ちらは芥川賞。毎回同じで★で表しているのは受賞の本命度ですが、作品の評価とは必ずとも一致しないことをお断りしておきます(5点が最高。☆は0.5点)。(直木賞編はこちら)
■上田岳弘「惑星」(初。「新潮」2014年8月号)
今回の候補作の特徴として新潮新人賞出身作家が5人中3人もいることが挙げられるだろう。第44回から46回まで3回連続で候補作になっている。こうなると、現在の純文学界で最も勢いのある賞は同賞であると言わざるをえない。
その新潮新人賞からの候補作の第一が上田岳弘「惑星」だ。上田は2013年に「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞してデビューした。「惑星」は第27回三島由紀夫賞候補作にもなっており、両作は対をなす作品である。『太陽・惑星』としてすでに単行本化もされている。
「太陽」「惑星」に共通するのはその視点の位置である。複数の人間を俯瞰するような神の視点、もしくは叙事詩の語り手の位置から叙述が行われ、未来の出来事もしばしば先取りする形で読者に伝えられる。「惑星」は全編がYozoh.UchigamiからDr.Frederick.Carsonに宛てたメールという形で綴られる小説で、送り手は内上用蔵という精神科医であることがやがてわかる。彼は「最終結論」を自称、また受け手であるフレデリック・カーソンを「最強人間」と呼んでいる。語り手には大多数の人間の運命が最初からわかっているようなのだが(ゆえに「最終結論」)、カーソンを「最強人間」と呼ぶ理由は話がかなり進展しないと判明しない。カーソンはビル・ゲイツなどを連想させるIT事業者の雄で、メディアの進化によって人間および社会の変容が可能であると考える人物だ。