iPhoneアプリの「あざらし」がかわいい。
洞窟物語」を作った天谷大輔さん(開発質Pixel)の新作だ。

だけどなんであざらし?
気になったので直接スカイプで天谷さんに聞いてみた。

「なんであざらしなんでしょうね(笑)」

……天谷さんもよくわかってないらしい。

「これ、実は僕が10年以上前に作ったゲームなんです。もともとiPhoneでは「RockFish(仮)」ってゲームを作ってたんですが、その前にまず軽いのを1本作って、AppStoreに登録するというのをやってみようと」

ああー、そういうことだったのか。ちょっと納得。もちろんグラフィックやサウンドは一から作り直してあるし、手抜きは一切ない。
ちなみにタイトルコールの「あざらし!」はお子さんの声なんだそうだ。(10年前に作った「あざらし」では、効果音はすべて天谷さんの声だったらしい。世代交代!)

しかし、なんでキャラクターが「あざらし」なのかは相変わらずよくわからない。

そもそもこのゲーム、世界観がおかしい。
まだ遊んでない人は、こちらの動画をどうぞ。プレイしてるのは天谷さん本人、スカイプごしにしゃべってるのは、天谷さんの友人の「くろいひと」さんです。


「あざらし」というタイトルだから当然、あざらしが出てくる。
でもこのあざらし、キーホルダーになって、壁にぶら下がってる。
あっ、いままばたきしたよ!
ってコレ生きてるの!? キーホルダーじゃないの!?

しばらくすると、あざらしが突然ポトッと落ちる。
プレイヤーはそれを、タッチで止める。
トスッ、と矢が放たれ、リングにひっかかる。セーフ!

たったこれだけ。
いわゆる「刹那の見切り」系ゲーム(「星のカービィ スーパーデラックス」のアレ)だ。「洞窟物語」のような骨太なアクションゲームを想像していたので、最初はちょっと「あれっ?」と思った。

だけど遊べば遊ぶほど、やっぱりこれは天谷さんのゲームだ、と実感。
最初にビックリしたのは、あざらしを止めるのに失敗したとき。
あざらしたちは、早く止めれば止めるほど高得点。ハイスコアを出すとちょっとしたごほうびもある。
でもだからといって、焦って落ちる前にタッチしてしまうと……ギャーッ!

これ、説明しちゃうとつまんないので、ぜひ遊んで、自分の目で確かめてみてください。
半開きになったあざらしの口がまたかわいいんだ。血、ピューピュー吹いてるけど。

「いやあ、かわいいキャラを描くのは好きなんですが、ただファンシーなのもどうかなぁと。あとこれを作った頃ってちょうど、“かわいくてちょっとブラック”が流行だったんです。グルーミーとか、Happy Tree Friendsとか」

あああ、それでこんな残酷なことに……。
いや、ていうか、そもそもこのあざらしたちって、どういう状態なんですか? 生き物? それともキーホルダー?

「自分でもどういうつもりで作ったのかおぼえてないんですよ。でも『スーパーマリオ』だって、キノコの世界でカメと戦うゲームじゃないですか。世界観が先行しちゃうと、こういう発想ってたぶん出てこない。そこがゲームのいいところだと思うんです」

なんだか深いハナシになってきた。じゃあ、世界観よりもまず、とにかく「あざらし」ってキャラクターが先にあった?

「それか、単に頭がおかしかったのかも(笑)」

なんだそりゃ!
まあ「洞窟物語」だって、敵キャラクターが石けんだったり、キノコがしゃべったりするゲームだし今さらヤボなツッコミはなしだ。たしかに、こういう「ゲームならでは」の世界観って最近はあんまり見かけなくなった気がする。


血のインパクトがすごかったのでそっちを先に書いちゃったけど、成功時の演出もまたかわいい。
矢が壁に刺さる瞬間、あざらしたちがキュッ! っと目をつむる。これを見た時、「あざとい!」と思いつつもキュンとしてしまった。こういう細かい手触りのチューニングは天谷さんの十八番だ。

こんなにシンプルな内容なのに、その中でちゃんと個性を出せているというのは、よくよく考えればすごいことだ。ルールだけ抜き出して見ればよくある「刹那の見切り」系ゲームだけど、同じルールで100人にゲームを作らせたとき、「あざらし」を作れるのはやっぱり天谷さんしかいないだろう。(で、桜井政博さんならそれが「刹那の見切り」になる)。

「そういえば、過去に名前を伏せて『洞窟物語』の掲示板に絵を描いて載せたら、いきなり『本人だ!』ってバレちゃいました」

うん、たぶん「あざらし」も、名前を伏せてリリースしても、気付く人は気付くと思います。

ついでに、せっかくなので当初開発していたという「RockFish」についても聞いてみた。「洞窟物語」好きから見れば、こっちの方がたぶん「本命」だろう。

「実を言うと、最初から作り直そうと思ってます」

な、なんだってー!

「これまで『作ってればそのうち面白くなるだろう』って思って作ってきたんですが、システムは『洞窟物語』より作り込んでるのに、いろんなところに魅力がなくて。こりゃあだめだなあ、と」

そういえば「洞窟物語」も、一度完成させたものをぶっ壊して、1年かけてまた新しく作り直したんだった。ファンとしては早く遊んでみたい一方で、どうせなら納得いくまで作ってほしい、という気持ちもある。

「今の『RockFish』は作り直す前の『洞窟物語』みたいです。ゲームの部品は去年でだいぶ揃ったので、全部が無駄になったわけじゃない。今は紙の上でいろいろ考えを巡らせているところです」

1年かけて7合目まで辿り着いたのに、「やっぱり引き返そう」と決断できる。その潔さもまた天谷さんの持ち芸だ。正直、これを聞いて僕の中での「RockFish」への期待はますます大きくなった。

「洞窟物語」は作り直しから完成までに1年かかったけど、「RockFish」が遊べるのはいつになるだろうか。
今は信じて完成の時を待ちつつ、とりあえず「あざらし」で遊ぶ僕である。(プラチナの上のトロフィーがいまだに取れません……)
(池谷勇人)