“本日、SEGAは大きな決断をしました。”
「玉音放送」と呼ばれる文章だ。

セガが、家庭用ゲーム機の製造事業から撤退を発表したときのテキスト。
“そもそも奇妙なのは、こんな内容の文章が、プレスリリースや株主向けの広報などではなく、「SEGAを応援してくださるみなさん」に宛てて書かれているという事実だ。”
『僕たちのゲーム史』のさやわかによるセガ論「セガはいつも僕たちの仲間だった」は、この「玉音放送」の謎を巡るセガ論だ。
“なぜ、この文章はこのように書かれたのか。
そして、これが「玉音放送」だというのならば、彼らの戦いとは、そして敗戦とは、一体何だったのか。”

セガと、セガのファンが共有していた理想と思想と「どっか抜けてる」ところを、数々の資料と証言で語っている。

掲載誌は『小説すばる2014年10月号』
小説の雑誌なのに、特集が「90年代ゲームのいろいろ あのころ、ゲームに夢中だった」だ。
なぜ、いま、小説誌で!? (もうひとつは、ちゃんと「北方謙三 兵飛伝」特集だ)
特集の扉には、“今年は「セガサターン」&「プレイステーション」の発売20周年です”と理由が書いてある。
が、完全に担当の人がゲーム大好きだろ、って感じの熱を放射してる特集なのだ。

内容が、ガチだ。

エッセイ「私がハマった90年代ゲーム」の著者名と登場するゲームタイトルを書き出してみる。

宮部みゆき『フィロソマ』『ヴァンダルハーツ』『ゼロ・デバイド』『パンツァードラグーン』『moon』『バウンティーソード・ファースト』『クロックタワー』『セプテントリオン』『アウターワールド』『月花霧幻譚』『エコーナイト』『ジャンピングフラッシュ』
辻村深月『天外魔境II 卍MARU』
乙一『アインハンダー』『重装機兵ヴァルケン』『ワイルドガンズ』『ファイナルファンタジーVI』
矢野隆『バーチャファイター2』
山内マリコ『プリクラ』
沖田修一『タクティクスオウガ』
マジでゲーム好きでしょって人が熱を持って書いている文章を読んで、こっちまで熱くなる。

『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽を、1作目から担当し続けた植松伸夫インタビューも充実。
インタビュアーは、ゲーム音楽研究家・岩崎祐之助(読むべし『ゲーム音楽史 スーパーマリオとドラクエを始点とするゲーム・ミュージックの歴史』)。
ちょっと気になる植松さんの発言を引用しよう。
“当時の社長は、音楽をサザンオールスターズかユーミンでって言ってたと思います。そのころスクウェアって倒産しかかってて、坂口さんが最後の夢をかけて『ファイナルファンタジー』を作り始めてたんです。
社長としても、社運のかかったゲームだったからってことだったと思うんですけど、坂口さんは植松にやらせたいって言ってくれて。だから、今日のインタビューも、もしかしたらユーミンさんのとこに行ってたかもしれないよ(笑)。”

“『ドラゴンクエスト』シリーズのすぎやまこういち先生から電話がかかってくるようになった(笑)。『VI』にオペラの曲があって、なかなかうまくいったと思ってたんですけど、先生から「オペラ、何も知らずに書いたろう」って言われて(笑)。先生には、褒めてもいただきましたし、厳しい指導もありましたね。”
“ゲームやってて突然、絵の質がぜんぜん違うムービーに入るわけですよね。
それってそんなに効果的なのかなっていう葛藤が、実はいまだにあるんですね。”


他にも、ゲーム開発マンガ『東京トイボックス』のうめによるゲームコミックエッセイ。
矢野徹『ウィザードリィ日記』を紹介する「荻原魚雷の古書古書話」。
『盤上の夜』の宮内悠介、『5つ数えれば君の夢』の山戸結希監督を交えてゲーム「想像と言葉」を遊ぶ様子を再現したリプレイ録など。

ゲームをプレイすることで世界が輝いた少年少女の気持ちをまだ持っている人は、本屋に『小説すばる2014年10月号』を買いに走れ。
(米光一成)