おじさんが子供の頃はね、新幹線は「夢の超特急」って呼ばれていたんだよ。
なにしろそれまでは東京から大阪へ行くのに6時間とか平気でかかっていたのに、新幹線ができたら4時間に短縮されちゃうんだもんね(いまでは最短2時間20分!)。
そりゃ夢の未来と言いたくもなるってもんだ。

今年、3月5日には東北新幹線が青森駅まで開通した。3月12日には九州新幹線・鹿児島ルートが開通した。これで、本州の北端から九州の南端までを新幹線で行き来することが可能になった。
それ以前なら一泊することもできた地方出張が、夜のお楽しみナシの日帰り出張になった。その一方で、里帰りの負担が軽くなることから家族の距離が縮まるという利点も生まれた。
新幹線は、まちがいなく日本という国を狭くしてくれた。

九州新幹線の全線開通に合わせて企画された映画「奇跡」を見た。これは、夢の超特急が起こすかもしれない“奇跡”を、子供たちが信じて行動する物語だ。

主人公はふたりの兄弟。兄の航一は母と一緒に鹿児島で、弟の龍之介は父と一緒に福岡で、それぞれ離れて暮らしている。両親が離婚したことで、仲のよかった兄弟も別れ別れになってしまったのだ。
けれど、ふたりはまた家族が元通り一緒に暮らせる日がくることを夢見ていた。

そんなとき、航一はある噂を耳にする。
まもなく九州新幹線が開通するが、開業の朝一番に博多から南下する〈つばめ〉と鹿児島から北上する〈さくら〉という2本の新幹線が260キロ同士ですれちがう瞬間、ものすごいエネルギーが生まれ、その場面を目撃した者の願いが叶うというのだ。
航一と龍之介の兄弟にとって、願いはひとつしかない。家族がひとつになることだ。なんとしてもその願いを叶えるため、奇跡を起こすために、少年たちの無謀な冒険がはじまった──。


兄弟を演じているのは、子供お笑いコンビ「まえだまえだ」で人気を博した前田航基と前田旺志郎のふたり。映画の前半では、このふたりを軸にして、ふたつに別れてしまった家族の暮らしぶりと、鹿児島と博多の風景がたっぷりと描かれる。

兄役の航基くんについては、NHKの朝ドラ「てっぱん」で達者な演技力の持ち主なのを知っていたけど、兄以上に、弟の旺志郎くん(この映画で初めて見ました)が芝居上手であることに驚いた。
それが顕著にあらわれているのが、ふたりの境遇に差がある部分で、兄は家族の再生を信じて迷いなく目的に向かって突き進むが、弟は父との生活になんとなく居心地のよさを感じはじめていたりして、兄の提案に対して少しばかり迷いがあったりする。このあたりの微妙な感情の揺れを表現するのがうまいことうまいこと!

中盤になって、兄弟が本格的に奇跡を起こすための行動を開始し、クラスの仲間も巻き込み始めたあたりから物語はさらに躍動感を増してゆく。「グーニーズ」や「スタンド・バイ・ミー」なんかもそうだけど、子供たちが冒険する映画って、大人になってから見てもなぜか心が躍るんだよねえ。
自分の中に眠っている子供心が刺激されるというか。

もしも自分たちが奇跡を起こせたら、何をお願いするのかを打ち明け合うシーンがある。ある子は「宿題をなくしたい!」と叫び、ある子は「日本一のベイブレーダーになりたい!」と祈り、ある子は「クラスのライバルに勝ちたい!」と願う。子供の願いは、しょうもないことほどリアリティがある。わたしの小学生時代のいちばんの願いは「カルビー仮面ライダースナックが箱で買えますように」だったなあ。

結局、奇跡は起こったのかどうか。
そんなことはもちろん書けないが、大切なのは、この世が子供たちにとって奇跡を信じられる場所であり続けるということだ。親が離婚しても、大切な人と離れ離れになっても、宿題の答がわからなくても、奇跡の存在を信じて人は走る。奇跡を信じられなくなったら、子供だって走れない。

この映画にひとつだけ不満があるよ。おやつのポテトチップを食べるとき、この兄弟にとっては最後に残った破片の価値がとても高くて、袋を直接口に向けてザラザラザラ……ってやる権利を譲り合ったりするシーンがあるのね。でも、ポテトチップって最初の1枚をパキッと食うのがいちばんうまくて、最後、袋の底に残った細かい破片って、ちっともおいしくない気がするんだよね。
あれ、子供の頃からイヤだったなあ。どうでもいいか、そんなこと!
(とみさわ昭仁)