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<ちゃんとAVの話は1話目からあるわけで>

我孫子 最後の最後で主人公がAV返しに行くじゃないですか。あれだけでも、このドラマの“お約束を良しとしない”姿勢を示してると思うんですが、やっぱりちょっとは軽く終わらなきゃみたいな?

坂元 僕は主人公が歩きだして引きの画で終わるみたいな、そういう終わり方があんまり好きじゃない。
というか書いたことないです。

我孫子 でも、伏線があるじゃないですか。ちゃんとAVの話は1話目からあるわけで。

坂元 でも、最終回で出すつもりで書いているわけではないので。ある時点で最後どうやって終わらせようかって考えてるときに、「あぁ、アレ拾える。返してないや」と思い出して。
実際に初稿の段階では第1話でAV返すシーンっていうのも書いてるんですよ。

我孫子 はぁー、そうなんだ。

坂元 返しに行ったら死んだ妹の関係者に出会う、っていうのを初稿では書いてました。でも2稿の段階でもうそのシーンは無くしたので、返してない状態になってるなぁと。

我孫子 でも、満島さんが家に来たシーンで見つかるわけじゃないですか。でも、まだ返しには行かないわけですよね。


坂元 忘れてるんですよね、返すのを。

我孫子 脚本家も?

坂元 僕は忘れたというより、ドラマ上忘れる、ということがあるんですよね。返したであろうと。あるいは返したか返してないかは一旦置いておく。そういうのはよくやることなんで。あの、「突然事故死したら、家に隠してあるAVはどうなるんだろう?」って男性ならよく考えると思うんですけど、この場合は「妹が死んだときにAV借りてたらそのAVはいつ返しに行くんだろう?」っていうことを想像するんです。
“非日常の中に生きながらまだ日常に引っ張られる”っていうのはAVの話から始まって全編通してやりたかったことです。それはリアリティの追求というよりは、こんなこと(殺人事件)があっても生活から離れられない人間の面白味というか、そういうものを積み重ねていったらベタじゃなくなったというか。ベタというものはいかに非日常的なものなのかっていうのは書いてて感じたことですけどね。


<後半どうなるとかは全く決めてなかったです>

我孫子 脚本はだいたい第何稿まで行くものですか?

坂元 えーと3稿か、最後に手直しするのも入れると3.5稿かな。初稿はだいたい、僕は1.5倍くらいの量を書いてそれを削りながら直していく感じなので、2稿目でようやく形になって。そこからディレクターさんやプロデューサーさんの直しが入って、それを直した3稿で割とほぼ最終形に近いですかね。


我孫子 撮影が始まる前にはもう11話分全部出来てましたか?

坂元 いえいえ全然。3本か4本くらいですね。

我孫子 でも、あらすじ的には出来ていた?

坂元 後半どうなるとかは全く決めてなかったです。

我孫子 えぇっ!?

坂元 どんなドラマも必ず毎回そうです。そうじゃないと嫌なんです。「どうなるんだ?」って周りの人も聞いてくるので、適当にごまかしてしゃべってはいますが、どうなるのかは全く決めずに。


我孫子 着地点のイメージもないんですか?

坂元 ストーリーを決めてしまうと、筋書き通りに動くだけになっちゃうので。「この人はこういう人だ」っていう人物像だけ僕の中でしっかり掴んでおけばいいと思ってます。考えながら書くことが大事であって、答えがわかっていたら書く必要がなくなってしまう。

我孫子 今回DVDを見直してみて改めて思ったのは「考え抜かれてるな」と。11話最初に書き上げて、何度も改稿を繰り返して出来あがっていったのかなと。通常そうじゃないことはもちろん知ってるのですが、これはそうなんじゃないかと。


坂元 あれですかね、伏線とかそういう?

我孫子 そうですね、伏線もありますね。

坂元 連ドラの場合、とにかく最初は種をたくさん蒔いておくんですよ。後から拾えるモノもあるし拾えないモノも出てきますが、とにかくたくさん種を蒔いておけば、「あぁ、あれがあった!」と思って回収すると結果的にそれが伏線になるという。とにかく印象的なシーン、印象的な台詞、印象的なアイテムを書くことが自然と伏線になっていくんです。


<相当“ダメな台本の極み”だと思います>

我孫子 テレビドラマの脚本というのは、キャスティング抜きに話を作っていくものではない?

坂元 色んな方がいらっしゃるとは思いますが、僕はキャストが決まってないと辛いですね。デビューしたのが20年以上前なんですが、そのとき既に“キャストが決まっている中でドラマを作る”というシステムが始まっていて。その中でずっと書いてきて、それがやりやすいものとして育ってきたので、今更真っ白な中で話だけ作れって言われても相当キツいですね。

我孫子 DVDの購入特典に脚本が付いていたのでじっくり読ませてもらいましたが、もうドラマの台詞の端々とほぼ同じなんですね。もちろん削られている部分もありますが、口語というか会話の口調が全部この脚本のままで。それは坂元さんの頭の中から出てきたものなのか、一旦役者さんからフィードバックがあってそれが反映されたものなのか。どっちなのかなぁと気になって。

