妻のシミンは、国外移住したいと望んでいる。ようやく移住許可が出て40日以内に手続きをしなければならないのに、夫ナデルは、国外移住できないという。アルツハイマーの父を置いていくわけにはいかない、と。
「父を見捨てるのか」
「アルツハイマーで息子だってわかってないのよ」
娘の将来のためによい環境に移りたいのだ、と妻は語る。
「この国の環境は子供のためによくないのですか?」
沈黙。
アスガー・ファルハディ監督『別離』。
第84回アカデミー賞外国語映画賞、第61回ベルリン国際映画祭史上初の主要3部門独占受賞、第69回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞等、90以上の賞を受賞した。
イラン映画だ。
シミンは、離婚申請をするが、家庭裁判所は「もっと話し合いなさい」「些細な問題だ」と突き放し、協議は物別れに終わる。
妻は家を出ていく。
ナデルは、父の介護のために家政婦を雇う。
ある日、ナデルが帰宅すると、父がベットから落ちて意識不明になっていた。しかも、手は縛られている。
家政婦のラジエーは、いない。
この映画に悪人はいない。にもかかわらず、争いはおさまらない。
善人はいない。この映画の中で善人が出てこないということではない。
まっさらな善人でいることなど、現実の世界で可能なのか。
という問いを突き付けてくる。
人と人は、やすやすとわかり合えるものではない。という現実を描いている。