが認められて、誰でもクローンを作れるようにならないとこのゲームは作れないので、それまでお金を貯めるのもいいとのこと。

お金は1円も出せないですけど、このゲームが実装されたら真っ先に実況プレイをしようかなと思います。
米光さん、公式実況の許可をよろしくお願いします!(加藤レイズナ)