昔は週刊誌で連載されているものなど、「人気エッセイストが書くエッセイ本」が多数あった。だが、最近、「人気エッセイスト」という名をあまり聞かないし、大型書店を除くと、書店でエッセイをあまり見かけない気がする。


何軒かの書店を見てみたところ、「エッセイ」の棚を設置していない書店が多く、エッセイ本は「日本文学」という棚や「サブカルチャー」の棚、あるいは作家毎の棚に分散して置かれていたところもあった。
いまだに多数出ているものといえば、恋愛、婚活、モテ、美容系、マナー関連のエッセイ。「日本語」関連のコミックエッセイや、育児コミックエッセイなどは、一時より減っているものの、まだまだ多数ある。
また、『好奇心ガール、いま97歳』(笹本恒子)、『前向き。93歳、現役。明晰に暮らす吉沢久子の生活術』(吉沢久子)、『104歳になって、わかったこと。』(手島静子)など、高齢者のエッセイはいま、花盛りだ。

だが、一般のエッセイ本の著者は、椎名誠、佐野洋子、岸本葉子、林真理子、東海林さだお、酒井順子、70年代あるいは80年代から活躍している人がほとんど。90年代以降では、阿川佐和子、さくらももこなど、近年では三浦しをんなどのエッセイが人気とはいえ、2000年代以降に華々しく現れた専業「エッセイスト」というと、ほとんどいない気がする。

なぜなのか。ある雑誌編集者は言う。
「90年代に入って、『むかつくぜ!』『すっぴん魂』など、多数のエッセイをヒットさせた室井滋など、タレントでもそこそこ上手い人が出てきたことや、松本人志の『遺書』や郷ひろみの『ダディ』が大ヒットしたことなどもあって、職業エッセイストの需要があまりなくなったことはあると思います」
また、書籍編集者は次のような指摘をする。

「ブログなどで誰もが自分の言いたいことを発信できるようになっている影響はありますね。また、エッセイを読む人はいま、職業エッセイストのように『文章が上手い』人のものを読みたいわけではなくて、たとえば料理の世界やスポーツの世界、何か特殊な世界で一流になった人に関心を抱いて読むケースが多いように思います」

そんななか、近年の傾向として、「高齢者モノ」の他に、もう1つ気になる特徴があると、同書籍編集者は言う。
「母と子の確執や、家族の問題、うつなどの心の病気を扱うエッセイはいま、すごく多いんです。震災以降、家族などの人と人結びつきの重要性が改めて見直される一方で、非常に重いテーマとして“親子関係”を見つめる本は目立ちますね」
確かに、話題作のコミックエッセイ『母がしんどい』(田房永子)をはじめ、『私は私。母は母。~あなたを苦しめる母親から自由になる本』(加藤伊都子)、『ポイズン・ママー小川真由美との40年戦争』(小川雅代)、『母を棄ててもいいですか? 支配する母親、縛られる娘』(熊谷早智子)、『母の呪縛から解放される方法』(Dr.タツコ・マーティン)、『愛着障害 子ども時代を引きずる人々』(岡田尊司)など、母と子の問題を描くものは非常に多い。

エッセイは、ヒマなときに気楽な気分で日常のささやかな出来事や発見・考え方などを読むというスタイルから、求められるものやあり方が変わってきているのかもしれません。
(田幸和歌子)
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