放送開始前はダークホース的存在だったものの、1月の放送開始直後から注目度が急上昇したアニメ「未確認で進行形」
藤原佳幸監督インタビューの後編では、3人のヒロイン、夜ノ森小紅(CV:照井春佳)、夜ノ森紅緒(CV:松井恵理子)、三峰真白(CV:吉田有里)の描き方やキャスティングのポイント、「可愛すぎる」「飛ばせない」と話題のOP&EDの制作裏話にも迫ります。


前編はこちら

3人の仲良しな雰囲気がフィルムに出ている

───小紅、紅緒、真白の3人のヒロインはこの作品の軸になるキャラクターだと思います。それぞれ描く時に意識しているポイントはありますか?
藤原 小紅は先ほどお話しした「巨乳安産型」の体型ですよね。それと原作で描かれている、何を考えているのか分からない笑顔。(生徒会書記の末続)このはが方言丸出しで叫んでいるのを見ちゃった後のあの笑顔は、原作の雰囲気を再現したいなと。あそこは、小紅という女の子を一番表しているシーンだと思うんですよ。
───明るくて良い子ですが、家族や親しい友人以外の前だと取り繕ってしまうところもある子ですよね。

藤原 これは完全な僕の主観ですけど、小紅は人付き合いがあまり上手ではないのかなと。すごく優秀な姉様(紅緒)と比較されてきたことで、自分に対して引け目を感じてる部分があると思うので。そんな小紅も生きやすい世界になって欲しいなと願いながら、周りにいる(許婚の)白夜や、紅緒、真白たちを描いているところもありますね。
───紅緒については?
藤原 紅緒は本当に難しくて……。美人で勉強も運動もできて、学校でもみんなから尊敬されているし、小紅も「姉様はすごい人なんだ」って言う。それなのに作中では、変態なところしか出てこないじゃないですか(笑)。
そこをどう表現すれば、見ている方にも納得してもらえるのかが難しかったです。そのあたりは、OPの冒頭でクール系のイラストも出ていたりするので、アニメ本編というよりも全体的なもので補完されている感じかなと思います。
───重度のシスコンかつ幼女好きという紅緒の変態ぶりの表現については?
藤原 そこは松井さんの演技にかなり助けられていますね。アドリブ的な台詞で、ずいぶん変態度が増していると思います。今回、紅緒に限らず、声優さんに助けられている部分が大きくて。編集の平木さんからも「声優さんが変われば、全然、雰囲気の違うフィルムになるよ」と言われました。
確かにそうなんですよね。照井さん、松井さん、吉田さんの3人の仲良しな雰囲気がフィルムにも上手く出ていると思います。
───真白はどんなところにポイントが?
藤原 とにかく可愛くということですね。背伸び幼女で、ロリ小姑で、ヘタレ幼女でもある。そういった面をコロコロと切り替えながら、上手く表現したいと考えています。

最初から「あ、小紅がいる」という感じ

───小紅役の照井さん、紅緒役の松井さん、真白役の吉田さんは、皆さん新人声優さんですが、お芝居もキャラクターとのマッチ具合も素晴らしいですよね。
「声優業界、レベル高!」と思いました。皆さん、オーディションで選ばれたのですか?
藤原 はい、3人ともオーディションです。キャリアのある方から新人さんまで、かなりたくさんの方に参加していただいたのですが、照井さんに関しては最初から「あ、小紅がいる」という感じでした。男の子っぽい喋り方をしているけど、女の子らしいニュアンスは崩さないで、刺々しくは聞こえない。それが素で出せている印象が一番強くて。「まんま、小紅だなあ」と思いました。

