●オジー・オズボーンと一緒の舞台で
和嶋:ブラック・サバスを一番コピーして、ああいうサウンドを日本語でやりたいっていうのがきっかけでしたからね。オズフェスでそのブラック・サバスと同じステージにいるということは、それ以上のステージはないわけですよ。
夢のようでしたね。

───終わった後、「人間椅子コール」があがりましたね。

鈴木:まあ、最初で最後じゃないですかね(笑)。

8月某日高円寺のカフェに集まった3人。言葉を選びながら、トツトツとギターの和嶋が語る。繰り広げられる多大な知識と世界観を、ベースの鈴木とドラムのナカジマは真剣に聞いているような、そうでもないような。

イカ天でデビューし、先日ついにオズフェストという大舞台に立った3人。二十数年やっているバンド経験でも、初めてのこと。そして、新譜『萬燈籠』が発売になったばかりだ。

和嶋:初めて聞いた人もいっぱいいるはずなんですよ。バンド名知ってても音知らない人も相当数いたはずなんですけど、「ああ、ロックファンに認知された!」という、相当なうれしさで、鳥肌立ちました。オズフェストに出るって決まった時点で、今まで聞いたことのない人の前でやるわけですから、その中の何人かはCDで聞いてくれるだろうと思いまして。
今まで人間椅子がやってきた音楽を、より凝縮したようなアルバムになれば、と心がけましたね。

●ねぷたにもの申す!
───最初に聞いてすぐ覚えたのが「ねぷたのもんどりこ」です。生首とか髑髏とか。

鈴木:これは、実際のねぷたの絵です。ねぷたは美しい絵もあれば、そういうのもいっぱいあるんですよ。「ねぶた(立体の形のもの)」と違って、扇型で絵を描くんですけど、この曲はぼくの好きな「ねぷた」のパターンなんですよね。
こういうドロドロしたのが、昔は多かったんですけど、最近減ってきた、それを危惧した歌でもあるんです。ねぷた見たことない人が、こんな絵があるんだったら見たいんじゃないかと思ってね。

和嶋:ぼくら子供の頃、こんなんばっかりでしたよ。

鈴木:さらにその昔、道場対道場みたいな構図があったんですよ。「けんかねぷた」ってのが明治時代にあって、相手を威嚇するために、おもいっきり生首系とか、気持ち悪いのを作ったんです。おれらのほうが怖いだろ!っていう。


和嶋:発散の場だったんでしょうね。

鈴木:実際に死人も出るくらいだったんです。ところが今は観光のお客さん用に美しいのになって。うーん、オレからしたらちょっと……。なんかねえ、こうじゃねえだろっていうのが多いね。

和嶋:ほんと、昔「ねぷた見に行くな」って言われたりした人いっぱいいたらしいよ。
子供の頃、ああいうの見に行っちゃいかん、って言われた。

鈴木:ほんと? へぇー? 弘前生まれで?

和嶋:喧嘩とかあるし、野蛮だから。危険だから子供は行くなって。

●日本語ロックバンドとしてのこだわり
───そこからきての「新調きゅらきゅきゅ節」。

和嶋:「ブンガチャ節」っていう北島三郎さんのデビュー曲を聞いて、腰が抜けるほどかっこいいと思いまして。それをロックでやりたいなってところからはじめたんですよ。
オズフェスをきっかけに外人も聞いてくれるかもしれないから、今回のCDは日本的な部分もたくさん入れたいと思ったんです。「きゅっきゅきゅー」というのは日本人にしか作れない曲だと思うから。独特の日本語の表現がありますから、それをロックに乗せてチャレンジしたいなということです。

───「猫じゃ猫じゃ」がはいって、「蜘蛛の糸」と続くわけですが、この流れすごいですよね。

和嶋:後でいいましょう、その流れは!

●地獄とはなんぞや?
───は、はい! では楽曲の話を。「蜘蛛の糸」は絶叫している感がありますね。

ナカジマ:キーが高いですよね。詩を書いた和嶋くんも、今まで俺が歌った曲とは違う雰囲気の詩を書いてくれて。

和嶋:全体にハードなロックで攻めたかったんですよ。でやっぱり、ノブにも地獄の歌を歌ってほしくて。ノブしか歌えませんよこれ。あんな絶叫はないです。楽曲もモダンな感じになったと思いました。

ナカジマ:歌を録る時も、研ちゃんがこうやって歌ったほうがいいんじゃないかって言ってくれて。何も考えないで歌うと、さわやかーなロックになっちゃうんですよ(笑)

和嶋:地獄というのは、ぼくは自分が作り出しているものだと思っていて。地獄的な気持ちになれば、地獄に送られているような感じになるし。

18世紀、スウェーデンボルグという学者が、「霊界日記」というこの世に居ながらにしてあの世を見てきたことを書いた本を出版。彼を「天国とか地獄とかを遍歴した人」と和嶋は説明。地獄とは「地獄的精神」の人が自らが創りだした世界、らしい。

和嶋:その人によるといろんな段階があるらしいんです。この世にすごく執着がある人は、あの世に同じ状態を創るんですよ、ずーっと。なんかのスイッチが変わるまで。地獄的感覚でいると、地獄を創りだしてそこにいるんですよ。今と同じ感覚であれば、普通にコーヒー飲んだりしているのを、あの世に創ってずーっと続けている。もう少し感覚が変わると、清らかな世界を創ったり。多くの心霊家、神秘思想家がそんなことを言っていて。20世紀になっても、アメリカにロバート・モンローと言う人がいまして。モンロー研究所っていうのが割と有名だと思います。ヘミシンクってやつ。モンローさんも幽体離脱してみたら、やっぱり同じだった。精神が変わるとその地獄は無くなるらしいんです。

