『文学賞メッタ斬り!』の豊崎由美が、ついに自身が創設した文学賞でこの世界に殴りこみをかける!?
年明け早々、そんな刺激的なニュースが飛び込んできました。
その賞の名前は「Twitter文学賞 ツイートで選ぶ2010年ホントに面白かった小説」。
読書好きな人なら誰でも参加できる、twitterで投票を行う文学賞です。

インターネットを投票の場として利用した文学賞は過去にもありましたし、twitterを使ったものもこれが最初というわけではないかもしれません(きちんと調べきれていませんが)。しかし同賞には他に例のないたいへんユニークな特徴があります。
それは、国内篇・海外篇それぞれ1作しか投票を認めていないこと。
たった1作。これだけたくさん本があるのに、たった1作しか投票できないのです。


AKB48の投票だって「大島優子にしようか前田敦子にしようか」と悩んだら2枚CDを買えば2人とも投票ができたわけでしょう? それも禁止。1人1回、本当に1冊にしか票を投じることができないのです。小説が好きな人ほど、これは苦しいでしょう。好きな作品のどれに投票するか決めるのに、悶え苦しむはずです。
その、苦しさを楽しさと感じられる人のために、今回の賞はできたのだと思います。
小説が好きで好きでたまらなくて、小説を読むのも、小説のことを考えるのも、小説について誰かと話すのも、大好きな人たち。

そういう人は、この賞に投票するべきです。いやしないでおられるものかは。

「書評王の島」は豊崎氏が講師をつとめる「書評の愉悦」の公式ブログです。2011年1月5日の記事に、豊崎氏がtwitter文学賞を創設しようと思った理由、設立の趣旨が書かれています。それを読んで関心をもった人は、すぐさま投票の準備に走るが吉(本記事の最後に投票の要領は転記します)。投票期間は1月20日から31日までだそうです。
昨年出た本で読み残しがある人は、急いで手をつけておかないと!
 さて、賞のことがたいへん気になったので、トヨザキ社長に直撃取材をしてきました。

――この賞を創設するにあたり、何か先行の賞を参考にされましたか? 文学賞以外でも結構ですので上げていただければ嬉しいです。
豊崎 反面教師にしたのは、年間ランキングの「このミステリーがすごい!」です。書評王の島ブログの宣言文でも書いていますが、面白かったタイトルを複数挙げるとおうおうにしてその中でもっとも無難な内容の作品が票を集めることになる。そんな印象を持っていたんです。1タイトルしか挙げられないというルールを試してみたら、どんな結果が生まれるのか。
Twitter文学賞にはそういう「実験」みたいな意図も多少あります。
――なるほど。豊崎さんは『文学賞メッタ斬り!』(大森望と共著)などの企画で、あまたの文学賞受賞作品を読まれています。その経験が今回のtwitter文学賞につながっていると思うのですが、直接の契機になった出来事は何だったのでしょうか?
豊崎 わたしは「本屋大賞」は出版界や書店を盛り立てるとても良い賞だと思ってますが、一方で結果に対しては「面白みや意外性には欠ける」と感じていたのも事実で、その“慊(あきたらな)い”(c西村賢太)気持ちを、同じ投票形式の文学賞で解消できないものかと考えたのがきっかけです。
――豊崎さん以外のスタッフは、どなたが参加しておられるのですか?
豊崎 わたしが主宰している書評講座の仲間の石井千湖さんと斉藤雅子さんです。書評講座の打ち上げの席で「やりたいなあ」と話していたのを「やりましょう!」と後押ししてくれた2人です。

