ぼくの子供の頃の将来の夢は「作家」でした。
中高と超えて「なれるわけないよなー」なんて思ってたのに、気づいたらこうやってフリーライターやってます。

あれ、いつの間に……!? いやちょっと違うけど!? 人生何が起きるかホントわかりません。
そんな幸せな環境なので「ライターの仕事楽しそうだねー」と言われたら「えへへ」と笑います。実際毎日ハードながらも楽しいです。
けれどね、「文章で好きなこと書いてお金もらえるなんて最高!」という気持ちはありつつも、泣き寝入りしたことがないわけじゃあない。書いても書いてもうまくいかなかったりとかね。
多分作家・ライターさんみんなそういう経験しているもんだと思います。

 
2007年から発行されている宮原るりの4コママンガ「みそララ」の5巻が最近発売されました。
漫画家や作家のお仕事をテーマにしたマンガは非常に多いですが、この作品は主人公が巻き込まれてライターになるという極めて珍しいお仕事マンガです。
そもそも「ライターってなにするの?」からですよね。
ぼくもなるまでどんな仕事かさっぱりわかりませんでしたよ。なんか文章書くんでしょう、くらいです。
文章って絵より楽だよなあ……そう思っていた事が自分にもありました。

しかし、ライター経験ない人でもびっくりするぐらい細かく「ライターの仕事内容」について、リアルに描かれています。
仕事に、人間関係にまいってしまいそうな時に。ビタミンマンガベスト3■新社会人応援スペシャル(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
以前もちらっと紹介しましたが、五巻はインタビューのノウハウや文章の整理の仕方などが描かれていて心からオススメしたかったので、さらに詳しく紹介します。
 
先に言っておきたいのは、別にこれはHow to本じゃないということ。
あくまでも主人公麦田美苑(むぎたみその)を中心にしたギャグマンガです。
もともと別にライター志望でもなんでもなかったんだけど、事務で働いていた会社が突然の倒産! なんとなーく憧れていたデザイン会社の経理として飛び込んだところ、別に絵が描けるわけじゃ無し、営業もできるわけじゃなし、デザインができるわけじゃない。

役に立たなくてどうしようと悩んでいた時に、ふとつぶやいたチラシのコピーが採用され、本格的にライターとして仕事をはじめることになるのです。
恐ろしいことにライターのきっかけってほんとこういうことが多かったりするんだなあ。
気が強くてツンデレのデザイナー米原、元気印の体育会系営業の粟屋と出会い、三人の新人女性社会人としてデザイン会社でドタバタ奮闘する様子が楽しめます。
恋愛の空気なし! 仕事も失敗多々あたり! 3人で酔っ払っては騒いだり!
なのでOLマンガ好きならストレートにオススメできます。
基本的にこの3人がギャーギャーやっているので、それだけで面白いんです。
でもこの作品の恐ろしいところは、このドタバタコメディの中で、ライターやデザイナーとしての心構え、文章はどう洗練していくかがすんなりわかるように物語に織り込まれていることです。

 
例えば「自由にデザインしていいよ」と言われた時、それはどう捉えればいいんだろう?
それだけ聞いたら「理想の好きなものを描きたい・書きたい」ってなりますよね。
デザイナーの米田さんはがんばりやなので、認められたい! と必死にポスターのデザインをしました。どれもこれも凝ったもので、自分のとっておきのネタを取り入れました。
そのデザインは非常に素晴らしいものでした。けれども先輩は優しくこう言います。
「やりたかったデザインにあてはめたって感じがする。
広告には必ず発信者のメッセージがあるよね。その枠の中で自分なりの解釈をして表現するのが、『自由にデザイン』することだと僕は思うんだ」

さらっと物語の中で言われますが、これはあまりに的確すぎて痛い痛い痛い……。

ライターの美苑は米田以上に経験がないので、毎日が手探りです。
そもそも引き受ける仕事内容にによって、書くジャンルがばらっばらなわけですよ。
ある時は温泉地のキャッチコピー。ある時は食べ物の魅力紹介。
当然知らないジャンルの人へのインタビューもこなさなければいけません。
ちょっとライブレポートを書いて、と言われたらどうしましょう。音楽の知識皆無、興味のあるバンドでもない。さあどうする。……わからない……当然美苑も悩みます。
ここで先輩たちがアドバイスしてくれます。例えば知識がなさすぎることに対してはこう言います。
「頭でっかちより今のがいいわよ? 知識におぼれるタイプは、すぐ否定したがるからね。批判されると上から目線で反論したり」
なるほど。となると美苑からはこういう結論が出てきます。
「そっか、このバンドの良しあしというより、生ならではの臨場感や面白さを伝えて、ライヴに行きたいと思わせるのが重要ですよね」
キャラクターの会話の中から、こうやってどんどん「ライターとして求められているもの」が紡ぎだされていくんです、この作品。説教臭くなく、あくまでも新人3人が、そして読者が考えていくように誘導しているのもユニークです。
 
3人は頑張って協力してどんどん前に進むんですが、いいことばかりじゃありません。嫌なこともあります。
ある会社からリライトの仕事を頼まれ、美苑は引き受けます。ある程度経験もしてきたし、私でも大丈夫そう! と。
相手から送られてきた文章をそのまま出すわけにはいかない。仕事として彼女は必死に直します。今までの経験を生かし、うまく相手の希望と主張を考慮して読みやすい文章に最大限の努力を払って修正。営業さんからOKがもらえます。ヤッター!
ところがその後突然、あなたの文は使わないと言われ、一気に墜落。実は営業さんのミスで、リライトした彼女の文章は読み比べられることもなく、闇に葬られることになるのです。
マンガ的にはここから逆転劇が起きて欲しいものですが、理不尽ないらだちは理不尽なままなんです。
だからすごいんだよこのマンガ。
実際社会で働いていて、泣き寝入りするしかない出来事っていっぱいあるわけじゃないですか。特に新人で伸び盛りの時期って。
でも「なかった」ことにならないんです、「ある」んですよ。それをそのまま描いている。
じゃあ彼女は何も得なかったのかというとそうではありません。報われなかった彼女の努力は、同僚たちからの信頼を大きく得ることになります。

巻を重ねるごとに「一人前」に近づいていく様子が非常に生々しく描かれていきます。
でも「一人前」って一人で何でもできることじゃないよ、というのもきっちり語ってくれます。
時に、できないことは周囲にヘルプを出すのも社会人。ストレスが溜まったら誰かに愚痴って飲みに行くのも大事なこと。
それでも美苑はなぜライターを続けているか。
先輩は言います。
「ただ……文を書きたいと思う才能はあるだろ」
一言一言が厳しく、そして優しい。
美苑がんばれ!
 
このマンガを描いている宮原るりは、元ライターの仕事をしていた経験者。
なのでライター志望の人は、文章の構成をがっちり、かつわかりやすく解説してくれている5巻は是非読んでみていただきたいです。
自分も耳が痛くて土下座することしきりな作品ですが、同時に勉強になっています。
ただね、美苑が一番最初に自分の文章が載ったチラシを大切にする気持ちも、よくわかるんです。
ライターじゃなくても、仕事で失敗すること誰しもあります。心折れそうなことはあります。
そんな人に、体育会系な「ガンバレ!」じゃなく、そっと背中を押す「がんばって」を与えてくれる栄養剤のような作品なのです。
(たまごまご)