───無くなってしまうと。

和嶋:結局想念が創りだした世界なんです。そこにいる人達が地獄的精神じゃなくなると、地獄は無くなる。「蜘蛛の糸」は、地獄的精神……のことを、歌ってみようかなとちょっと思って。すいませんそんなことを歌わせて。

ナカジマ:いやいや、ぼくは日野日出志先生が大好きですから! 地獄イコール人間椅子ではないですけど、地獄を表現することは得意分野なのかなあと改めて思いましたね。

●和嶋、夢をみる
───鈴木さんの作品は、地獄的精神ですかね? おどろおどろしいイメージが強いです。

鈴木:ぼくの地獄は、KISSの地獄シリーズくらいの地獄です。どんよりした歌詞を書く時に、使う手段みたいなもんです。

和嶋:地獄的精神だと曲作れないですよ、多分。創作活動できませんもの。

鈴木:ぼくは詩のセンスはないんですよ。ほんとは全部和嶋くんに任せたいんです。和嶋くんがそれを許してくれないんですよ。

(笑)

和嶋:いや違うんです。ぼくが地獄的なことを書いても、多分万人に受け入れられないなって思うんですよ。だからみんなの協力が必要なんです。

───「十三世紀の花嫁」の語りもいいですね。

和嶋:「十三世紀の花嫁」は、曲を夢で聴きまして。その続きを聴きたかったんですよね。

───どんな夢ですか?

和嶋:寺山修司さんの「書を捨てよ町へ出よう」って映画の冒頭で、主人公がモノローグを客席に向かってしゃべるんですよ。その人が、ぼくの夢のなかで、ラジオに出ていて。「今度新曲出しました!」って。その人の新曲っていうのが、「やさしさってのはなんとかだ」っていう、ハードロックに乗せて詩を語る新曲だったんですよ。それ一番の途中くらいまで聞いて目が覚めちゃって。それで続きが作りたくなったんです。だからサビ苦労したなあ、どんなサビなんだろう?って。

●アルバムの構成に注目していただきたい
───さっきおっしゃっていた、曲の流れについてお聞きしたいです。

和嶋:はい(メモを取り出す)。一曲目は「此岸御詠歌」でライブSEと同じように。ハードなロックにするというコンセプトだから、ヘビーな感じで始まりつつ、間にいろんな展開があって、最後またヘビーにするという全体の流れがあるのがいいと考えました。ちょうど和風めの曲が今回出来たので、真ん中辺りに和風を入れまして。「桜爛漫」からですね。日本の国花ですから。

───「桜」そして「ねぷた」、「ぶんがちゃ」。

和嶋:「猫じゃ猫じゃ」は江戸の端唄・小唄ですね。芸者さんが弾くようなやつです。それに「猫じゃ猫じゃ」ってあるんですよ。その後に新しい展開でノブくんの芥川「蜘蛛の糸」をいれて、文芸方向にぐっといきまして。そして「十三世紀の花嫁」は寺山修司。文芸・サブカルときまして。

───そして「月のモナリザ」ですね。

和嶋:このへんでSF的な方向にしてみたんです。「時間からの影」と対になっていて、メドレーみたいになってるんです。ちょっと地球から離れた感じになりまして、締めくくりにまたぐっと戻る感じで。

●人間椅子とラヴクラフト
和嶋:「時間からの影」はラヴクラフトなんです。

───「静寂(しじま)には無慈悲な神が御座(おは)す」。

和嶋:ラヴクラフトって古い英語を使うんですよ。じゃあぼくも古い日本語を使おうと思いまして、古語を使ってみたんです。

───曲を作りの際、本の影響が大きいと思いますが、鈴木さんはどのようなものを読まれてきたんですか?

鈴木:歌詞になるような本は読んでないですよぼくは。推理小説ばっかり読んでて。ずっと島田荘司が好きで、最近では真梨幸子とかが好きなんだけども。こんな難しい詩が出てくるようなページは1ページもないんですよ。でもこれせっかく「時間からの影」やるから、帰省する時にラヴクラフト電車で読んだんだけど、すんごいクドくて。

(笑)

鈴木:いやあー読みずれえ、と思って。面白いんだけど、何回も何回も同じ事言うのな。

和嶋:でも、ラヴクラフトは「削れない」って書いてるんだよね。最小限にしてああなったの。

鈴木:あれが最小限なんだ? 

和嶋:当時全然読者いなくて、全然売れなかったって。

鈴木:そりゃそうでしょう。ほんと最後ガーン!と来るんだけど、感動は最後の二行か三行で、あのために何百ページもすごいクドいこと書いてて。

和嶋:途中のクドいじわじわってとこがいいんですよ。ラヴクラフト全集は高校生の時によく鈴木くんと貸し借りしてましたよ。

鈴木:最初に読んだのは「インスマウスの影」で、「ダンウィッチの怪」も、これはすごいってことで、七枚目の『頽廃芸術展』に入れたんだったかな。

後編「日野日出志先生と握手」編に続きます。

(たまごまご)

「萬燈籠」 人間椅子