「絶対、運命、黙示録!」
後ろのスクリーンに、天井に、『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』の映像が流れる。J・A・シーザーのコンサート「大鳥の来る日」は、『ウテナ』で使われた「絶対運命黙示録」から始まった。
12月20日、豊島公会堂。開演前、近くの会話が聞こえてきた。「なんだか今日は若い人が多いね」「なにかのアニメに使われたらしいよ」「へえ……」。会場には、演劇実験室・天井桟敷の関係者や、元役者、ファンなども多くいる。
その一方で、十代や二十代前半の人の姿も見える。そのうちの何割かは『ウテナ』から入ったファンだ(私もその一人)。シーザーが主宰する演劇実験室・万有引力の役者やスタッフの中にも、『ウテナ』からシーザーに出会った人が何人かいるのだそう。
コンサートは全六部構成。
第一部の1曲目は「絶対運命黙示録」。『ウテナ』で使われた曲だが、もともとは万有引力の演劇「カスパーハウザー」で使われた曲。
「死して復活 プロメティウス星体 永生(衛星)登録」
「プロトゴノス わたし 宇宙 生命 黙示録」
「起源の中の無限わたし 二つ月と太陽に」
「宇宙開闢わたし誕生 わたしのわたしが わたしプラクリティ」
「原初の起こり 受胎 モナリザシオンと誕生 円満愚息 球体 わたし 宇宙 原理」
2曲目「天使創造すなわち光」、3曲目「ワタシ空想生命体」と、続けて『ウテナ』の曲が流れたあとは、第二部へ。シーザーが中央の椅子に出てきて、ギターを持つ。
4曲目「煙草極楽浄土」から8曲目「ジンギスカン」まで、ぶっ続けのソロだ。途中の挨拶(MC?)で、「声がもつようにがんばります」と言っていたシーザー。その心配は杞憂に終わった。
第三部になると、また雰囲気が変わる。白いシャツに学生ズボンの少年たちが並ぶ。少年合唱団。変声期前の声で歌われる、10曲目「桜暗黒方丈記」。映画『田園に死す』で使われた曲だ。
「死んでくださいお母さん 死んでくださいお母さん」!
浮浪者がうろつきだし、少年たちが散り散りに逃げ出す。一人残った少年が11曲目の「天幕エレジー」を歌うと、第四部に。第四部は演劇めいている。蘭妖子と蜂谷眞未もゲスト出演。とりわけ蘭の「惜春鳥」、蜂谷の「霊燕記」には大きな拍手と歓声があがった。
ハーメルンの笛吹男と、サーカス団と、江戸川乱歩を混ぜたような演劇は続く。
少年たちは神隠しのようにいなくなってしまったのだという。「なぜ?」金田一耕助が登場し、高らかに真相を告げた。大きなカバンを持った少女が、「ひぃ、ふぅ、みぃ、よ……みんな夢……」と呟きながら歩いてくる。流れるのは17曲目の「サキの夢」。万有引力の公演を見ているような気分だ。
19曲目からは第五部。
万有引力は、来年の二月に公演「観客席」を控え、「身毒丸」も予定している。来年のスケジュールに余裕はない。喉のことも心配。シーザーは言う。
「コンサートは今年で最後かもしれない……でも、バンドがそうはさせないと思う」
最後は「大鳥の来る日」。コンサートタイトルにもなっているこの歌は、『国境巡礼歌』に収録されている。「大鳥の来る日には世界が終わる」。今日のコンサートでいちばん胸に響いたのはこの歌だ。
スクリーンに、スタッフロールのように名前が出る。
「special thanks 森岳史」……今年の五月に亡くなった、天井桟敷時代のギタリストの森岳史。
「彼にはまた出演してもらいたかった」と語っていたシーザー。こういう形にはなってしまったけれど、その言葉は実現したのだろう。
セットリストは以下。
■第一部
01.絶対運命黙示録
02.天使創造すなわち光
03.ワタシ空想生命体
■第二部
04.煙草極楽浄土
05.鎌倉外人歩抄
06.母捨般若経~母恋しや珊瑚礁
07.越後つついし親知らず
08.ジンギスカン
■第三部
09.子供和讃
10.桜暗黒方丈記
11.天幕エレジー
■第四部
12.犬神サーカスジンタ
13.のぞきからくり赤い帯
14.霊燕記
15.風見鶏マリー
16.惜春鳥
17.サキの夢
18.盲目ばやし
■第五部
19.子供遊戯七夜の祝ひ
20.被愛妄想鈴蘭燈
21.田舎モンという名の恐ろしヤンマ鬼蜻蛉
22.累々賛歌~夢の地獄~
23.最後の地獄
■第六部
24.大鳥の来る日
「観客席」(演劇実験室・万有引力第58回本公演)
「壜の中の小鳥」(ことば/寺山修司 構成・演出/浅野泉 音楽/J・A・シーザー 出演/浅野泉、村田弘美、太田惠資)
(青柳美帆子)