『劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-』が公開されたので早速見に行きましたが、意外にも札幌地区では男女半々といったところでした。
ワールドプレミアでは女性率95%とすごかったようで。
地域差なんですかねーといいつつ、ぼくは男のタイバニファンです。虎徹さんかっこいい!

映画はまさに、タイバニファンであればお腹いっぱい大満足といった内容。
基本虎徹とバーナビーという二人の主人公が出会ってから少しずつ距離を縮めるところまでを描いた、テレビ放映版のショート版+後半はオリジナル新作シーン、といった内容です。完全新作ではないのでご注意を。
ダイジェストといってもかなり追加部分が多いので、見比べてみる楽しみもあるはず。おいしいシーンの濃縮スープみたいな内容になっています。

テレビでは序盤あまり登場シーンのなかったキャラも、たっぷり出ているサービスっぷり。ドラゴンキッドちゃん出番多くてよかったです。
個人的にはブルーローズちゃんのお尻がやたら出てきたのが嬉しかったですね。
あと、折紙サイクロンは手裏剣下手くそすぎだと思いました。かわいい。

さて、タイバニは桂正和によるキャラデザで、「NEXT」と呼ばれる能力を持ったヒーロー達が活躍する作品。

他のヒーロー物との最大の違いは、彼らが犯罪者を捕まえる様子がテレビ放映され、その活躍度合によって点数が付けられる、という部分。ちょっとメタ的です。
今回の映画版では特に序盤なので、そのテレビ番組の仕組みの部分がかなり強調されています。バーナビーもまだこの時点では虎徹に心を許しておらず、とある理由で目立つため点数稼ぎに躍起です。
スポンサーのロゴを背負って少しでも点数を稼ごうと駆けまわる。つまり全員ライバルという、いわばスポーツ選手みたいな状況。

この設定自体がものすごく面白いですし、スポンサーがリアルにある企業なのもユニーク。今回は映画版でスポンサー一部変わりました。ロックバイソンの胸に入った「太麺堂々」は必見。そうか太いのか。

ヒーローといえば、全世界で放映されている作品『アベンジャーズ』が頭に浮かびます。
『アベンジャーズ』はマーベル社のコミックスに登場する様々なヒーロー(人間・ミュータント・神様問わず)が一同に介して戦う夢のコラボレーション。
色々な作家が描いているため簡単に説明できないような複雑なコラボなんですが、映画版はその中から人気キャラをピックアップして描きました。
ここでちょっと「タイバニ」と「アベンジャーズ」のヒーロー観の違いを見てみたいと思います。

1・能力について
タイバニのNEXTは、とある一つ(ただしキャラによる)の能力に長けている、という特徴があります。
例えばファイヤーエンブレムは炎を遠距離攻撃として、ドラゴンキッドは雷撃を近距離攻撃として操ります。
ワイルドタイガーやバーナビーは通常の100倍の力を発揮できるというとんでもないもの。非常に便利です。

と同時に、それぞれ必ず欠点があります。
ワイルドタイガーとバーナビーの力は強力無比ですが、5分しか持ちません。
ロックバイソンの硬くなる能力は便利ですが、攻撃手段がありません。ブルーローズの氷結も使い勝手いいですが、銃が必要でリロードしないといけません。
スカイハイは風を自由に操るため空も飛べる上に攻撃もできる、とても便利に見えますが地味な欠点があることが今回の映画で描かれます。
能力一点特化という意味では、どちらかというと『X−MEN』に近い印象を受けます。


一方アベンジャーズ。マイティ・ソーは神様で、空も飛べるし怪力だし電撃も操れる。ちょっとチート能力気味です。
アイアンマンも高速飛行に武器装備と強力ですが、彼自体は生身の人間。あくまでもスーツの能力です。とは言えこれまた一人で戦えるレベル。
ハルクも、どこまでも飛べる跳躍力になんでも破壊できる腕力と、ありえない能力で一人で戦えるのですが、問題は怒りで暴走してしまうため本人は変身したくない、という点。
キャプテンアメリカは単体では非常に強い超人キャラなんですが、上記3人が異常に強すぎるので目立ちません。彼の能力は「指揮統率能力」の方で発揮されます。
ホークアイは弓の達人で、それをいかに現在でも使えるかが映像で生かされますが、矢が切れたらただの人間です。ブラックウィドウに関しては身体能力がすぐれているだけのスパイなので、生身の人間。それでも活躍するにはどうするかを描写しています。

タイバニはそれぞれ一長一短といった感じ。全員が長所を持ちつつ、欠点がある。その分人間味が強いです。
アベンジャーズは能力差が尋常じゃなくでかいです。ソーとハルクが強すぎる。しかし人間も神様も一緒にいて、各自がぎくしゃくしつつ、自分の主義主張を通しながら力をあわせるのが魅力です。

2・仲間意識に関して
タイバニは基本的に全員がライバルです。視聴率を取った者勝ちの、スポンサーロゴを背負ったランナー。F1をイメージするとわかりやすいかもしれません。職業が「ヒーロー」です。
なので、基本的にはつるみません。少しでも早く現場に到着すれば、点数は加算されます。一人でも多く救出すれば、点数大幅アップです。
ところが妙に全員が仲良く見えるシーンが多い。口ではライバルと言ってはいるのですが。
ここがタイバニのキモですが、なんだかんだで全員市民を守りたいという強い思いで動いています。となると、それぞれが能力を補いあってやっていくのが一番効率がいいのもわかっている。
非常に日本人的な「義理と人情」が強く出ており、全員がまずはヒーローでありたい、人を救う存在でありたいという思いで行動しているので、仲間割れしていてもお互いへの思いやりが優先されているんです。
この点は映画でも少し出ているのでぜひ見てみてください。それぞれ個で動くはずが、無言のうちにチームになっているのが非常に魅力的。
特に虎徹の不器用ながらも、「バーナビーと一緒に」「みんなで協力して」まずは人を救うヒーローじゃなくてどうするんだという熱血性が、周りの人間を巻き込んでいくのが本当に爽快です。

