本年度流行語大賞に「重版出来!」がエントリーされないかな〜。

本を売るために奮闘する編集者や営業マンの姿を描いた漫画「重版出来!」(松田奈緒子/小学館)のヒットによって、にわかに「重版」という言葉にスポットが当たっています。


「重版」とは「売れてる」証。出版用語であります。村上春樹の「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年」は発売日前に「重版」したことがニュースになりましたし、大泉洋も著書「大泉エッセイ〜僕が綴った16年」で「重版」記念イベントを行いました。
「夢の印税生活」という言葉がありますが、村上さんも大泉さんもまさに夢の印税生活者といえましょう。印税は「重版」することに増えていくのです。 
私が買った「重版出来!」は3刷となっていて、ふと本棚から手に取った白洲正子の「かくれ里」は2013年6月3日に第47刷となっています。


本を出す人なら誰もが夢見る「重版」。重版王におれはなる! そんな憧れ心をくすぐるイベント「どうすれば重版するのか」イベントが、著書は多いが重版童貞で、新著「男の鳥肌名言集」で初重版を狙っている米光一成さんと「名言力」が11刷、「中日ドラゴンズあるある」が3刷と重版打率の高い大山くまおさんによって先日、下北沢B&Bで開催されました。
ちなみにワタクシ木俣(「重版出来!」の書店員木俣さんと髪の長さが近づいてきました)も不肖ながら重版経験者です。手がけた「庵野秀明のフタリシバイ」「リッチマン、プアウーマン」「ラストホープ」「SPEC公式解体新書」、関わった「蜷川幸雄の稽古場から」などが重版しておりますので、もっと重版したくてこのイベントに紛れ込みました。ふふ。

イベントでは、大山さんがまず重版の定義を説明してくれました。
大山さんは出版営業に関する書籍まで手に入れて重版を研究しています。さすが重版王。この余念ない研究が重版に導くのですね。

重版とは初版と同じ版を使い、同じ判型、装丁で刷り直すこと。同じ版を使うことでコストがかからず利益率が高い。
著者は重版すると印税が支払われるのが出版社のデフォルトになっていますから重版したいと思うのは当然ですが、お金じゃないんだ、作りたい本を作りたいんだってことであれば、重版しないで食える方法もあるにはあるそうです。

重版する方法、しないでも食える方法、いろいろとイベントの中で気になった点を抜粋します。

1.出版社ボヘミアンでしのげ!
最初の一冊の企画が通って出版し、売れなかったら次の出版社にシフトする。
それの繰り返しで10年くらいはなんとかなる。でもその先はない。
ワタクシの先輩ライターは「赤字にしなければなんとかなる」って言っていたけれど、
まあできたら黒字にしたいですよねえ。

2.売れてる作家に頼れ!
米光さんが「重版するまで借りがある。
損失を与えている感じがする」と言っていました。
「村上春樹のおかげで本が出せているような気がする」と。
そこで大山さんが「winkの売り上げでフリッパーズギターがCDを出せたみたいな」とかぶせてきて場内を沸かせます。
厳しい重版の壁にかわいくぼやく米光さんとお得な情報を盛り込んでくる大山さんのトークを聞いているだけでも、このイベント面白かったです。

話戻しまして、売れている作家の売り上げに頼って実験的な本を出せたらそれに超したことないんじゃないかと思いますがどうでしょうか。
ワタクシの経験談で、ほかの売れてる本の売り上げで経費やギャラを補填してもらったことがありますんで。


とはいえ、こればっかりやっていると残念感漂うのも事実。死んでるみたいに生きたくないですし。朝ドラ「あまちゃん」で有村架純が薬師丸ひろ子のカバーでデビューしたいと言うと「君にはプライドがないのか!」と一喝する古田新太の場面を思い出しました。
そんなことしているとイベントでも言及された「使い捨てられるライター」になってしまいそうです。

3.異業種著者が重宝される

そうなんです。今、ライターは使い捨てられて、異業種著者が重宝される という話題もあがりました。

カリスマ社長や教授、医師などがノウハウ本や生き方本などを出したほうが部数が見込めるからです。もはやライターが生き残る道は、異業種著者のゴーストライターとしての道しか残っていないのでしょうか!

ああ、隣でイベントを見ていた編集者アライユキコさんがだんだんうなだれていきます。
出版業界人にとって見たくない現実が突きつけられていくからです。
在庫をしまっておく倉庫代がハンパないから重版しないほうへ意識が向いているとか、重版してもそもそも印税率が下がっているとか。夢も希望もありません。目の前は果てしない荒野ばかりです。

それでも米光さん、大山さんは、重版する方向でその方法を考えていきます。

4.重版は総合力

「重版出来!」1巻の最後のほう、「売れた」んじゃない「俺たちが売ったんだよ!!!」という見開きバーン!!!のページ。書店員さんや営業さんたちがかっこよく描かれ、作家と編集者だけでは売れるものではないことが語られます。
しかし現実では「作家と編集者」と「営業と書店員」との間に流れる目黒川くらいの川はなぜかなかなか渡れないのです。営業と書店はよく飲み会を行っているそうですが作った側とはなかなか関係がつながらないと大山さんは言います。
大山さんは「中日ドラゴンズあるある」で名古屋の書店を訪問したそうで、やっぱり「売ってる」人たちとつながることって大事だと思わされました。
米光さんは、一緒に仕事をしていた編集さんが異動したり退社したりで、わずかのつながりも途切れてしまうことを気に病んでいました。
「すべては運なんだよ」とまた「あまちゃん」の古田新太の声が響いてきますな。

ワタクシの経験談ですが、自著「挑戦者たちトップアクターズ・ルポルタージュ」が出たとき、営業の方に会わせていただき、映画演劇書コーナーだけでなく生き方本のところなどに置いていただけませんか?と相談したら、4月の新入学シーズンに向けて動きましょうってお話になったのですが、その翌日、3.11東日本大震災が起こってしまいうやむやに。ちょっと悲しい記憶です。でも時間をとって作戦会議をしてくださった営業様、編集様には感謝しています。

やっぱり売りたい。米光さん、大山さんは知恵を絞ります。


5.白人の子供を表紙にすると売れる

根拠はわかりませんが、白人の子供が表紙の本の奥付を見ると、見事に重版していると大山さん。
装丁は重要。「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」は装丁に相場の何倍もの予算をつぎ込んでいるという話も出ました。

6.地元ネタの本を作る

地方の出版社は地元のことを書いた本を売りたがっているので、そこに目をつけましょう。
おりしもお盆、地元に帰ってネタ探しちゃいますか!

7.テレビで宣伝する

米光さんは著書「男の鳥肌名言集」がテレビで紹介された途端Amazonの動きがよくなることを体験したそうです。そこで帯に「テレビで大反響」と入れることになりました。
ある意味、帯だけ先に重版! おめでとうございます。
米光さんは地元の本屋で毎週、「鳥肌名言集」を買っているためずっと平積みになっているとか。大山さんにしても米光さんにしても重版王になるために地道な努力をしているのですね。客席からも、作家自ら書店に出向き味方を増やし見事に売れるようになった感動エピソードが語られました。
さあ、ふたりの背中を追っていこうじゃありませんか。いや、ふたりが重版王になって、その利益で本を出してもらうのがてっとり早いかもしれませんネ。(木俣冬)
白人の子どもを表紙にすればベストセラーだ「どうすれば重版するのか」7つの法則
それぞれの著書を手に。左・大山くまお、右・米光一成