この4月25日で、乗客と運転士の計107人の死者を出したあの大事故が起きてから9年が経った。それとあわせて4月29日夜、NHKのBS1で、ドキュメンタリー「Brakeless(ブレーキなき社会)~JR福知山線脱線事故9年~」が放映された。この番組はNHKとイギリスBBCが共同で、事故の被害者や関係者などに1年以上にわたり取材したものだという。
外国人スタッフが参加しているせいもあってか、事故の背景として、高度成長期からバブルを経て現在にいたるまでの日本社会の変容に着目するなど、幅広い視野から検証しているのが目を惹いた。また事故が起きるまでの経緯を、実写映像や模型風のCG、さらにはアニメーションなどいくつかの手法を組み合わせて再現していることも、興味深かった。
このうちアニメーションの原画は、事故列車に乗り合わせた(つまり被害者の一人である)イラストレーターの男性が描いたものだ。この男性にとって、また同じく取材に応えている列車に友人同士で乗り合わせた女性2人にとっても、毎日同じ時間に乗る列車は日常の一部となっていた。
被害者たちは、日常からしだいに異常事態へと巻きこまれていくさまを淡々と語っている。事故からそれなりに時間が経っているとはいえ、その冷静な語り口は正直いって驚きだった。彼・彼女たちはまた、車内の様子も細かく記憶していて、その描写はじつに生々しい。前出の女性の一人は、いつも利用していた列車なので、窓の景色がだいたいどれぐらいのスピードで流れるか体で覚えていたが、このときはいつもより速く感じられたと証言する。同時に窓が細かくガタガタ震えていることに気づいた。「速いですね」「速ないですか?」という声があちこちから上がり、「同じイベントを共有しているみたいな」妙な一体感が車内を包みこんだという。