写真のみでシンプルに見せるという篠山の趣向は、現在開催中のもう一つの展覧会、神戸の横尾忠則現代美術館で開催中の「記憶の遠近術展~篠山紀信、横尾忠則を撮る」(会期は次の日曜の1月4日まで。ただし12月31日・1月1日は休館)でも踏襲されていた。

この展覧会は、画家の横尾忠則が、自分に影響を与えた人物たちと一緒に撮った写真を集めたものだ。これらは、1960年代から70年代にかけて、雑誌連載や書籍の企画として断続的に撮られてきたもので、1992年になって『記憶の遠近術』という写真集にまとめられた。そこに登場するのは、横尾の憧れの著名人のほか、彼の人生における恩人たちやあるいは記憶に残る場所だ。

今回の展覧会にあたり、当初、横尾は自分の作品や関連資料も一緒に並べて、「写真による自伝」というストーリーをより浮き彫りにしようと考えていたらしい。だが結局は先述のような篠山の趣向が採用されることになったという(『記憶の遠近術~篠山紀信、横尾忠則を撮る』図録)。というわけで、ここでもパネルなどによる説明はできるかぎり排除され、観覧者は出展作一覧を手がかりに会場を見てまわることになる。

「篠山紀信展 写真力」では亡くなった著名人を特集したコーナーが設けられていたが、「記憶の遠近術」展の写真にも、手塚治虫、石原裕次郎、大島渚、川上哲治などすでに物故した人物の姿が目立つ。折しも同展の会期中には高倉健が亡くなり、会場に展示された横尾との写真には喪章のリボンが添えられていた。もちろん、長年有名人を撮り続けていればそういうことがあってもおかしくはない。だが篠山は、撮影した相手がその直後に期せずして亡くなるという事態にたびたび遭遇してきた。作家の三島由紀夫はまさにそのケースにあたる。