叙情的に見えて、とても丁寧に状況が説明されている。映像化するならこれ以上ないくらいわかりやすいだろう。しかし僕はここで引っかかってしまった。説明の丁寧さに加えて、この段階では正体のわからない「殻」の存在に引っかかってしまい、気づけば『マルドゥック~』は“積ん読タワー”入りしてしまっていた。
しかし今年の2月、『聲の形』のショートレビューを書いた直後、「大今良時」がクレジットされている唯一のコミックス『マルドゥック・スクランブル』を読んだ。受信メディアが変わったせいか、全7をあっという間に読了し、その後久しぶりにページを開いた原作もサクサク読み進めることができた。脳内に“コミックス補助線”が引かれ、瞬時に映像が浮かぶのだ。
この作品について言えば、原作とコミックスでディテールに多少の違いはあれど、ストーリーの大きな流れは同じだ。ポイントは「作画」ではなく「漫画」担当の大今良時という作家の存在にある。
「あの作品は、冲方先生の情報量がすごく多くて、表現もさすがに的確です。ただし、マンガだからこそ伝わることもある。なので、ところどころで漫画版にしかないシーンを足したり、変更したりさせていただきました。そういったシーンを大きく変えたり、カットする場面は冲方先生に相談させていただきました。読み込んでいくうちに、私は主人公のバロットを幸せにするために描くんだという方向性が、自分のなかで明確になっていったのも面白かったですね」(大今氏)。