12月4日、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録された。でもちょっと待った、「和食」ってなに?
そもそも、今回の登録は「日本料理アカデミー」(京都の料理人が中心になっているNPO法人)が始めた運動がきっかけ。
そのせいなのか、マスコミで紹介されるのは老舗料亭の料理のイメージ。でも、それだけが「和食」ではないはずだ。
農林水産省のホームページでは、「和食の特徴」として以下の四点が挙げられている。

・多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
・栄養バランスに優れた健康的な食生活
・自然の美しさや季節の移ろいの表現
・正月などの年中行事との密接な関わり


うーん、わかったようで、よくわからない。そこで、農林水産省の食文化・連携推進班の担当者に「和食の定義ってなんですか?」と聞いてみた。
「今回の無形文化遺産登録で、『じゃあラーメンはどうなんだ?』といった問い合わせもいただいています。
ただ、今回の登録では、『何が和食か』ということは議論になっていないんです」(担当者)
えっ、そうなんですか?
実は、今回登録されたのは、「食に関する慣習」。ユネスコの無形文化遺産登録が対象とするのは「無形」の文化なので、特定の食事を申請・登録することはできない。

たとえばおせち料理。「おせちが和食かどうか」はそもそも問われない。ユネスコが登録したのは「正月におせち料理を食べるという文化」となる。
「赤飯」ではなく、「おめでたいときに赤飯を食べる文化」。

「会席料理」ではなく、「人をもてなすときに会席料理を出す文化」。
「ちらし寿司」ではなく、「雛祭りにちらし寿司を食べる文化」。
これらを「和食」として登録したのだ。
もっと身近な例で考えると、「ご飯」や「味噌汁」ではなく、「ご飯・味噌汁・おかずといった組み合わせを基本とする文化」を和食としている。この際の「おかず」が何であるのかは問われていない。

今回の登録に至るまでに、日本料理アカデミーを中心に「会席料理」を和食(日本食)と定義し、申請しようとする提案もあったという。
しかし、そうしてしまうと結局特定のもの(「無形」ではないもの)を申請してしまうことになり、登録されない。あくまでも対象となるのは社会的慣習(文化)だ。
これは他の国も同じ。フランスもメキシコもトルコも、食事自体が登録されたのではなく、その食事をめぐる文化が登録されている。

しかし、ここでまた疑問が生まれてくる。今回申請されたものは、いつ頃までに定着した文化なのだろう。
日本の食文化の多くは江戸時代に確立されたものだと言われているから、江戸を基準にすればいいのだろうか?
「今回の申請は、特定の時代を指定したものではありません。概念的には、江戸や明治は含まれます。ただ、江戸時代の食生活が栄養学的にバランスがよかったかというと、必ずしもそうとは言えない。栄養学を意識することができるくらい安定したころをイメージしてもらえればいいと思います」(担当者)
第二次世界大戦後、日本が再び豊かになってきた高度経済成長期。この辺りで定着・確立した食文化のイメージを「和食」ととらえておけばよいだろう。

ちょっと気になることがある。
春に桜を見ながらお酒を飲んだり甘いものを食べる文化は「和食」といえそう。人々のあいだに広く定着し、四季と関わり合いもある。
それじゃあ、12月24日にクリスマスケーキを食べる文化は「和食」になるのだろうか? 質問すると、担当者はこう返した。
「確かに定着しつつありますが、今の時点では、和食には該当しないと思います。でも、子の世代、孫の世代と、次の世代に移り変わるにしたがって、和食の文化と考えられることもあるのではないでしょうか。……個人的には、『それは和食じゃないんじゃないかな』と思うんですけど」
11月11日のポッキー、クリスマスのケーキ、バレンタインのチョコ。
いつかこれらが「和食」として無形文化遺産になる日もあるかもしれない。
(青柳美帆子)