一方アベンジャーズは、それぞれ個人で戦える能力のヒーローばかり。特に全員で集結する必要ありません。各々が自分の信念にそって戦い、ヒーローと呼ばれるようになります。
これが、ニック・フューリーによる「S.H.I.E.L.D.」の計画で無理やり集められるのですが、もう合わないのなんの。映画の面白さの半分以上は、ヒーロー達のそりの合わなさの描写なくらいです。
非常に興味深いのはキャプテンアメリカとアイアンマンの考え方の違い。
キャプテンアメリカは「身を挺してでも戦う」という正義感の持ち主。昔気質のヒーロー気質です。
しかしアイアンマンは合理主義なので「身を挺さなくても戦える方法を考える」という理論派。これがまたどちらが正しいとも言えない非常に難しい問題です。
このへんがこじれたのがコミック『シビルウォー』。ヒーローが真っ二つにわかれて戦うはめになります。そのくらい主義主張が強い。
映画の中でも全員が最後の最後まで合わないのですが、キャプテンアメリカを中心に最終的には力を合わせるシーンはゾクゾクくるものがあります。
熱血漢がみんなをまとめていく、という面ではタイバニとも通じるものがありますが、他人を優先するよりも自分の信念を優先させるのがアベンジャーズ。
戦いが終わればさくっと解散してしまうのも、「らしさ」です。

3・敵の強さ
アベンジャーズの敵はわかりやすいです。押しつぶすほどのすごい力。手に負えない数。圧迫するタイプの敵です。全員が束になってかからないと手に負えないものばかり。
それを頭を使って分担していくのが面白い部分です。
そして、ヒーローは勝つ! 憧れのヒーローここにありです。負けちゃうくらい強い敵もいるけどね。

一方、タイバニの敵はひねったものばかりです。TV版では特に「何が強いのかわかりづらい」敵が多く、凝った作りをしていました。
今回映画版でも新しい犯罪者が登場しますが、これがいまいちよくわからないしどうすればいいかわかりづらい。なんといっても攻撃能力が皆無。
でもこれでいいんです。タイバニの魅力は「敵を倒すこと」じゃなくて、「犯罪者を捕まえることで芽生える友情」だからです。
米たにヨシトモ監督は「『TIGER & BUNNY』は引き算の魅力があって、敢えてダイナミックさを排除した」と語っています。

4・ヒーロー観
これは非常に共通した部分なんですが、タイバニ世界もアベンジャーズ世界も、市民はヒーローが大好き。
タイバニでは、町の店頭でヒーローのカードが販売されています。やはり人気はキングオブヒーロー、スカイハイ!
二位がセクシー女子高生ブルーローズ。買っていったのは多分ぼくみたいな男性だと思う。多分。
一番売れ残っているのは、序盤ではワイルドタイガーです。このへんの「男の悲哀」が全編を通じた重要な味です。
男の悲哀は映画版でさらに強調され、それが彼をヒーローたらしめる所以になっています。
市民はテレビでヒーローTVを見て応援し、カードを買います。大好きなんです。
ただし、彼らの中にはレースをやって点数稼ぎをするだけのヒーロー像をこえた、誰かの役に立ちたいという熱意があります。
危機があり、必要があれば、彼らは点数稼ぎをしながらもいつだって手を取り合って協力するでしょう。
市民の間では人気の差こそあれ、全員がヒーローです。
ただ、バーナビーが自分の素顔を丸出しにして登場しているのは、「ヒーローは正体を隠すもの」という掟破りですね。

アベンジャーズもラストで、それぞれのキャラが大人気になります。街を、地球を救ったスーパーヒーロー!
取ってつけたようにスタン・リーも登場。ぜひ映画登場回数ヒッチコック超えを狙ってほしいものです。
タイバニと違い、彼らはそれぞれ自分の信念があって戦っています。ですからともに手を取り合うことがありません。
たまたま、その接点があった時に一緒に戦った、というのが映画でのアベンジャーズ。
特に人気の差については描かれていませんが、刺青いれるような人までいたので相当なものでしょう。
もともと別々な作品からの集合なので、元の作品に戻っていくと考えたらそのとおりなんですが、チームとしての人気というよりは個々の人気という方が合っている気がします。

タイバニ自体がデザインや世界観はアメコミヒーローが基盤にありますが、熱血根性論とオヤジの哀愁の部分はとても等身大で、日本人にも身近な感覚。
アベンジャーズはその点神様いるくらいなのでもっと緊張感があってシビアですが、キャプテンアメリカやアイアンマンのちょっとした滑稽さはちょっとだけ身近に感じさせられます。
一番違うなあと感じたのは折紙サイクロンとドラゴンキッドの存在。内気で後ろ向きだけどがんばる少年と、元気で明るい少女って、アメコミヒーロー物だとまれにしか出てこないかも。
時代的にも元祖ともいえるヒーロー物と、それを題材にしたメタ的ヒーロー物。群像劇として、異なる点と共通する点、他にもたくさんありますので、ぜひ見て確かめてみてください。
(たまごまご)