1月26日(土)に映画公開とスペシャルドラマが放送される「ストロベリーナイト」。
竹内結子主演のこのシリーズは、2010年スペシャルドラマ、2012年に連続ドラマと着々と成長を遂げ、このたびの映画化の運びとなった。

原作は、ベストセラー作家誉田哲也の警察小説・姫川玲子シリーズ。12年の暮れの時点で、シリーズ累計240万部を突破している人気作だ。
警視庁捜査一課殺人犯捜査十係主任である姫川玲子(竹内結子)が、十代の時に受けた大きなトラウマを抱えながらも、男だらけの警察の中で、猟奇的な殺人事件の捜査に挑んでいく。
今回は、原作でも姫川玲子、最大の事件ともいえる「インビジブルレイン」の映画化で、玲子が公私共に追いつめられる。
連続殺人事件の捜査線上に、柳井健斗(染谷将太)という名が浮かび上がったが、上層部から深追いするなと命令が下る。不審に思った玲子は命令に背き単独で捜査を続ける。
そこで出会った牧田(大沢たかお)という男のことが玲子は気にかかってならない。彼との出会いが玲子を破滅の道に導いていく……。
いくつもの事件(テレビスポットでは「4つの連続殺人事件」とうたっている)が複雑に重なり合っていることと、玲子の理屈では測れない行動で、最後まで興味が尽きることがない。ラストの、えーーーー、そんなことに!?という衝撃度も大きく、ミステリーとして楽しめることはもちろんだが、俳優陣の魅力、全編雨で情緒たっぷりの美しい画面(監督は『キサラギ』の佐藤祐市)などが映画を盛り上げる。
さらに、映画だけでなくドラマから引き継がれている、映像版「ストロベリーナイト」の抗い難い魅力は、まだ他にもあった。
それは「女子の萌え」に強くアプローチしていることである。
映画では、姫川玲子が簡単に割り切れない正義と悪の間で揺れ動くが、作品としては、この「萌え」を選択したことによってヒットへの道へと大きく舵をとったといえる。
では、この大事な「萌え」要素を挙げてみよう。

〈姫川玲子の、だって女の子だもん〉その1:紅一点である。

「ストロベリーナイト」は女性キャストがほぼ姫川玲子のみ。あだ名も「姫」である。男だらけの警察という組織の中で、がんばって異例の出世を遂げた玲子は、班長として、年上から年下まで男たちを引っ張っていく。

最初は、女なんて……と反抗的だった部下も、次第に彼女を認めていく。
当然、上司も男だらけ。そして上司と言えばとかく面倒くさいもの。玲子は、融通の効かない上司たちにも果敢に意見し、自分の道を切り開いていく。映画でも、上層部のナットクできない命令に、玲子は従わない。
未だ男性社会の現代に生きる女性が大いに感情移入できる設定である。


〈姫川玲子の、だって女の子だもん〉その2:悩みを抱えている。

7センチヒールで闊歩して、真っ赤なエルメスのオータクロア(中古85万円をローンで購入という設定)を持っている強気の玲子だが、十代の時に受けた大きなトラウマがあって、それが彼女を苦しませている。でも、誰にも言わず健気にひとりでそれを克服しようとしているのだ。
そのトラウマとは何か? というと、ケータイ小説全盛期によく用いられたもの。
映画では、このトラウマが、事件に大きく関わってくる。テレビシリーズで一旦トラウマを乗り越えたはずだった玲子だが、彼女の心にはまだ根深く巣食っていて、それが牧田との出会いで目覚めてしまうのだ。


〈姫川玲子の、だって女の子だもん〉その3:取り巻く男性が魅力的。

その1の紅一点につながるが、女性ひとりで周囲が男性だらけという設定に置いて、玲子を取り巻く男性キャストが、いい男ぞろいなのだ。
なんといっても姫川班。
筆頭は、玲子の一番の理解者・菊田。忠犬のような菊田を、西島秀俊が演じたことで、原作の菊田像を超えて人気沸騰となった。
一見草食系で優し気だけど、腕っ節も強く(先日の大河ドラマ「八重の桜」の西島さんの筋肉見ました? 凄く鍛えられてかっこよかったですよね)頼れる菊田。
玲子よりも年上だけど、ちょっと抜けたとこもあって、からかうことで気持ちも晴れるし、基本なんでも言い合える。ソフトツンデレプレーが楽しめるのだ。がんばってる私をずっと見つめていてくれる人がいたらいいなあという願望を満たしてくれるのが西島菊田である。

次に、お父さんのように頼れる石倉。頼もしい大型犬のような存在。彼もまた一見温厚そうだけどガタイもでかく、足下の悪い現場でさりげなく玲子を支えてくれる。そんな石倉に宇梶剛士(この方も武勇伝もっているから、こういう役にピッタリ)。
テレビシリーズでは、トラウマによって両親が自分を疎ましく思っているのではないかと悩む玲子にとって、愛娘家の石倉はうらやましい存在のようだった。

エリートでちょっと問題児の葉山。最初は自分を懐疑的に見ていた人物が、次第に心を開いていく様は、当人には快感であろう。血統書つきの澄ました犬みたいな葉山役は、小出恵介(小出さん、慶応大卒ですから)。

そして、かわいい弟のような湯田。小型犬のように、いつでも元気に走り回っている姿が癒される。丸山隆平が演じることで、ただのおバカじゃなくて、空気読めてない役を引き受ける賢さのある湯田(なにせ警察官ですからね)になっている。

こんな魅力的な4人の部下の支えがあってこそ玲子は頑張れるわけだが、映画の玲子は、大切な姫川班を窮地に立たせてしまう。
その原因となる人物が、大沢たかお演じる牧田である。
牧田は、玲子が調べている殺人事件に関係ありそうな謎の人物・柳井健斗の知り合いとして玲子の前に現れる。不動産会社の社員と名乗るが、彼にもまた深い闇があった。牧田は、孤高の狼のような存在感を漂わせる。

牧田の登場で菊田ファンはハラハラ。菊田との同級生ラブ的なものを夢見るファンとしては、牧田と玲子の危険な関係は刺激が強すぎる。が、逆に、牧田のような影のある色っぽさを好む女性ファンもいる。
映画「ストロベリーナイト」について、菊田か牧田かそれが問題だと玲子以上にファンは悩んでいる。でも、この悩みこそ萌え。女子は「花より男子」的な展開(ふたりの男性の間で揺れる)が大好物なのだから。
「ストロベリーナイト」の世界は、警察ドラマという皮をかぶった少女漫画とも言えるのだ。(木俣 冬)