日馬富士の2場所連続優勝で幕をとじた大相撲・秋場所。
賜杯を掲げ、数々の副賞を手にした日馬富士が思ったのは「これで晴れて横綱だぁ!」だったのか、それとも「この副賞の税金、どうやって払うんだよぉ」だったのか……。

そんな風に思ったのは、同じく何度も優勝を果たしたことのある一人の男の本を読んだから。第64代横綱・曙太郎『大相撲のぶっちゃけ話』がそれ!
以前、同じく宝島社から刊行された『愛甲猛 球界のぶっちゃけ話』という本を拙文にて紹介させていただいたのですが、この『ぶっちゃけ話』、知らぬ間にシリーズ化されていたことにまず驚いた。8月に『競馬番長のぶっちゃけ話 騎手仲間編』が、そして今月刊行されたばかりの『大相撲ぶっちゃけ話』……売れるんだな、ぶっちゃけ話シリーズ。みんな好きだもんなぁ、ぶっちゃけ。
というわけで本書のぶっちゃけ具合も一部のぞいてみることにしましょう。

○貸し切りで運行される新幹線。
座席順はどうなってるの?

→番付表通り、右の一番前が西横綱、左の一番前が東横綱。大関と親方までがグリーン車。

○マゲが結えなくなったら引退! って本当?
→ウソ。テッペンが禿げても後頭部さえ残っていれば大銀杏は結えるから。ってそれ見たい!

○お相撲さんは「正常位」できるの?
→ソップ(やせ)型は可。あんこ型はアウト。
ちなみに曙自身は「僕はテクニシャンだから……」と聞いてないことまで赤裸裸に語ります。

とまあ、ほんの一例を挙げただけでも大相撲の裏側はもちろん、プライベートから女性問題など、さまざまなことをぶっちゃけてくれていて非常に楽しい。
でも、何よりもぶっちゃけているのは、相撲にまつわる様々な「お金」。「三章:関取とお金」では下世話なお金の話から、真面目な税金や給料の話まで事細かに語られていて、やっぱりお金の話は引きが強い。

曙が過去に7千万円の盗難にあっていたことや、一晩で大相撲トーナメントの優勝賞金1千万円を使い切ってしまった話など豪気なエピソードもあれば、優勝時の副賞「ガソリン1年分」「ビール1年分」etc..の「1年分」ってどうやって換算するのか? など、思わず人に教えたくなるネタが満載。(ちなみに、ガソリンなら「ガソリンチケット」1000リットル分(※ただし、レギュラー)、ビールは一日1本換算での「ビール券」183枚、牛乳なら一日1リットル換算で365リットル、などなど)

さらに興味深いのは懸賞金の内訳。
「懸賞金1本6万円」という話は過去にも聞いたことがあったのですが、その6万円の内訳といえば、5千円が相撲協会の事務経費、残りの5万5千円が力士の分だけれど、内2万5千円は税金で引かれてしまって、手取りは3万円也。
そう! どこぞの落語家さんの地下室ご祝儀のように、大相撲のあれやこれやにも税金がかかってくる、というのは考えてみれば当たり前だけど、ついうっかり見逃していたこと。副賞は全てお金で換算されるため、翌年2月にきっちり税金の催促がくるという。そこで冒頭の「日馬富士の今の心境は?」になるわけです。
7千万円の窃盗にあっても驚かない曙が、3連覇をした翌年2月の納税額に驚いた、と書いてあることに驚かされます。一体どんだけの金額なのだろう……? というわけで、時計や車などの高額な副賞は、ほとんどの力士が課税されないように寄付に回しているんだとか。

八百長問題や年寄り株の不正取引など、昨今「お金」にまつわる話題・事件が多い大相撲を考察する上でも、相撲の様々な「金銭感覚」を知るいい教材にもなると思います。

と、少々下世話でおもしろなエピソードばかりを取り上げましたが、大相撲の人気絶頂期を若貴とともに支えた男だけに、横綱・曙の気概あふれるエピソードやプライドの片鱗も随所に読み取れるのも本書の読みどころ。特に貴乃花とのエピソードでは、知らず知らずの内に対抗心がにじみ出ています。

お気に入りの焼酎「鍛高譚」をオーダーし、「横綱、お待たせしました。たんたか貴乃花です」と持ってきた若い衆にパンチを食らわせるのがお約束だったり、貴乃花がベンツを買えば曙はリムジンに乗っていた現役時代の話、師匠である東関親方から「お前と同期に、偉大なる父親・名大関貴ノ花を父に持つ、花田兄弟がいる」と言われて、「オレも偉大なるタクシー運転手、ランドルフ・ローウェンの息子だ」と、若貴、とくに貴乃花に対抗心を燃やしていたエピソードを次々語る曙。「六章:ボクと若貴」を読めば、日本中が大相撲で沸いていた過日を思い越すことができ、同時に、現状の相撲人気の低迷とのコントラストが浮き彫りになってきて感慨深くもあります。


明日26日、日馬富士が70代目の横綱に昇進することで、2年半・15場所続いた白鵬の一人横綱時代にも終止符が打たれる。大相撲人気回復の契機となるのか、まだまだ日本人力士の奮起が待たれるのか……今こそ注目したい大相撲! 11月まで本場所がなくなって寂しい大相撲ファンにも、雑学大好きな方にも、ライトな読み物として『大相撲のぶっちゃけ話』、オススメします。
(オグマナオト)