著者にむかって〈ビジネスキャリアをはずれることにやはり不安があります〉と訴える男性の意見にたいしては、
〈このご時世、ビジネスキャリアほど危なっかしいものはありません。その点、家事は、手につける職としては最高だとおもうけどなあ。つねに誰かに必要とされて、一生感謝されるんですから〉
と答えるのだ。これに続く一節は最高のキラーフレーズ。
〈ぼくは、「社会で出世したい」という欲求は持ちあわせていないようです。むしろ、社会の仕組みにすり寄っていくほうが自分を傷つけてしまう気がしていたので、主夫になって本当によかったとおもっています〉
〈社会の仕組みにすり寄っていくほうが自分を傷つけてしまう〉というフレーズは、フェミニズムかと思うくらい。これは性差(男でも女でも)、世代(子どもでも老人でも)、さらにはセクシュアリティについても、いろんな面で言えることなのだ。
主夫の佐川さんが〈「社会で出世したい」という欲求は持ちあわせていない〉ということは、同時に、奥さんの乃里子さんが経済的な意味での上昇婚志向を持たなかったということでもあるだろう。これもまた重要なポイントだ。
『主夫になろうよ!』は大雑把に言うといわゆる生活系エッセイということになるのだろう。けれど読んでみたら、本書全体に登場する佐々木一澄さんの挿画の楽しさもあって、この本はじつは気持ちのいい幸福論であり、人生論でもある。読んだ僕が、「さてこれからどう生きる?」と、いま問われているところ。