ハート型を見ると心がときめく私は、いまだ乙女といえるだろうか……。

見た目は普通のレモンのようだが、スライスするたびに可愛いハートがお目見えする 「ハート型レモン」は、国内では唯一、広島県で生産・販売されている。
広島といえば、牡蠣やお好み焼きが思い浮かぶが、レモンの生産が日本一と言われ「えっ、そうなの?」と驚いた。

「初恋はレモン味」とはよく言ったもので、紅茶に浮かぶハート型のレモンを見ると、昔の初恋を思い出せるだろうか……。さて、こちらのレモンは非常に手間をかけ育てられている。この夏、新しい型枠が開発され、以前よりは栽培の手間がかからなくなったというが、生産現場では様々な苦労があったそうだ。

従来の型枠だと半分程度の果実しかハート型にならなかったり、輪切りにした時にハート型になる部分が半分以下だったり……。う~ん、おしい!

そこで農家の皆さんにとっては、おしい! ハート型レモンを、おしくない! ハート型レモンにするため、広島県立総合技術研究所西部工業技術センターが平成23年から型枠の開発に着手。


ここで力を発揮したのは3Dプリンターだ。同センターでは、「おおよその寸法が決まった段階で3Dプリンターを使用して試作品を作り、見た目や寸法形状を細かくチェック。レモンの生育テストを繰り返し、改善点を見つけて修正を行い、生産者にも利用者にも喜ばれる型枠の開発を目指した」という。

理想の型枠に仕上げるには何度も形状の変更を求められるが、3Dプリンターをうまく利用し時間と経費を削減。果実全体を包むような形状のため、レモンが大きくなる力で型が壊れないようにするため、強度はあるが軽く仕上げることに苦労したという。

型枠はレモンの果実がまだ柔らかく3cm程になった6月下旬~7月上旬に取り付けるが、従来の設置時間が2分かかったのに対し、新しい型枠はたったの30秒。
出荷できる果実も8割以上に向上し、ハート型の輪切りが取れる部分も大幅にアップ。端のほうまでハート型が楽しめることになった。「枠できちんと整形できている部分が約5cmですので、3mmでスライスすると15~16枚のハートが取れる計算です」(同センター)。

シーズンは10月から翌年3月頃までで、販売数は年間約3000個と非常に貴重な代物だ。贈答品や業務用としての利用が多いそうだが、「カフェコムサ」のカフェ等でレモンティーに添えて提供されたり、ネット通販でも販売されている。

どうしてハート型のレモンを作ろうと思ったのだろうか? 「偶然、レモンの枝に挟まれて大きくなった果実がハート型になっていたのを見て、型枠に入れたらハートの形の果実になるではないかと思ったのがきっかけです」。
偶然の産物が秘める力は未知数!

(山下敦子)