大好きな灯台の魅力を伝えようと、フリーペーパー『灯台どうだい?』を発行している女性がいる。名前は不動まゆうさん。
果たして灯台の魅力とは何か? ご本人にお聞きしました。
灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは

『灯台どうだい?』は2014年の春に創刊。4カ月に1度のペースで発行している。Vol1~Vol5の内容の一部をざっと挙げると
・灯台グラビア
・防波堤灯台をもっと知りたい!
・灯台守インタビュー
・灯台に関する本の紹介
・灯台放送について
・激撮 犬吠埼灯台24時!! などなど。
灯台が好きで灯台の存在意義と魅力を共感しあえる冊子をつくりたい……との思いで、取材、執筆、編集、デザインなどをボランティアで手伝ってくれるアシスタントと2人程度で行っている。
「もともと、企業の広報室で社内報の担当をしていたのですが、編集やデザインは見よう見まねの独学です」(不動さん)

【灯台を求めて2週間フランスへ】


誌面では日本国内をはじめ、フランスの灯台も紹介している。なぜフランスなのかというと……。

「灯台のレンズはフランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネル“様”が発明したものなんです。現在光源はLED化されていることも多く、小さな投光器だけでも役割は果たすのですが、私は大きなレンズがゆっくりと回り、小さな電球の光を何十キロもビーム状に飛ばしている姿がカッコイイと思うので、灯台の中にレンズが残っていることの多いフランスに行くんです」
灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲犬吠埼灯台のレンズ

フランスでは敬愛するフレネルの墓地にも足を運んだそうだ。
「フレネル様のことは、残念ながらフランスの方でも知らない人は多く、広大な墓地の中でフレネル様のお墓を見つけるのは大変でした。でも、なんだかフレネル様に“呼ばれている”ような気がして……」
灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲フランスのフレネルの墓地を訪れた不動まゆうさん

フランス滞在中の2週間はひたすら灯台めぐり。
「灯台は、大抵は入り組んだ地形の先端にあるので、灯台から灯台に移動するのは大変です。食事の時間を節約してスーパーで食料を買って車の中で食べるような日々でした」
フランスといえば、灯台以外にたくさんの観光地があるが、不動さんの脳内は灯台のことばかり。

灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲クリーチ灯台。(映画「灯台守の恋」で舞台となったウェサン島。この島のクリーチ灯台にはレンズのミュージアムがある)

【灯台が好きになったきっかけ】


不動さんが、夜に羽田空港の周辺にある公園に行っていた時のことだった。
「光っているものを見るのが好きで、飛行機のお腹の部分が綺麗だなと眺めていたら、海の真ん中で灯台(東京灯標 ※現在はありません)が綺麗な光を発していることに気づいたんです。灯台というと、陸地の崖の上に立っているイメージでしたが、東京湾の真ん中、簡単に人が近づけないような暗くて寂しいところに“一人”で立っている灯台があるなんて、知らなくて……」
人間は不意に寂しげな姿を見るとキュンとくることがあるが、まさにそうなったのだ。さらに、灯台について調べていくうちに、灯台のレンズの美しさの虜になっていった。
「気がつくと、私は灯台の瞳(レンズ)に恋をしてたんです。いや、『恋をした』っていうと恥ずかしいですが……」
不動さんは、灯台が夜中じゅう、けなげに光り続けているのを見ると抱きしめたくなるという。

ちなみに、レンズは大きさによって1等から6等に分かれており(数は少ない方がレンズのサイズが大きく、6等より小さいものは等外と呼ばれる)、1等レンズを使っている灯台(1等灯台)は犬吠埼灯台(千葉県銚子市)、経ヶ岬灯台(京都府京丹後市)、出雲日御碕灯台(島根県出雲市)、角島灯台(山口県下関市)。
室戸岬灯台(高知県室戸市)の5箇所のみ。

真っ暗な水平線を灯台の閃光が走っているのを見ると、ぞわぞわするそうだ。
灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲犬吠埼灯台 

灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲能登観音埼灯台

灯台の瞳に"恋をした"、灯台マニアの女性・不動まゆうさんの灯台愛とは
▲不動さん愛用『海上保安ダイアリー』

【結婚式は灯台の前で】


さて、ここまで書くと不動さんは理系のような気がするかもしれないが、実は音楽系である。
「幼稚園から音楽大学の附属に通っていて、楽器はヴァイオリンを専攻していました」
灯台で演奏ができる日も遠くないかもしれない。
不動さんは、灯台の愛好家が集まる会『ライトハウスラバーズ』にも所属しており、たくさんの仲間と楽しい灯台ライフを過ごす日々だ。
「灯台の楽しみ方は人それぞれで、全国の灯台を制覇しようとする人、写真を撮るのが好きな人、私のように近づいて頬ずりしたくなる人などさまざまです」

ちなみに、旦那さまも灯台に興味を持っているそうで、結婚式は、とある施設の灯台のレプリカの前で立会人になってもらった元灯台守に愛を誓ったという。


『灯台どうだい?』はフリーペーパーなので、発行すればするほど資金がなくなってしまう。現在はサポーター制度も始まり、50人を超えるサポーターが集まっている。灯台に興味のある方はぜひ。
「今は船のレーダーの制度も良くなっているため、灯台は必要ないんじゃないかという声も少なからずあるんです。でも、レーダーのない小さな漁船やヨットにとっては必要不可欠ですし、レーダーが故障した時のことを考えると、なくてはならないものです。それに港で帰りをまっていてくれる存在がなくなってしまったら寂しいと思います。
だから100年後も残ってほしい、こんなに文化的な価値があるものがなくなってほしくないという思いを込めて発行しています」
不動さんは今日も灯台を優しく見つめている。
(取材・文/やきそばかおる 灯台の写真/不動まゆう)

・『第12回灯台フォーラム2015』開催決定(日時:2015年5月30日 13時50分開始/場所:横浜波止場会館/主催:ライトハウスラバーズ 灯台フォーラム事務局)詳細は『灯台どうだい?』のウェブサイトでも発表。前回は、福島の塩屋埼灯台が震災の被害から復興するまでの報告、全国のデザイン灯台についてのお話、灯台トリビアクイズなどが行われました。