ワイン人気が高まっている。国税庁調べの最新データでは1990年代後半の赤ワインブームを超えて、消費量は過去最高なのだとか。


そんななか、世界的にも注目を集めているのが、日本生まれの“甲州ワイン”。日本固有のブドウ品種である“甲州”を使ったワインは、和食に合うのが特徴。昨年、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風になり、和食ブームの海外でも注目が高まっている。

すでに“甲州”は、2010年にワインの国際的審査機関「OIV」に登録され、ワイン醸造用のブドウ品種として世界的にも認められた存在。とはいえ、ワイン界においてはまだまだ新顔だし、ひと口に甲州ワインといっても何百種類とあるから、どれを選べばよいのか迷う人も多いはず。

そんな人にぴったりなのが、先ごろ発売された甲州ワインのガイド本『本当に旨い甲州ワイン100』 (イカロス出版/1296円税込)だ。
著者は山梨を中心とした国産ワイン100%を扱う地元酒店「新田商店」のオーナー、新田正明さん。山梨のワインや生産者に精通し、甲州市産ワイン品質審査委員、甲州市ワイン教養講座講師なども務める新田さんは、いわば山梨のワインの“生き字引”ともいえる存在だ。

同書では、新田さんが「今飲むべき!」と太鼓判を押す甲州ワイン全100本を、1本に付き1ページを贅沢に割き、丁寧に紹介している。ちなみに筆者も山梨生まれ、甲州ワインもかなり飲んでいる方だと思うが、それでも飲んだことのないワインが多数。定番からレアものまでバラエティに富み、ビギナーからツウまで満足させるラインナップになっている。

さらに同書が面白いのは、それぞれのワインについて、単に味わいや製法にとどまらず、ワイナリーの歴史や醸造家の横顔、どんな気持ちでこのワインを出したのか、といったこだわりについても丁寧に描かれているところ。
そのため、ワインの解説本でありながら、どこかエッセイ風。よく「ワインには作り手の人柄や想いが反映される」というが、この本を読んでいると各ワインに対する想像があれこれ膨らんで、ワクワクしてくる。

筆者である新田さんに、甲州ワインの魅力を聞いた。

――なぜ、同書はあえて“甲州”ワインに限定したのですか?
「山梨は気候的に白ワイン用ブドウの栽培に適しているし、世界に標準を合わせていくとしたら、まずは日本の土着品種で和食にも合う“甲州”だと思う。自分としても思い入れがある品種だし、あれこれ紹介すると逆に焦点がボケてしまうので、今回は甲州に的を絞りました」

――甲州ワインの一番の魅力って、何でしょう?
「和的な繊細な味ですね。だから繊細な味の和食ともよく合います」

――でもワイン好きな人の中には、甲州ワインを「薄い」とか「軽い」とか言う人もいますよね?
「ガツンと力強い味わいのワインを好む人にとってはそうかもしれないし、それも1つのとらえ方。
でも、甲州ワインというのは、輸入ワインなどとは、そもそも立ち位置が違う。ワインというのは究極の食中酒であり、口の中で食材とのマリアージュを楽しめる唯一のアルコール飲料です。そう考えると、私たちが地元の食材と食べ合わせて、本当においしいと感じられるのは、やっぱり甲州ワイン。日本の食材、たとえば醤油や味噌、かつお出汁なんかを使った料理と甲州ワインは抜群に合うんです。逆に、果実味が強すぎるワインなどは和食の繊細な味わいを打ち消してしまう。これは負け惜しみとかじゃなくて、本当にそうですよ(笑)」

――逆に言うと、和食以外の料理には合わないんでしょうか?
「最近はイタリアンやフレンチに和の要素を取り入れた、いわゆる創作料理のレストランで甲州ワインを出すところも増えてきました。
醤油や味噌をちょっと隠し味に使っていたりすると、甲州ワインとよく合うんです。意外なところではタイ料理や韓国料理などアジア系のフュージョン料理を出す店などからも問い合わせがありますよ」

――最後に読者の方にメッセージをお願いします。
「もしこれからワインを飲んでいこうかなという人がいたら、ぜひ日本のワインから飲んでみてほしい。世界中のワインファンは自国のワインに誇りを持っている人ばかりです。そして山梨などワイン産地を訪ねたら、ぜひ地元の食材を使った料理とワインのマリアージュも楽しんでほしい。そういう楽しみ方が食文化を豊かにしていくと思います」

同書の巻末には、新田さんが近年の山梨ワインについて思うことや新田さんが見てきた勝沼の歴史なども綴られており、こちらも読みごたえアリ。
どのページからも、新田さんのワインや醸造家に対する愛が溢れていて、読んでいて幸せな気持ちになる。甲州ワイン好きにも、これから甲州ワインを飲んでみようかな、という人にもぜひ読んでほしい一冊だ。
(古屋江美子)