少し前に「ふしぎの海のナディア」のBD-BOXが発売になりました。
そして4月7日土曜日、午後5時55分からNHK Eテレでデジタルリマスター版が放送されます。

こうなってくると「BDーBOX買いたい!」という旦那さんや彼氏さんも出てくるのではないでしょうか。
まあBOXなのでお安いものではないです。なので「だめっ!」と言いたくなるかもしれないそこの貴女! ちょっと待って欲しいんだ。
ぼくは、こう言いたい。
ナディアを見てきた男子はナディアで女の子とどう接すればいいかを学んできたのだ。
「ナディア系男子」にとっては、この作品は教科書であり、恋のナビゲーター。

貴女に出会ったのももしかしたら、ナディアのおかげかもしれないのです!
 
内容はあんまり説明しても仕方ないので割愛します。というかしきれません、多すぎて。
科学好きのジャンと褐色の少女ナディアの冒険活劇なんですが、作りはムチャが多く豪快。
制作はガイナックス。原作はジュール・ベルヌ「海底2万マイル」ですが、面影は全くありません。
「ナディア」にはオトコノコがみたら興奮してしまう仕掛けがたくさんあります。
ちょっとかいつまんで説明してみます。

1・ナディアのキャラクターデザインの試行錯誤
「ナディア」が特殊な理由の一つは、「一般受け」と「オタク向け」両方を満たしている点です。
NHKでやっている・ちょっとジブリ映画っぽい、となると親も「OK」を出してくれやすいんですね。
ところが蓋を開けてみると、マニアックなメカに、明確なエロスを感じさせる褐色の少女。当時のアニメ雑誌は一気に盛り上がりました。
キャラクターデザインの貞本義行はこの前に「オネアミスの翼 王立宇宙軍」という映画も担当していますが、こちらは非常に緻密でリアル。
よくできた作品なんですけどそれほど売れなかったため、「トップをねらえ!」では降ろされて、美樹本晴彦がデザインをします。
ここでリアルな絵柄でありながら、目が大きくてかわいらしい、今の「萌え絵」に通じるものはないか、と貞本義行は模索。試行錯誤の結果生まれたのが「ナディア」なのです。
ヒロインのナディアは、一番最初の没デザイン案ではチリチリ髪とぽってり唇のデザインでした。それが日本人好みのボブカットに目のぱっちり開いたデザインに大きく変わります。
ナディアといえば思い浮かぶのはサーカスの魅惑的なへそ出しスタイル。
これも本来ならば普段着のワンピースで冒険するはずだったそうです。ところが、制作する中で「サーカスからの脱出劇」に変わってしまい、庵野秀明は一言「いいんじゃないの、それで」。その後ずっとへそ出しスタイルになります。
このスタイルが大ヒット。前後に垂らした布のチラリズム、褐色肌に映える赤い衣装と白い胸当て、細長い脚を引き立てるサーカス用の靴。
ナディアのデザインのかわいさは天元突破してしまいました。

これで性に目覚めた人は手をあげなさい!
はい。

2・一つの視点ではない多様な作り込み
ナディアはかなり変則的な制作方法を取っています。もともとの企画では宮崎駿が関わっていた(ちなみに現段階で宮崎駿が描いたナディアイメージボードは行方不明)のが急遽ガイナックス制作になったのです。
ならば宮崎アニメと違うものをどう作るか? しかも限られた時間と予算。
ここで、時期ごとに監督になる人物をがらっと変えるという手が取られました。
第一話からノーチラス号に乗るまでは貞本義行が担当。
まずは宮崎アニメのテイストから離れながら、セクシー&ユーモラスなアクション活劇へ方向づくりをします。
ノーチラス号に乗ってからは、庵野秀明が担当。メカニックへの愛情を最大限まで注ぎ込みながら、万能潜水艦ノーチラス号とクルー達を描きます。
ノーチラス号に乗ってからは一気に話が生臭くなります。人は死にますし、ドロドロとした恨みや葛藤も出てきます。
1991年当時のインタビューでも「団塊の世代からも外れたいわゆる現代っ子であるぼくらが戦争ってものを扱えるのはこれが限界」「人を殺すような行為をした人間はそれなりの扱いをしているはずですし、自殺は否定しているはずです」と語り、悩みに悩んで何度もシナリオを書きなおしたことを語っています。
15話はぼくも、今でもトラウマ的に忘れられない回でした。詳しくは放送かBDを見てください。分かる人は頷いてください。
こんな制作の仕方が続くと、クオリティを保ち続けられません。NHK側のスケジュールは動かせません。このままでは最後が破綻してしまう! 
そこで庵野秀明とメインスタッフはラストを作るために一旦制作からはずれます。かわりに急遽、樋口真嗣が起用されて、23話からノーチラス号を離れた「島編」が始まります。
今までが重いテーマだったのに対し、島編はパロディ満載の超絶アッパー系ドタバタ活劇。作画は外注が多く、残念な回もあるけれども……あれ?なんだか妙に面白い!?
これは少年少女が島で暮らすというあまりにもセクシャルなシチュエーション、そして制作スタッフの「やっていいのかどうか」を考えず暴走した結果が生んだ奇跡のようなもの。
34話「いとしのナディア」では完全に制作状況が追いつかなくなり、絵コンテを破棄。今までの映像切り貼りとキャラクターソングを組み合わせた公式MADが誕生します。スケジュールが間に合わなかったがための事件です。
ラストは庵野秀明が創り上げた、大SFスペクタクル。物語は非常にシリアスなのですが、ナディアの正体を聞いてみんなびっくり。戦闘シーンではさらにびっくり。
ばらばらな個性が集まってできたことで、何度見ても飽きの来ない作品になりました。

