大人気女児向けアニメ「プリキュア」シリーズは、2004年スタートの「ふたりはプリキュア」から今年で10周年。現在放映中のTVシリーズ「ハピネスチャージプリキュア!」では、歴代プリキュアからの応援メッセージが毎週届けられ、今週は誰? と日曜朝はわくわく。
「ハピネスチャージプリキュア!」のオープニング曲作詞は初代「ふたりはプリキュア」主題歌の青木久美子、そしてエンディング曲は4年目から登場の「Yes!プリキュア5」オープニングの只野菜摘。記念すべきプリキュア10周年での、黄金コンビ久々の復活に気づいていましたか?
2人の作詞家に「プリキュアの歌の世界」について超めいっぱい話していただきました。


■原点回帰と新しさが両立する「ハピネスチャージプリキュア!」主題歌

───青木さん、久しぶりの「プリキュア」オープニングですね!
青木 はい。TVシリーズでは3年めの「ふたりはプリキュア Splash Star」までOP・EDを書かせていただき、「プリキュア5」の2年はEDを担当させていただきました。その後、スタッフもみなさん変わっていて、「10周年記念」でお声掛けいただいた意味はすごく考えました。プリキュアのエッセンスとしてはたぶん「原点回帰」……だけど前と同じものを求められているのではなく、新たなバージョンとして書くにあたって試行錯誤はありました。

───歌詞に関して、細かく指定があるものなんですか?
青木 基本的には次回作の企画書を頂き、「名乗りの台詞を入れる」といった監督さんのアイデアを入れたりして、あとはおまかせでした。「ハピネスチャージプリキュア!」のオープニングを作曲したのは小杉保夫さん。小杉さんの曲はすごく個性的で耳に残る。
只野 絵でたとえると、けっしてモネではなくて、濃くて強いですよね。
───たしかに言葉が印象的です。「幸せのバイブレーション」とかびっくりしました。
「幸せのハーモニー」なら驚かないんですけど。
青木 「幸せの波動」というものがあるんですね。その人が幸せでニコニコしていて、そばにいると不安も消えていく、悩んでることも、その人のそばで笑っていると、どうにかなるさ! って気持ちになっちゃう。その経験を歌詞に入れたいなと思っていたら「バイブレーション」になった。
只野 大石憲一郎さんのアレンジも、「しっあっわせっの バイブレーッション!」のところで、ホーン(管楽器)がバッバッ! ってなって(首を振り、衝撃を表現)。
青木 曲との出会いのときにそういうイマジネーションがわきますよね?
只野 わきます。
冒険しすぎて「意味がわからない(笑)」って言われることもありますが。


■前期EDは「微笑みがえし」オマージュ

青木 「ハピネスチャージプリキュア!」ってタイトルが長いじゃないですか? 小杉さんは多分苦心して、ぴったり入るような部分を作ってくださったんだと思うんです。それが曲の冒頭。もう「ハピネスチャージプリキュア!」って歌っているなと。他のことばでも考えてみたけれど、最終的にはここはタイトルでいくのが正解だと、素直に小杉さんのメッセージを受け取りました。
只野 小杉さんの曲は言葉を連れてくるというのでしょうか、「Yes!プリキュア5 GoGo」のミルキィローズの歌(「ミルク・ミラクル・ミルキィ伝説」)も、最初に出だしのメロディを聴いた瞬間から、詞は「おまたせ、プリキュア」しかないって感じでした。

青木 カッコイイ系というより、面白い系の耳に残るようなメロディを作るところが小杉さんらしい。「ゲッチュウ!らぶらぶぅ?!」(「ふたりはプリキュア」ED)のサビの「チョコ食べまくる♪くる。くる」も、ここは繰り返すしかないでしょう(笑)と思いました。只野さんの「プリキュア・メモリ」(「ハピネスチャージプリキュア!」前期ED。8月10日の放送から新曲に切り替わります)の「キュアキュア♪」の合いの手も面白いですよね〜、90年代のディスコみたいで。
只野 ありがとうございます。
軽く楽しくしたくて。サビも「ラブリィ プリティ イェイ かわいい」「つよい すごい ストーリー」って、全部終わりを「い」の言葉にして、ループ感をだしています。
───エンディングに関しても、おまかせだったのでしょうか?
只野 リクエストは2つありました。「内容よりも楽しさや耳馴染みのよさを」っていうのと、「10周年なのでキャンディーズの『微笑みがえし』みたいに」。
───微笑みがえし! 「キャンディーズ」解散のタイミングで出た歌で、それまで歌ってきたタイトルが織り込まれてるんですよね、ああ、そういうことだったんですね……。2番に歴代シリーズのタイトルが入っていているところとか、まさに。

只野 Bメロのところに、歴代シリーズのタイトルが順番通りに、運命的にキレイに入ったんです。これはミラクルだと思いました(笑)。
───春のオールスターズ映画(「映画プリキュアオールスターズNewStage3 永遠のともだち」)のエンディングではその2番が流れてきて、泣いちゃいました。
只野 最初、あの部分は1番で、TVの「ハピネスチャージプリキュア!」のエンディングでも流れる予定でした。ただ、10周年とはいえども、歴代のタイトルが毎週でてくるのはどうだろう……というご意見もあったので、そこは映画のほうで思いきり使うことにして、2番へもっていったんです。そのかわりの1番の部分では、自分の「プリキュア5、フル・スロットル GO GO!」から引用しました。他の作詞家さんの歌詞だと、著作権的に問題があるので。
───おお、そんな大人な配慮も。
青木 グッドアイデア(笑)。