――賞の話を聞いて、書評家・評論家や編集者など、周囲の方の反応は、どうだったでしょうか。特に大森望さんがどうおっしゃったかが気になります。
豊崎 んー、社交辞令なのかもしれませんが「やってくださいよ」という意見ばかりだったように記憶しています。大森さんは、「これまでにもネット投票で決める賞はあったけどねー」と、いつもと同様シニカルな反応でしたが(笑)
――まだ始まっていないうちに、こういうことをお聞きするのは失礼かもしれませんが、賞について何か不安材料はありませんか? こうなったら困るな、ということがもしあれば。
豊崎 以前「週刊文春」のベストミステリーで起きたような組織票でしょうか(各自調査!)。別アカウントを取って不正に二重三重投票する人がいたらイヤですね。
まあ、そんな面倒臭いことする人がいるとも思えませんが。
――たしかに。よほどの暇人ですよね、それは。
豊崎 日本経済新聞の記者の方に「2009年にTwitterで行ったガイブン投票の結果があまりにも素晴らしくて驚きましたが、投票者があの時とは比べものにならないくらい増えそうな今回、とんでもなくひどい作品が上位に入るとか、そういう心配はないんですか」と訊かれましたけど、そうなったらなったで「Twitterやってる人の読書傾向はそうなのね」という事実が判明するだけのことだと思ってます。
――『○○』や『■■』(自粛)が1位になったりしたら(笑)。
豊崎 これ、遊びですから。何にもお金かけてないし、誰も儲からない。結果発表のUstrem配信にしたって、座談会に参加してくださる方々、配信をしてくださる高城泰吉郎さん、場所を提供してくださる石原壮一郎さん、皆さん無償で協力してくださってるわけで。なので、お祭りだと思って、気軽にわいわい楽しんでほしいし、自分もそうありたいです。
――はい、そうですね。多くの人に投票に参加して楽しんでもらいたいです。ところで、賞の正賞でなにか記念品のようなものは考えておられますか。また、賞の贈与式などイベントは予定しておられるのでしょうか。
豊崎 今のところ考えてません。とにかくお金がないので。でも、しょぼくても、本当は何かやったほうがいいのかなあ。ちょっと考えてみます。
――これも何かいい案があったら、@bookreviewkingでツイートしてみるといいかもしれませんね。最後に、この賞の展望を含め、日本の文壇、読者界がこうなったらいい、というお考えがあったら教えてください。
豊崎 文壇や読書界がこうなったらいいという意見は特にないので、質問の趣旨とははずれてしまうかもしれませんが、わたしには大きな野望があって、全米批評家協会賞みたいな文学賞を日本にも作ることなんです。本を読むプロが決める文学賞がないのはおかしいなあと、ずっと思っているので。でも、批評家や書評家の皆さんの協力が得られるかわからないし、ある程度資金もないとできないと思うので、簡単には実現できそうにありませんけど。どこか、出版と関係のない企業がお金出してくれないかなあ。
――アメリカにはNational Book Critic Circleという団体があって、小説やノンフィクションの年次最優秀作を顕彰しているんですよね。2010年度の受賞作はまだ発表されていなくて、小説部門の2009年度受賞作はヒラリー・マンテルの『Wolf Hall』、その前は『通話』『野生の探偵たち』の作者、ロベルト・ボラーニョの『2666』でした。
豊崎 Twitter文学賞に関しては、できれば来年以降も続けていきたいですけど、わたしが中心となってやっていく必然性はないので、ちゃんと軌道にのったら、やる気のある若い世代に任せていきたいです。あと、海外篇に関しては、来年からは復刊・新訳でも新刊なら投票可という風に変えていきたいと考えてます。立ち上げたばかりの賞なので不備は多いと思いますが、どうか長い目で見守ってください。

興味津々。いよいよ祭が始まります。(杉江松恋)

■投票方法(書評王の島ブログより転記)
・奥付が2010年1月1日から2010年12月31 日の国内の新作小説、海外の初訳小説(文庫落ちや復刊は不可)からもっとも面白いと思った作品を各1作挙げてください。

・投票は1人1作まで。純文学、エンターテインメントのジャンルの別は問いません。

・著者名『作品名』(出版社)を記した後、半角スペースをあけてから半角で、国内の場合は「#jtb1」、海外の場合は「#wtb1」を記してツイートしてください。

※ハッシュタグをつけても反映されない場合は @bookreviewking までリプライをお願いします。

【ツイート例】

道尾秀介『月と蟹』(文藝春秋) #jtb1

ウィリアム・トレヴァー『アイルランド・ストーリーズ』(国書刊行会) #wtb1

【投票期間】

2011年1月20日~1月31日

【発表】

2011年2月5日(予定)

結果を受けて、石井千湖・大森望・佐々木敦・杉江松恋・豊崎由美による座談会を、当日USTREAM配信する予定です。