───小紅って、家族以外の親しい人には口調が少し乱暴ですが、そこも可愛いですよね。
藤原 そうなんですよ。ちょっと男の子っぽいから突き放すように聞こえなくもないんですけど、それが可愛い感じに聞こえるところが良かったんです。
───紅緒役の松井さんの印象は?
藤原 1話で真白を見て「幼女よ、幼女!」ってテンションが上がるシーンの台詞をオーディションでもやってもらったんですね。ああいう(ハイテンションな)キャラクターをできる人自体は少なくないと思うんです。でも、松井さんの声は、変態っぽく湿度がある感じに聞こえるけれど、その中に上品さもあるというか。
小紅や学校の生徒が見ている「紅緒の素晴らしさ」のニュアンスも含まれている感じもありました。
───では、真白役の吉田さんの印象は?
藤原 飛び道具が来たなと(即答)。
───たしかに、非常に個性的な声の持ち主です。
藤原 オーディション中に真白として台詞を喋っている声と、挨拶に来てくれた時の声が変わらないんですよね(笑)。正直、すごいなと思いました。自分が作品を作る時は、どうしても上手くまとめようと思ってしまう傾向があって、地味にならないように気をつけているんですけど。吉田さんが演じる真白という、アニメのキャラクターとして非常に強い声が入る事で、この作品が見やすくバランスの取れた物になるだろうと思いました
───3人が歌うOP「とまどい→レシピ」とED「まっしろわーるど」は、曲も映像も非常に可愛らしく、この作品が注目を集める大きなきっかけにもなったと思います。OPのコンテは、藤原監督と制作デスクの梅原翔太さんの共同名義になっていますね。どのような分担になっているのですか?
藤原 そこは梅原君、どうぞ。
梅原 僕の方で全体を通して下描きを描かせていただいて。監督には、清書をしながら「ここはこうじゃない」と修正を入れて頂いた形です。全部で3回くらいコンテを提出したんですけど、最初の2回は全然違う形で。ずっとキャラクターが踊っているような感じで描いたのですが全部ボツになりました。
───冒頭で1枚絵が次々に切り替わるところがありますよね。あそこが非常に好きなのですが、どのようなイメージで作られたのですか?
梅原 イントロがとても長い曲なので、その間はどうすれば良いんだろうってすごく悩みました。そこで、本編では見られない姿とかを見せたら本編の補完にもなるし、良いかなって思ったんです。
───小紅が手の内側についたクリームを舐めたり、紅緒がひざを舐めたり、ものすごくフェチを感じる絵が多いですよね。
梅原 それは清書の時に監督がかなり盛ってくれました(笑)。
藤原 「ここは脇を見せたいよねー」とか。
梅原 「ここはピースだよね」とか。
藤原 そんなことをやっていたら、やけに白いワンピースが多くなっていて。
梅原 監督の趣味が出ちゃいましたね。
───監督の中のフェチというか、女の子の可愛いポイントが気になりますね。どういうところを見せたいのでしょうか?
藤原 普段見えないところ……女の子が隠したいところを撮りたいんですよね。
───言葉だけ聞いたら、とんだ変態ですけど(笑)。
藤原 いやいや(笑)。例えば、好きという気持ちを相手や周りに悟られないように、どうごまかすのかとか。そういう本音が出ているシーンで、キャラクターにあった芝居を考えたりするのが好きなだけです。
───好きな気持ちを隠したいのに、つい洩れてしまう感じですか?
藤原 そうです、そうです。このキャラの場合、その洩れ具合がどのくらいだと良いのかなとか。それをフェチと呼ぶのかは分からないですけど(笑)。
───EDの絵コンテと演出は、「GJ部」でもEDを担当していた武山篤さんですね。監督から希望を出した形ですか?
藤原 そうです。編集の平木さんや武山さんだけではなくて、美術監督の川口(正明)さん、音響効果の小山(恭正)さんたちも「GJ部」に続いて、ぜひにとお願いしました。皆さんとても力があって、自分の理論を持っている方々なんですよ。武山さんは、「藤原さんが作っている世界観の砂場で遊ばせてもらっているだけだよ」と仰って下さるんですけど。こちら側の制作意図を汲んだ上で、自分のコンセプトを持って「こういう見せ方をすると、本編が補完できたりするよね」というものを作って下さる。本当に頭が下がるような思いです。
───EDのコンテを見た時の感想は?
藤原 「可愛いなあ~。はい、オッケーです」という感じで。出来上がりをすごく楽しみにしていました。

好きな人に電話をかけたくなるような作品に

───3人のヒロイン以外で、特にお気に入りのキャラクターはいますか?
藤原 このはが好きです。すごく分かりやすい子で、がんばっているのに全然報われないところとか可愛くて。しかも、へこたれないじゃないですか。
───第8話で、体育の時間中にこのはが考え事をしながらマット運動をしていて、体操選手のような超高難度の技をやってしまう場面がありますよね。原作には無いシーンですが、あれは監督の「このは愛」があふれ出したのですか?
藤原 あそこは、倒立とか普通に高校生ができそうな動きをオーダーしていたんです。でも、コンテを担当してくれた博多(正寿)さんがすごい動きで描いてきてくれて。まあ、可愛いし有りかなって。コンテを読んだ菊池さんからも「明らかにオリンピック選手級の動きだけど、大丈夫?」と聞かれましたが、「アニメなので、大丈夫です」とお願いしました(笑)。作画作業的にも大変だったと思います。
───超動いてますよね。では、紅緒以外で描くのが難しいキャラクターは?
藤原 作画的には白夜ですね。無表情の中で、どれだけ感情を込められるか。菊池さんからもキャラ表(設定画)を描く過程で、「白夜ってボーッとしているの? クール系なの? それとも眠たげなだけなの?」と聞かれました。「眠たげなニュアンスで」とお願いしたのですが、そうすると目とまゆげの間が開いて、ちょっと相手を見下したような雰囲気にも見えてしまうんですよ。さらに、真剣な表情になるとキツく見えてしまう。まゆ毛の太さだけでニュアンスも変わってしまうので、色が塗られるまで、どう見えるのかが分からないキャラなんです。
───意外に手強いキャラなんですね。では最後に、クライマックスの見どころについて教えて下さい。
藤原 あまり話すとネタバレになってしまうのですが……。この作品自体、やっぱり小紅のための物語だったんだね、と感じてもらえるように作っているので。そこを楽しんで頂ければと思います。
───最終話まで見た人に、どんな気持ちになってもらえたら嬉しいですか?
藤原 これもどこまで言っていいのか分からないですが……。本読み(シナリオ打ち合わせ)の時には、12話まで観た時、思わず好きな人に電話をかけたくなるような、甘酸っぱい気持ちになる作品にしたいと言っていました。「YOU、告白しちゃいなよ!」って感じで(笑)。
梅原 意外ですよね。
藤原 え、なんで?
梅原 そんなアニメだったっけって(笑)。
藤原 ははは。でも、純粋に誰かを好きになる気持ちとかに触れていきたいなと思って作っているので。触発されて、「わーーー」って気持ちになっちゃう人が出てきて欲しいなと思っています。
───では、本当に告白した人はぜひ番組のラジオなどに投稿して欲しいですね(笑)。
藤原 そうなると面白いですね。
(丸本大輔)

「未確認で進行形」Blu-ray1巻
「とまどい→レシピ」
「まっしろわーるど」
未確認でキャラソン01「夜ノ森小紅 starring 照井春佳」
未確認でキャラソン02「夜ノ森紅緒 starring 松井恵理子」
未確認でキャラソン03「三峰真白 starring 吉田有里」