「まさか、のく蔵がこうなるとは思ってもみませんでしたな」(高浜金之助/日野陽仁
「ひっでぇもんでしたからな!」(秋山修蔵/杉本哲太)

秋山家と高浜家が集まり、祝い膳を囲む楽しげな場面からスタートしたTBS「天皇の料理番」第10話(6月28日放送)。行方知れずになっていた俊子(黒木華)は東京で産婆として働いており、パリから戻った篤蔵(佐藤健)と再会。
もう一度一緒になってほしいと懇願され、再婚を決める。夫婦として再スタートを切ったふたり。大正12年(1923年)には長男・一太郎(滝本飛龍)は7歳となり、その下に長女・初江と生まれたばかりの次男・周太郎と、3人の子どもに恵まれていた。

長男・一太郎は、しょっちゅう家をあけ、たまに帰ってきたかと思うと酔っ払っている父親に反発を覚えている。篤蔵にも言い分はあるが、「天皇の料理番」であることを子どもたちには明かしておらず、明かしたくないとも思っているため、歯切れが悪い。一太郎は頑固で負けず嫌いなところも、篤蔵にそっくり。
俊子のフォローにも納得がいかない様子。そんな折、篤蔵一家は関東大震災に遭遇する。
実際にあった関東大震災の宮内庁炊き出し「天皇の料理番」今夜
ドラマ「天皇の料理番」(TBS系・毎週日曜よる9時〜)第11話より。協力して大震災を乗り切った篤蔵(佐藤健・写真右)と宮前(木場勝己・写真左)

お父さん……お湯をください!


大正12年(1923年)9月1日、相模湾を震源地とするマグニチュード7.9の巨大地震が関東地方を襲う。九条侯爵邸で出張料理の準備をしていた篤蔵。揺れがおさまるのを待ち、外に出るとあちこちで火の手が上がっている。動揺しながらも皇居に向かって走り出す。大膳寮に到着した篤蔵は宮前勝之助(木場勝己)の強い勧めもあり、いったんは家族のもとに向かおうとする。
しかし、被災した人々が続々と皇居前に集まりつつあるのを見て、大膳寮に戻る。

「できる限りの糧食を配って炊き出しをします」と宣言する篤蔵。「畏れ多くも『陛下の台所』と名乗るなら、助けを求める人々に手をさしのべるべきでしょう……厨師長、ご指示を」と宮前も背中を押す。急ピッチで進む炊き出しの準備。ようやく一段落というところで、皇居内に被災者を受け入れる旨が通達される。篤蔵は厨房を宮前に任せ、炊き出しを配る係を担当する。
いよいよ帰るに帰れなくなってしまう。

篤蔵が雑炊を配っていると、聞き覚えのある鈴の音がする。俊子がいつも財布につけていたアレだ。必死にあたりを見回すと、一太郎を発見する。火事のスス汚れで服も顔も真っ黒。篤蔵が駆け寄ると「お父さん!」としがみついて泣き出す。
「お母さんは一緒か? 初江は? 周二郎は?」と篤蔵が問いただしても、泣きじゃくるばかり。焦る篤蔵。見ているこちらも焦る。
「お父さん……お湯をください。お母さんがあっちで産婆してます!」
緊迫した場面に小さく笑いを持ち込むワザがお見事。俊子も子どもたちも全員無事。
しかも、俊子は俊子で自分の持ち場で頑張っていたという展開だった。けなげさも優しさも変わらずだけど、夫の帰りをじっと待つだけではない。「産婆」というドラマオリジナルの設定が絶妙に効いている。
実際にあった関東大震災の宮内庁炊き出し「天皇の料理番」今夜
篤蔵(佐藤健・写真左)に思いがけない客が訪れる。第11話より。

史実にもとづく「関東大震災・炊き出し」エピソード


ちなみに、原作では関東大震災のエピソードはほとんど登場しない。

妻(原作小説では「敏子」)の体調が良くない理由として、こう説明している程度だ。
“英国皇太子来訪の翌年、関東地方に大震災があって、赤坂の篤蔵の家は丸焼けとなり、一家は赤坂にある郷里の大先輩、桐塚尚吾の邸へ避難して、いろいろと厄介になったが、その時の苦労が、健康に障ったのかも知れない。


一方、今回のドラマに登場した炊き出しエピソードは史実にもとづくものでもあった。『完本 皇居前広場』(原武史/文藝春秋)によると、裕仁皇太子(のちの昭和天皇)の迅速な判断により、震災当日の午後7時には平川門が開かれたとある。また、「昭和天皇記念館・宮内庁内公文書館共催展示図録『摂政宮と関東大震災』」に炊き出しについての記述がある。この資料によると、宮内庁は地震が起きてすぐ庁舎玄関前に炊き出し所を設け、夕方までに2230個の竹皮包弁当を調整。また、宮城が避難所として開放されると、飲料水や乾麺、米類を配布した。職員の人数も炊事用具も少なく、一時中断しながらも、機材をかき集め、9月末まで炊き出しを続けたという。

関東大震災を生き延びた篤蔵一家。第10話ではいよいよ「昭和」に突入する。胸をおさえてたびたびしゃがみこむ俊子は大丈夫なのか。俊子がようやくつかんだ幸せが一日でも長く続きますように……と、おばあちゃんのような気持ちになりつつ、今夜9時から!
(島影真奈美)

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