「アクアノートの休日」「太陽のしっぽ」「巨人のドシン」「ディシプリン*帝国の誕生」などで知られるゲームクリエイターの飯田和敏。かつていっしょに「ディシプリン」をゲーム実況したこともある。
このとき、飯田さんの作ったゲームをはじめてプレイしたけど、同じ画面で10分間シチューをかき混ぜるだけとか、平気でやる。19歳も歳上の大人相手に本気でアホか! と思った。でも、いつのまにか夢中になっていた。もっと、シチューを!
飯田さんが「ヱヴァンゲリヲン新劇場版-サウンドインパクト-」をつくると聞いて驚いた。「エヴァ」で、しかも音ゲー!?
「加藤ー、ゲームできたから遊びにおいでよー」。話を聞きにいこうと思っていたら、ツイッターで@が飛んできたので、ホイホイと行ってしまった。



――飯田さんと「ヱヴァンゲリヲン」というマッチングに驚きました。
飯田 ある日、グラスホッパー・マニファクチュアCEO須田剛一から「やらないか?」と言われ。
――命知らずだなって。
飯田 そうだよねえ、俺もふられたときびっくりした。いいんですか? って。
――企画はいつからスタートしたんですか?
飯田 えーとね「ディシプリン」の直後だから、2009年の秋くらい。
懐かしいね、あのときみんなでやったゲーム実況は忘れられない……。
――その話はあとにしてもらって。
飯田 あ、うん。
――「ヱヴァ」のゲームを作るとなってどう思いました?
飯田 「ヱヴァ」というあまりにも巨大なタイトルに対して、一介のゲーム作家としてどんなパワーを発揮すれば拮抗出来るのだろうか、と攻めあぐねていました。そこで「すべてのA.T.フィールドを 突破せよ」です。
――飯田さん「ヱヴァ」大好きですもんね。

飯田 そう。ゲームの内容があまり決まっていないときに声の収録をしたじゃない?
――いや、知らないですよ。
飯田 そっか。俺さ、声優さんとは何回か仕事したことあるんだけど、こういうキャラクターものははじめてなの。綾波レイ役の林原めぐみさんがね、スタジオに来たときは普通の声でしゃべっていたんだけど、録音スタート! って言ったとたんに……ええー! え、レイ! どの瞬間にいつ? って。アニメやゲームの画面はないのに、14歳の赤い瞳をした少女が突如現れ声だけが発せられている。
非実在のキャラクターがそこにいる。 なにこのマジック。……わかるでしょ、この感じ。
――言っていることはわかりますけど、飯田さんかわいいですね。
飯田 かわいい? へへへ。「エヴァ」のテレビ放映は1995年だから今年で16年。
庵野秀明さんをはじめとしたスタッフたちが、レイやシンジのキャラクター像を掘り下げて行った長い歴史があって、さらに「新劇場版」の興行成 績もすごい。 ファンもたくさんいて、みんなその構築された世界を期待しているわけだからね。その作品を俺たちがあずかっている事の重大さにそのときはじめて気付いた。
――それはいつごろ?
飯田 今年の2月くらい。
――おっそ!
飯田 作品をつくってきた人たちの努力を壊さないようにというこの丁寧さ。やっぱり俺はレイが好きなんだなとかいろいろ考えて、そのときにはじめて怖くなった。