■手探りだった「一年目のプリキュア」

───やっぱり、主題歌を担当したシリーズのプリキュアは特別なんでしょうか?
只野 たしかに、初めて主題歌を書かせていただいた「5」シリーズに、特別な気持ちはありますね。
───青木さんは初代に思い入れが。
青木 ですね、企画段階から入ってるので、特別感があるかな。でもどのシリーズでも、それはもう、愛してないキャラはないですよ。はじめの企画時点では、シリーズ化するとも思ってないし、1年で終わると思ってたので、監督さんも、私たち音楽部のほうも、すごく自由だったの。手探りで、いろんな可能性を出していけた。旗揚げの言葉としてはディレクターさんと「セーラームーンを超えるような女の子ヒーローを作りたい」って話はしたけど、まさかこんなに長く続き愛されるとは思ってなかった……ありがたいことです。
───初代オープニングの「DANZEN!ふたりはプリキュア」は、シリーズディレクターの西尾大介さんの鶴の一声で決まったと聞きました。
青木 いろんな切り口で7〜8曲候補があったと思うんですが、その中で小杉さんの耳に残るメロディと、言葉遊びいっぱいの雰囲気が、西尾さんのもつプリキュアのイメージと合ったんでしょう。
───「プリキュア」の連呼は、ほんとにインパクトありました。
青木 実は冒頭のプリキュア連呼も、小杉さんのデモテープからありました。あと、本来「女の子のヒーローが素手で戦っていく」のは非現実的ですよね。感情や日々の日常をリアルに描く事で、共感性やリアリティが生まれるとプロデューサーさんからお話はいただいていました。だからメッセージも含めて、詞の世界は日常的なことを入れました。


■「プリキュアとは何か」がわからなかった

───只野さんはいかがだったでしょうか。
只野 シリーズ4年目の「5」の主題歌では、「引き継いでいくもの」と「ばっさり変えてもらいたいところ」など、いろいろな制約がありました。その前に、まず「プリキュアとは何か」がよくわからなかった。理解して着地するのに、本当に時間がかかりました。
───わかるようになったきっかけは。
只野 そのときの音楽ディレクターさん(藤田昭彦)が、アツく厳しい方で、男だったら殴り合ってるだろうなくらいのバトルをしているうちに、わかるようになっていったんだと思います。それから、製作現場がすごくオープンでした。アフレコや試写のあとのお食事などによくお誘いいただいて、声優さんやスタッフさん達と接する機会も多くて。つくっているみなさんのことがだんだんわかってくると同時に、プリキュアについてもつかめてきて、二年目からは自由でした。
───「プリキュアとは何か」ってすごく難しい命題だと思うのですが、歌の世界だとどんなポイントになってくるのでしょう。
只野 当時、プロデューサーさん(鷲尾天)にはよく、プリキュアは戦いたくて戦っているのではない。戦うのが好きなのではなく、まきこまれ、大切なものを守るために戦っているんです、と言われていました。だから「頑張る」「負けない」はいいけれど、「戦う」や「敵」って言葉は入れないでくださいとか、NGワードもいろいろありました。
───「戦う」や「敵」はプリキュアじゃない。
只野 たとえば、頑張っている過程を描くときには、「今はこうだけど」っていう状況からプラスに転じさせることも多いですよね。でもプリキュアは、マイナスからのスタートではないんですということで、マイナスを、闇を描かずに、どのようにその先の光を描くのか。難しかったです。
青木 かといって、ただ明るく前向きならいいってわけでもない。やっぱりそこにはなにかしら背骨を入れないと、プリキュアにはならない。……只野さんは、「聖闘士星矢」(「聖闘士神話〜ソルジャードリーム〜」)などもやってらっしゃったし、もともと「戦う」系の歌詞がお上手なんですよ。だから逆に、似ているようで違うものを要求される「プリキュアの闘い」にはご苦労されたのかもしれませんね(笑)
只野 青木さんのあとに私がオープニング主題歌で呼ばれたのは、「男前女子」みたいな要素を強くしたいからなのかなと思っていました。行き詰っていたころ、その殴り合いそうなディレクターさんが、私が昔に書いた詞の歌詞カードを持ってきて言うんですよ。「これを見てください!只野さん、こんな素晴らしいのが書けてたんですよ!もう一回これを見てください!」(笑)
青木 それは熱量があってありがたいことだよね。
───青木さんはそういうバトルは。
青木 私はないんですよ。只野さんと、担当しているところが違うんだと思う。プリキュアになる子たちは、プリキュアに「ならざるをえない」資質がある。その資質ーー光の部分を担当させてもらったって感じかな。ボーカルアルバムでは、母性的な優しさとか、愛情深さとか、そういう部分を書かせてもらっています。
只野 青木さんの詞が持っている素敵なもの、世界観とか可愛らしさ、香りみたいなものを、私がマネしようとしても絶対できないんですよ。
青木 それでいいんですよ、それが個性ですから、お互いの。私もロックテイストの「立ち向かっていくぞ!」みたいなカッコいい系のものは、只野さんほどキレよくできないかもしれない。男の子もの(「5」のココとナッツのキャラソン)もあるじゃない。
───あ、男子ふたりの関係がちょっと怪しいものですね。
青木 ね? ああいうのは私には書けないし、ディレクターさんも「これは只野さんにおまかせなんです」って言ってました。
───ああいうのもありなんだなあという衝撃が走りました(笑)。
青木 実際の番組内容だと、彼女たちにも、迷いや挫折があって成長してるし、プラスばっかりではない。でも、日曜朝八時半のオープニングやエンディングは明るくポジティブで行きましょうという意識がスタッフにはありました。まあ、光ばかりではない部分は2コーラスめに差し込んでみたり、映像には出てこない日常部分はキャラクターソングで書いたり。バランスはとっているかもしれません(笑)
(青柳美帆子)

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