5月19日から全国公開となった映画「虹色ほたる~永遠の夏休み~」
主人公ユウタは山で豪雨に襲われ意識を失う。気が付いたら30年以上前の1977年にタイムスリップ。
夏休みの一ヶ月間、その時代に居続けなければいけない、と不思議な老人は言う。
なぜ、時を超えたのか。ユウタをいとこのお兄ちゃんとして慕う少女、さえ子。ダムに沈むことが決まった山奥の村でユウタは夏休みをどう過ごしていくのか、というところからはじまる「虹色ほたる」の物語。

川口雅幸がホームページで連載していた小説は、人気投票サイトで上位にランクインし、出版。売上は40万部を突破し、映画化。

手がけるのは「ワンピース」「ラブ★コン」「銀河へキックオフ!!」などの宇田鋼之介監督。
試写を観たときに、映像のすごさに圧倒された。終盤、虹色ほたるのシーンは、ぜひ観たほうがいい!
現代と1970年代の子ども観、原作の小説と映画の相違点、特徴的な絵柄、そして虹色ほたるのシーンなど、宇田鋼之介監督にたっぷり聞いて来ました。


これは僕が小さいときにやったこと

――ユウタはタイムスリップしたことをすぐに受け入れるんですよね。
宇田 ユウタがすんなり受け入れすぎじゃないかというのは、けっこう話し合いました。でも、現代っ子っていろいろな物語を読んでいるし、実際はすぐ受け入れるんじゃないかと。

――「え、まじでー!? ありえない……」って。
宇田 ユウタを助けてくれた蛍じいに関しても、不思議な力を持っている変なおじいさんくらいにしか思っていない。

〈一年生の時ここに初めて来た日からずっと見てきたあの風景が、あのダムが、忽然と姿を消していた(略)そんな生活の光たちに、オレは改めて別の世界に来た事を実感していた〉
〈あ! またフェードアウトする気? お爺さん待ってよぅ!〉(『虹色ほたる』上巻 川口雅幸/アルファポリス文庫より)

――映画だと、テレビや新聞の日付を見て気付く。視覚の説得力がありました。
宇田 日常会話でいちいち「いまは何年です」って言わないですからね。
――テレビに映っていた3人組はキャンディーズですか?
宇田 そうです。
「暑中お見舞い申し上げます」が流れていますけど、イントロで終わっているんです。ほんとうはもっと長い予定だった。あと、ランちゃん、スーちゃん、ミキちゃんの3人は、微妙に足の振付の動きがズレているんです。
――へええ、再現したんですか。
宇田 アニメーターの新井浩一さんが描いてくれたんですよ。
――キャンディーズが相当好きなんですね。
力入れまくりですね。
宇田 原画を見たときに細かっ! って(笑)。

YouTubeでキャンディーズの動画を観てみた。たしかに足のフリが違う。

――原作を読んだとき、まずどこを映像で表現したいと思いました?
宇田 僕は伊豆出身で、かなり田舎なんですよ。本を読みながら背景がかなりリアルに浮かんできました。

――ユウタやケンゾーたちが遊んでいた場所は宇田さんが小さいときに遊んでいた景色を参考にしていたり?
宇田 山生まれの海育ちなので、よく水遊びもしていて参考にしています。エンディングに絵だけ出てくるシーンなんですけど、ケンゾーがモリで魚をつつくシーン。これは僕が小さいときにやったことをアニメーターに説明して描いてもらったんですよ。懐かしいなあ、よく作った。
――え、モリ自作なんですか!?
宇田 そうそう。家にやじりが転がっていたので、竹にくっつける。
車の使わなくなったゴムチューブをハサミで切って細長いゴム板を作り、かすがいみたいなもので打ち付けて完成。
――夏休みの工作のよう。というか、そんなサラっと作っちゃうんですね。
宇田 ケンゾーとユウタがモリを持って走っているときに、途中おばあちゃんに引き止められて「トウモロコシを持ってきな」というシーンがあるじゃないですか。あそこ、よくみるとやじりに発泡スチロールを付けてあるんです。
――ああ、危なくないように。細かいなあ。
宇田 小さいのでほとんど気付かないんですけどね。
――ケンゾーはもう少年時代の宇田さんなんですね。
宇田 かもしれない(笑)。ケンゾーたちの村は最終的にダムに沈んでしまうことになりますけど、僕の田舎はダムに沈むような場所ではなかった。もっとV字谷のキツイところだろうなと思って、いろいろロケハンに行きました。
――「虹色ほたる」公式ページに掲載されていた梅澤淳稔プロデューサーインタビューでは、「虹色ほたる」の舞台がどこかは特に決めていないとありました。〈誰もが想っている夏休みの風景〉なので、〈「この景色は実はココがモデル」っていうのはあるんですけど、でもお伝えしないほうが良いと思います〉と。
宇田 そうなんです。だから内緒です(笑)。


何ヶ月もコツコツとホタルの点ばかり

――終盤の虹色ほたるが大量に飛び回っているあのシーンはすごいですよね。
宇田 あそこ、CGは一切使っていないんですよ。
――ええっ? あれ手描きなんですか。
宇田 すごいことになっていますよね。
――なんで手描きでいこうと?
宇田 「虹色ほたる」のキーワードのひとつがノスタルジーなんですよ。村の風景を描くときに、まず肌触り感をどうしたらいいか、どうしたら70年代の空気感を出せるのかを話し合いました。3年くらい前の東京国際アニメフェアで先行用のカットを提出したときは、セピアで表現しました。柔らかくはなったんだけど、夏っぽさがなくなってしまった。そのあと作画監督である森久司くんのアイデアで、線をとぎらせる。太い線で描く。肌触り感を前面に押し出した絵にしようという風に変化していきました。撮影はどうしたってデジタルに頼りますけど、あまりCGや撮影処理に頼りたくなかった。何ヶ月もコツコツとホタルの点ばかり描いていました(笑)。
――ははは。パンフレットや公式サイトを見ると、ホタルの光がバーっと広がっていますけど、これも全部手描きなんですねえ。
宇田 僕が子どものころに観ていたのは当然セルアニメですし、この業界に入ってもしばらくはセルアニメでやっていましたから、それに対するオマージュも含まれていますね。

赤、緑、青……次々と色を変化させながらなめらかに動く綺羅星のようなほたるの群れ。最初に試写で観たとき、虹色ほたるのシーンは絶対にCGだと思っていた。それを手描きで表現していたなんて。話を聞いたいまでも信じられない。一度つくりあげたカットを、納得がいかないと、つくりなおすその職人魂。ほたるの綺麗さだけでなく、その仕事ぶりにも圧倒されてしまった。
人物の描き方、手、帽子。後編では物語をどう演出していったのか、さらに詳しく聞いていきます。
(加藤レイズナ)