3・気まぐれ少女ナディア
「ラピュタ」のシータは好きという人は多いと思いますが、「ナディア」は?と聞くと腕を組んで悩む人が多いのではないかと思います。
実際人気キャラなんですが、とにかくナディアわがままの権化
主人公のジャンがどんなに尽くしても、全然なびかない。へそ曲がりと言ってもいい。え、ツンデレ? そんなもんじゃないですよ!
ナディアには、今までのアニメの女性ヒロインにはあまりなかった、女性の感情のブレやヒステリック、不安定さが強烈につめ込まれています。だから子供の時に彼女をみたら「女の子って怖い」と感じるかもしれません。
そこにはちゃんと救済策があります。それがサンソンというジャンの相談相手になってくれる大人の男性。グランディスというナディアの相談相手になってくれる大人の女性。
思春期は男女共に「どう異性に接すればいいかわからない」
でもそれって大人だってわからないんだよね、というのも描いています。大人の女性キャラグランディスはしっかりしているようで男に騙されるし片想いは実らない。もう一人の大人の女性エレクトラも冷静沈着に見えて女性のドロドロを抱えた強烈なキャラです。
庵野秀明は当時「ロマンアルバム ふしぎの海のナディア」の中でこう語っています。
「『どうしておとなになるの?』とナディアが聞いたところで、グランディスに『おとなに勝てるのはおとなだけだから』っていわせて茶化してます。そういう答えってこちらでだせるものではないですからね。見ている人にも分かる時がくるから、その時に分かればいい」
現在「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の監督を務める鶴巻和哉は「月刊アニメスタイル 2号」の中で「ソフトなオタクにまで与えたものを含めたら、影響力は『エヴァンゲリオン』よりも巨大かもしれないと思いますよ」と語っていますが、まさにそのとおり。
オタク趣味に目覚めた人。褐色肌に目覚めた人。女の子への性に目覚めた人。とても影響のあった作品です。
と同時に「女の子への接し方」を学んだ人もいるでしょう。

ふしぎのナディアから「女の子への接し方」を学んだ人は、思い出しながらもう一度見てください。
初めて見る人は、ナディアの心の揺らぎにどう対処すればいいのか、考えてみてください。
そして女性は、煮え切らないジャンを見守ってあげてください。

ナディアには「人間と科学」や「人が生き伸びるということ」などのテーマもありますが、「男女の接し方」も重要なポイント。
これは「エヴァ」を見てから「ナディア」を見ると、より一層わかるシーンが多々あります。特にラストの方は今敢えて見直してみる事で発見できる部分多いのでオススメ。
更に詳しく知りたい方は月刊アニメスタイル第2号ロマンアルバム ふしぎの海のナディアふしぎの海のナディア アニメーション原画集ーRETURN OF NADIAをあわせてみるとより一層ナディアに近づくことができます。

ちなみに。
島編に出てくる暴走ナディアは、外部から見た庵野秀明監督がモデルだそうです。
菜食主義で、突然怒り出すことがあって、……あれ? 
「ナディア」って女の子との付き合い方じゃなくて庵野秀明監督みたいな人との付き合い方……なの?
 
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(たまごまご)