世にはびこる、成功指南書。受け付けません。
何が嫌いって、結局「俺は凄い」の自慢話に終始することが少なくないから。あまり指南してくれてない。それか、既に知ってることしか教えてくれない。膝を叩けないのです。「自伝を読みたくて、この本を買ったわけじゃないんだけど」みたいな。

我が世の春を謳歌している人の話は、ユートピア過ぎてつまらない。
成功したのに、まだいじけてる人の話こそ聞きたいのに!

たまたま手に取ったブラマヨ吉田による書籍、大当たりでした。売れてるのにまだ幸せそうじゃない彼の成功指南は、飢えに飢えまくっていたから。
もう、タイトルからしてアレだ。『人生は、パチンコで教わった。』
「俺らは元からギャンブルみたいな世界で生きてるんだから、わざわざ賭け事で運を使っちゃダメなんだよ」とはビートたけしによる語録だが、どこ吹く風。
吉田は、パチンコから学んだと豪語している。運だけじゃないらしい。果たして、何を教わったというのか?

“連れパチ”の時の言動で見えてくる人間の内面
「パチンコは勝負事ですから、出たり出なかったりしますけども、そういう時にその人間の性格がモロに出るんです」
「自分が2500発出してても、友達が1万発出してたら負けた気がするんです」
「『ええな、あいつだけうまくいってるやん』、『よしよし、あいつ飲まれてるな』とか、自分の出玉よりも友達の台を気にしてたりする自分がいましたね」

ここで悔い改めてるだけじゃ、ただの自己啓発本と変わらない。吉田はこの心理を芸人人生と重ねあわせ、無理矢理糧にしてみせた。

「えらく後輩のキングコングがバーっと売れたりした時に、そいつらがスベることを祈る自分がいたんですよね。『あいつらの立場が俺以下であってほしい』っていう感覚……パチンコの時の感覚に似てたんですよ」
「『この感覚、俺は芸人になってもまだ持ってんねや』と気がつきました。
『他人、関係ないやろ、まず俺やろ』と」
「自分の目の前の台(お客さん)と向き合うことが大事ちゃうんか?」

「パチンコを経験してなかったら、嫉妬心ばかりだった。人間として成長する場だ」と豪語する、ブラマヨ吉田。パチンコ台とお客さんを重ねあわせるほどのめり込んだのだから、何かを学ばなきゃ嘘だろう。

確率は収束していく
1年半ほどパチプロ生活を送っていたという吉田は、その時期に気付いたことがあるという。
「だいたい月20回くらい行ったら10勝10敗なんですよね。20連勝なんかはありえなくて」
「それでも、回る台だけずっとやってたら、どっかに一発ドンって4万発、5万発出る日が来るんですよ。
その日狙いのために、回る台を、時間ある限りはずっと続けてるんです。『毎日花は咲かへんな』って、そういうことです」
「出ない日は『今日は水やってんねん』『今日は耕してんねん』と、花咲かす準備作業してるんだと言い聞かせて、同じ台でひたすら打ち続けてました」

この理論、彼は見事に人生のターニングポイントで活用している。例えば、出番順がクジ引きで決まる『爆笑オンエアバトル』(NHK)。この番組、1番手のほうが得らしい。
「心理として、観覧に当たったお客さんは、その番組の醍醐味である玉を入れるという行為を早くしたいからです」(吉田)
しかし吉田が引くクジは、いつも最後のほうであった……。

逆に関西のコンクールでは、順番が遅いほうが良いのだそう。

「最後のがそこそこ面白かったらそのまま優勝してしまうケースがあるからです」(吉田)
そんな時に限って、1番クジを引いてしまう吉田。

そして、2005年『M-1グランプリ』決勝戦。ネタ順が重要なのは、言うまでもないシチュエーション。一番手は採点の基準となり、様子見されてしまいがち。爆発的にウケるコンビが現れたらハードルが高くなってしまうので、ラストも避けたい。それまでの吉田のクジ運の悪さにシビレを切らせた相方・小杉からは、「今回は俺が引く」と切り出されている。

「その時、パチンコの収束の話がとっさに頭に思い浮かびました」
「『待て! 確率は絶対最後には収束する。今までの俺のクジ運の悪さはこのためにあった。花はいつか咲くはずや。だから俺に引かせてくれ!』。そう言いなだめて、僕がクジを引きました」
結果、引き当てたのは絶好のネタ順である5番目。確率が収束した!
「もし、僕がパチンコやってなかったら、ビビって小杉に引かせてたかもわからないですね。そうしたら、たぶん小杉が1番引いてたような気がします」
「小杉が『すまん……』って謝ってるシーンが目に浮かびます」
なぜそこまでネガティブなのかは不明だが、結果オーライ。爆裂した!

回らん台で勝負していてもいつか消える
「売れてない時は、玉が出ない時とおんなじなんですよ。そこで安易になんとなく出そうな台に替わるんじゃなくて、ひたすら回る台で打ち続けたらいつかは大当たりする――そう僕は信じてるんです」
「お笑いでも結果が出ないと、どうしても目先の笑いばっかり取りに行ってしまう人がいっぱいいます」
「T.M.Revolutionさんが『ハイ・プレッシャー』という曲で大ブレークして、日本中で流行ったことがありました。その時、西川貴教さんって黒いボンテージみたいのに身を包んだ変な格好してたんですよ、言うたら悪いですけど」
「その頃、お笑いのコンクールの予選があると、流行っていた西川貴教さんの格好をして参加してるヤツが4~5組おったんですよ。たしかにわかるんです、そいつらのやろうとしていることは。目先の笑いでいいから、ちょっとだけでもいいから出玉が欲しいんやな、と」
「それ、違うやろ。爆裂させるためにこの世界入ってるちゃうんかい? たしかに今はウケるかもしれません。でもその考えで10年できるんかい」

精神論のように見えるかもしれないが、そうではない。
「逆に売れてないヤツでも、『ああ、こいつスゴい回る台打ってるな、ひたすら自分のスタイルを信じて投資してるな』っていう芸人のほうが怖いですよ。やっぱりブレずにやり続けているヤツは売れた時に長いなと思います」
「『オモロいヤツはちゃんと売れる』って言われても、僕らはなかなか信じ切れていなかった部分がありました。でも、パチンコずっとやってたから、『これを続けてたら絶対、何か返ってくるんや』という根拠にはなりましたよね」

「迷わず行けよ 行けばわかるさ」という言霊をアントニオ猪木から、「大振りし続けろ」という叱咤を糸井重里から、既に聞いたことはある。
言ってることは、実は吉田も同じ。しかし「パチンコ」「芸人の寿命」といったデータを参考資料として挙げてくれているから、わかりやすい。
(寺西ジャジューカ)