坂元 例えば満島さんの例で言うと、普段の彼女のお芝居を見ていても、ペラペラペラペラ流暢にしゃべるよりもつっかえながらしゃべるお芝居の方が僕は好きなんですね。それで今回も、想いが先にあるから言葉がそこに上手くついていかない感じをやりたいと思って。それが満島さんの一番得意な場所というか、一番魅力的な場所なんじゃないかなと思ってああいう感じの台詞にしましたね。あとはテレビを見ていてこの人面白いしゃべりをするなぁ、っていうモデルがいて真似してみたのもあります。

我孫子 なるほど、そういうインプットがある訳ですね。小説の場合で言うと、もちろんモデルを想定して書く人もいますが、僕は基本ゼロからというかモデルを想定しないで書いてまして、そういう小説家のやり方ではとても書けない会話がこのドラマでは噴出してるんです。ある種のすれ違いというか、この会話だけだと到底意味が通じないけど、前後の雰囲気とか役者の顔色全部込みだと伝わる会話っていうのがいっぱいあって。でもそれが自然に見えるんです。

坂元 はい。

我孫子 特に最近のテレビドラマで感じることですが、説明し過ぎで「誰もそんな会話する人いないよ」って思ってしまって、見るのが辛くなることがあります。でも坂元さんの脚本までいっちゃうと、結構な視聴者を突き放している感じもしますよね。「今、何に対して「ハイ」って言ったの?」とか、その辺の説明が全くないので。

坂元 僕もずっとテレビをやってますが、その中でも相当“ダメな台本の極み”だと思いますね。基本的にテレビは「今こういう気持ち」っていうのを台詞でしゃべって、「次がどうなるのか」がわかるようにしておかないと視聴者に見てもらえないという問題があります。かといって、作っている人間もそれが楽しいかと言われればそこはまた疑問があるので、葛藤しながらやってる方も多いですけども。僕の場合は年齢的なものもありますが、 “ドラマの禁止事項”みたいなのは「もういいや!」って最近は破っちゃってますし、今回は題材的に誠実であらなければならないので、ドラマのルールに合わせるのではなく、題材に合わせて書きました。プロデューサーと共感しあえたから出来たことです。

我孫子 それは珍しいケースですよね?

坂元 プロデューサーはずっとバラエティをやっていた方で、20何年目にしてようやくドラマの世界にやって来れて、もうドラマやるのが嬉しくてしかたがない人なんです。バラエティでは「笑っていいとも!」のプロデューサーまでやった人だからもう何も失うものはないし、何も望むものもない。「とにかくやりたいものをやりたい!」と。普段テレビというものは、お皿洗いながらとか余所見しながら見る人のために作られているけども、今回はとにかくちゃんと観てくれている人のために作ろう!と。そこは僕もプロデューサーも一切ブレなかったので、ちゃんと観ないととてもわかりにくいドラマですね。


<今更妥協しても仕方ないから行くところまで行こう>

オグマ すみません、私もひとつお聞きしたいことがあって。「Mother」のときにもありましたが、今回も第7話で殺人犯とその恋人の回想シーンを30分以上かけて描いてますよね。フラッシュバック的に過去のシーンが挿入されたりは他のドラマでもよくありますが、あんなにじっくり回想シーンを描くっていうのは連ドラではなかなか出来ないことなんじゃないかと思ったんですが。

坂元 「Mother」の時は初めての試みだったので反対意見もありました。「Mother」の回想シーンって主人公の松雪泰子さんもほとんど出なくて、虐待母役の尾野真千子さんだけの芝居なんですね。今でこそ有名ですけどその当時「尾野真千子」ってまだ知られてなかったから、違和感を持つ人も多かったんです。そもそもあの回想って最初はやるつもりなかったんですけど、ドラマの放送が始まって最初の頃に、僕の知人からその虐待母を罵るメールが来たんですよ。「男におもねるメス豚がっ!」って。

一同 (爆笑)

坂元 今でも大事に取ってあるんですけど、そのメール(笑)。「子どもを虐待するロクでもない女だ!」って書いてあって、「それ、違うんだけどなぁ…」って思って。これは、こう感じてしまう人たちのために説明しないとダメだと考えて、終盤だったので流れは決まってたんですけど……細かい話していいですか? 

オグマ お願いします。

坂元 9話で松雪泰子さん演じる主人公が捕まって、10話でちょっと裁判があって、11話で最終回、という流れなんですけど、本当は10話は丸々一本裁判話の予定だったんです。法廷で主人公をどう裁くかという。でも、そこを削ってでもこの回想はやるべきだと思って、尾野真千子さんの役の話を一本作ったんですが、そしたら皆さんご不安になられて(笑)

我孫子 それは、有名な人が出てないから?

坂元 丸々一話、主人公がほとんど出てこないなんて通常は視聴者が受け入れられませんから。それで、最終的には3回くらい現在進行のシーンに戻ることにしたんです。最初は始まった瞬間から尾野真千子さん演じる母親が出てきて、一回も戻らずに回想だけで行く予定だったんですけど、ちょっと調整して。今回はその時とは違ってプロデューサーも…… プロデューサーっていうよりも多分みんな、「このドラマ、今更妥協しても仕方ないから行くところまで行こう」って思ったのかもしれませんね(笑)

part3
(オグマナオト)