たとえば、「絵馬」というと、一般的には「合格祈願」「健康」「幸せ」「良縁」「安産」などを願うイメージだが、私的な祈願内容が直截に表現されることもある。
そのひとつ、神仏に誓いをたてる「断ち物絵馬」では、禁酒禁煙を誓い、賭けごとから足を洗うことを誓う。「女断ち」「覚醒剤断ち」「コーヒー断ち」なんてものも紹介されていた。
また、吹き出物の治癒を願う小絵馬には、草刈り鎌が描かれているのだが、これは草と瘡(くさ・腫れもの)をかけた語呂合わせで、見事に草を刈り取る鋭い鎌の威力にあやかろうという思いが込められているのだそうだ。
さらに、「夫婦の縁を切れ」「縁が元に帰りませぬ様お願い申し上げます」など、母が結婚した我が子の相手を憎んで綴った祈願状などもある。ゾッとするが、これも一つの強い欲望ではあるのだろう。
ただし、こうした伝統的なまじないが減る一方で、いまも「ミサンガ(自然に切れたら~云々)」「枕の下に○○を置いてねると~」などなど、新しいまじないは次々に生まれて伝わっている。
「横断歩道の白だけを踏んで渡りきると~」「黄色いワーゲンを見たら~」なんてものも、一種のまじないと言えるだろう。
そういえば、具体的な願望はなくとも、自分の場合、猛烈な腹痛・体調不良に襲われたときなど、日頃は信仰心が薄いくせに唐突に「神様!」と願ってしまうことがある。自分の努力・心がけではどうにもならないことは、不意にやってくるものだ。
いつの世も、人の願い・欲望は果てしのないもの。それは、結婚して子供を持ってなくなるようなものではありません。
(田幸和歌子)