――いい話ですね。泣きそうになりました。
飯田 マジで!? 泣いていいんだよ。ほんとに驚いたんだから。開発のメンバーを全員収録現場に連れていった。俺たちは歴史をあずかっているんだから気を付けていこうなって。かなり士気が高まったね。でも、そのあとに震災ですよ。
――やっぱり影響が。「破」にも津波のシーンがありました。この間の金曜ロードショーではカットされていましたね。
飯田 あのシーンはゲームには使っていないけど、このゲームは「新劇場版」のシーンを抜き取って、音ゲーにしている。ステージがいくつもあるんだけど、そのタイトルのひとつに「揺れる」というのがあった。
――それだけでもピクっとなります。どんな内容だったんですか?
飯田 「破」でマリのおっぱいが揺れるシーンがあるじゃない。
――……はい。
飯田 それを左右に振るゲーム。
――ははは。……遊びたいなあ。
飯田 マリが乗る仮設5号機が揺れておっぱいも揺れて、最後にぜんぶシンクロしていく内容だったんだけど、ちょっと「揺れる」は使えないなと思った。ステージスタートするときに、カメラがガタガタ揺れる演出もやめた。
――それは言われたんじゃなくて自分から。
飯田 俺のゲーム人生は「それはやっちゃいけません」と言われることの連続で、いままでそんなことには聞く耳を持っていなかったんだけど、このときばかりは心からこれはやめようと。
――飯田さんが。
飯田 ほんとうの意味での自粛。このゲームを作ることによって、あずかったものに対する丁寧なアプローチと、はじめての心からの自制を学んだ。
――はじめての自制って、飯田さん今年いくつですか。
飯田 43歳。いままで生まれたことのない感情だったね。
――外から言われることに対して「なんでだよ!」って反発してたのに、今回は自らそういう気持ちになった。成長しましたねえ……。エヴァっぽいです。逃げちゃダメだじゃないですか。僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです! ですよ
飯田 ぽいでしょ。

飯田さんのことばからは制作の動機がいまひとつわからなかったので、検索したらファミ通のインタビューを発見。〈『ヱヴァ』の物語ではなくて、“A.T.フィールド”というものに注目したんです〉とグラスホッパーの須田さんが説明してくれている。音楽が印象的な「ヱヴァ」の特徴を活かし、リズムアクションというゲームを提案したんだそうだ。
俺、飯田さんのことをわかってあげられなかった。


飯田 ちょっとゲームやろうよ。
――やりましょう。おっぱいはどこにあるんですか。
飯田 おっぱいはね……。あ、あれやろう。エヴァがひたすらジャンプするやつがあるんだけど。
――このステージですか。……操作方法は? どこ押せばいいんですか。
飯田 ボタン忘れちゃったな。どっちかがマルボタンでどっちかがバツボタン。
――え、どういう説明ですか?
飯田 ビルとかの障害物を短いジャンプと長いジャンプを使い分けて飛び越えていく。
――あー、空中からの使徒を受け止めるために走っていくシーンですね。次に押すボタンが出ないのは珍しいなあ。
飯田 基本となるゲームのアイデアは1000個考えたからね。苦しかったよ。
――そんなに。
飯田 絞り込んでフラッシュの試作版を10個作って、そこから6個選んで完成した。遊べるゲームは全部で6プラスアルファ。
――994個も……。
飯田 絞り込む過程でいろいろな議論があった。原作クラッシャーと言われるだろうなとか、それは望むところなんだけど、キャラゲーとしてこれでいいのか? という葛藤もあった。例えばそのエヴァが走るゲームは、ケミカル・ブラザーズの「スターギター」のPVが頭にあったんだ
――どんなです?
飯田 「世界の車窓から」みたいな風景にいろいろな音をはめこんでいて、ベースやドラムに合わせて建物が映って、リフレインしていくの。
――こまかいオマージュ。あ、クリア。
飯田 マジで? しかもハードじゃん、すげー。次は「SuperLastDay」やろう。感動するよ。
――この「Beastie Girl」ってのがやりたいんですけど。
飯田 また?
――またってはじめてですよ! これ、2号機がビーストモードになるシーンのですよね。……曲が変わった。
飯田 途中で曲が変わる音ゲーって珍しいでしょ。緩急がついてるんだよ。これはね、シンフォニーが……。
――あ、ゲームオーバー。
飯田 おーい。ヘタだなー。ノーマルでやりなよ。
――今回はノーマルです。難しいんです。……あーだめだ。ちょっとやってください。
飯田 仕方ないなー。俺も相当やったからね、このゲーム。
――そりゃそうです、あー、すごい。うまいうまい。
飯田 よし、じゃあここからは加藤で。
――難しいところやってもらってあとは自分で。「ゲームセンターCX」みたい。これ、同時押しが難しくて、あっあっ、あー……できたー。
飯田 やるじゃん!
――ノーマルとハードでステージ選択の背景画面の色が違う。ノーマルは赤い波、ハードでは青い波。
飯田 これはね反転してるの。ソラリレ……ソラリゼーションっていう……、オプ……チカルな手法……をね。
――なにを言っているのかまったくわからないんですけど(笑)。
飯田 あのね! 昔はフィルムをネガって言ってたんですよ。ネガはポジの逆ね。もういいよ! デジタル世代には通用しない。
――ネガはかろうじてわかりますよ。
飯田 じゃあ説明するけど、黒いネガを反転したら白くなるでしょ。同じように赤の反対が青なんですよ。
――なんで反転したんですか?
飯田 昔深夜のテレビ東京でヤコペッティの映画とかやっていたの。「世界残酷物語」とか。そのなかで鹿が車に轢かれて首が飛ぶシーンがあるんだけど、テレビだと過激すぎるから、ショックシーンを緩和するために画面が反転する演出を使っていたの。
――モザイクとかではなく。
飯田 そうそう。
――わかりました。
飯田 わかった?
――ハードモードは鹿がはねられるということですね。
飯田 そうっす! よりどぎついよという。なんで最初からわかってくれないの!
――反転した海を見て、あ、これヤコペッティですね。鹿がはねられてますね、とか言わないですよ!
飯田 あー、そんなの言ったら引くよね、
――そういう話ほかにないんですか?
飯田 ほかに? セールスポイント? ぜんぶいい話だよ。そもそもなんで音ゲーなんですかってよく言われるんだけど、そういう音ゲーもあると思う。キャラクターのセリフが流れるだけのステージがあるんだけど、これはポエトリー・リーディング。
――ポ?
飯田 音楽なしでラッパーがリストカットしながらポエムを叫ぶ会なんだよ。
――へえ。メモメモ。
飯田 あ、真に受けないで。これが面白くて、なんとかゲームにできないかなとずっと思っていた。ちょっと好きなキャラでやってみて、アスカやカヲルで。
――あ、じゃあ綾波でやります。
飯田 レイ好きなの? 俺も好き。
――最近はアスカもいいなと思っているんですけど。……これ、難しい。
飯田 このぐにゃぐにゃ動く棒をアナログスティックで動かして的に当てる。
――あー成功するとセリフが。こういうときどんな顔をすればいいか。声が響いてくる、不思議な感じ。
飯田 これね、ヘッドフォンでやるとヤバイよ! 耳元じゃなくて頭のなかでレイが喋るの!
――ちょっとゲームが聞こえないんで。
飯田 あ、ごめんなさい。
――成功するとパーセンテージが増えて、100%を超えると……暴走?
飯田 うん。コンボ、状態、いっぱい、点数入る。
――なんでカタコトなんですか(笑)。終わったあ。面白い。アナログスティックを動かす音ゲーって珍しいですねえ。
飯田 でしょでしょ。ちょっとこれもやって、これも。
――えー、どれですか。
飯田 これ。「使徒セッション」やろう!

音ゲーって、対応するボタンが画面にあってそれを押すだけなのが多い。「サウンドインパクト」は違う。アナログスティックで自機(のようなもの)を動かして、特定の位置でボタンを押したり、LRボタンだけを使うドラミングのようなゲームだったり(ドラマーが譜面を書いている、難しい!)遊び方がひとつじゃなくて飽きない。
まだまだ飯田さんに遊ばされそうだ。
(加藤レイズナ)
後編