■星野 源 横浜アリーナ2Days「ツービート」
2014.12.16(TUE)、 16(WED) at 横浜アリーナ
(※画像13点)

星野源が横浜アリーナで2日間にわたってライヴを開催するということ。そのことは、現行の日本の音楽シーンにおいて希望でしかない。
そんなことを深く噛み締めた2日間であった。“弾き語りDay”と銘打ちながらも、舌を巻かざるを得ないアイディアをふんだんに盛り込み、ラストは長岡亮介(ペトロールズ/g)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S/b)、ピエール中野(凛として時雨/dr)、小林創(key)とともに「Crazy Crazy」を奏でるというビッグサプライズまで用意し、オーディエンスを歓喜させた初日。翌日の“バンドDay”に向けてシームレスに橋渡しするその演出力はあっぱれであった。星野はもちろんオーディエンスにはそういった様子は一切見せなかったが、初日は相当なプレッシャーや緊張感と対峙していたであろう。序盤はオーディエンスもどこか身構えているように思えた。そういったムードを少しずつほぐしていく緊張と緩和の手つきがまた素晴らしかったのだ。


一方で、明けて2日目。冒頭から大勢の音楽仲間と自らの歌を共有することが前提にあった“バンドDay”では、開演と同時に実にリラックスしたライヴ空間が広がっていた。長岡、伊藤大地(SAKEROCK/dr)、伊賀航(b)、野村卓史(グッドラックヘイワ/key)、石橋英子(key/Marimba/Fl/Cho)を軸に、楽曲によって9人のストリングスと4人のホーンセクションを加えた豪華な編成で豊潤なアンサンブルを繰り広げた。

ストリングスによる「デイジーお味噌汁」をライヴのオープニングナンバーとし、二人のミニスカサンタを引き連れてステージに現れたスーツ姿の星野。「ギャグ」から「化物」というユーモアとリアリズムが等しい強度で調和するダイナミックなポップネスでいきなりグッとくる多幸感を表出させ、この日のライヴも間違いないものになると確信させる。彼のポップソングに内包している音楽情報量の高さと粋な昇華の仕方、歌詞の奥行きと行間に富んだ筆致、その歌を愛でるリスナーの想像力は、この国の音楽シーンはまだまだ捨てたものじゃないかもしれない、と思わせてくれる。
衣装同様にフォーマルな趣に装飾された横浜アリーナの大きなステージに集まる1万1千人のオーディエンスのおおいなる期待感。それをどこまでも軽やかに受け止め歌を紡いでいく星野は、なんだかハウスバンドをバックにグルーヴィーな室内楽を演奏しているようなしなやかさがあった。事実、「Night Troop」を終えると、何やら様子のおかしいMCをした。

「ちょっと身体的なサプライズがありまして。あとで説明します」という言葉に、これから何が起こるのだろう?と期待したオーディエンスも少なくなかったと思うが、まさか「ステージに出てきたときからウンコがしたくて。トイレ行っていい?」が正解だとは。
そして、星野源は本当にトイレへ行ってしまった。残されたバンドメンバーも戸惑いながらもシャレたセッションで主役のいない空白の時間を埋めてみせるーー本当に最高だと思う。そして、無事に用を足した星野とメンバーが鳴らしたのが、「くせのうた」、「未来」、「くだらないの中に」という感動的なリリシズムをたたえた楽曲なのだから、ズルい。ああ、このギャップがもたらすただならぬ色気よ。

初日同様、日本武道館ライヴからの恒例(?)になりつつある“一流ミュージシャンからの祝福メッセージVTR”もブロック転換時に上映。清水ミチコとレイザーラモンRGが出演するこのVTRのみならず、星野はオーディエンスと交わすカジュアルな会話でも“自分の笑いのツボ”をさりげなく伝える。
そのツボも彼の歌が呼ぶ感動に直結する重要な要素であるのは言うまでもない。また、“弾き語りDay”でバンド演奏も見せたのとは逆に、この日はアリーナ後方部の別ステージで弾き語りコーナーを設け、日本武道館ライヴでも大好評だったナンバーガール「透明少女」のカバーや前日の奥田民生とのコラボレーションのために制作された「愛のせい」などを披露。ああ、この十全なサービス精神よ。

終盤。「レコードノイズ」、「ワークソング」を皮切りに総勢19人のフルメンバーで星野流のチェンバーポップとも言うべき至福の音楽像が浮かび上がる。本編ラスト、「夢の外へ」から「桜の森」へと繋がれた流れは絶品だった。
2014年の星野の音源リリースはシングル『Crazy Crazy/桜の森』のみだったわけだが、それでも音楽シーンにおいて彼の存在感が右肩上がりに大きくなっていったのは、この2曲で残した求心力と満足感がそれほど特別だったということだ。

アンコールでは寺坂直毅の名前口上を受けて布施明のパロディキャラクター“ニセ明”に終止符を打ち、「Crazy Crazy」で華やかにライヴの幕を閉じた。

寺坂は「Crazy Crazy」の演奏前に、2年前のこの日、12月17日は星野がくも膜下出血に倒れ手術を受けた日であることをオーディエンス告げた。会場にいる誰もが、星野源という“粋人なる歌うたい”がここに立っている喜びを実感したが、もちろん誰よりも星野自身が、こうして2年後に横浜アリーナでライヴをやっていることに深い感慨を抱いたに違いない。星野くん、これからもずっと健全な身体と、真人間然とした猥雑な精神を維持して僕らに歌を届けてください。そして、終演後に発表されたドキュメンタリー映画の公開を心より楽しみにしています。

(取材・文/三宅正一)

≪セットリスト≫
●12月16日 弾き語りDay
1. 歌を歌うときは
2. ギャグ
3. 化物
4. くせのうた
5. レコードノイズ
6. フィルム
7. くだらないの中に
8. 穴を掘る
9. Night Troop
10. 地獄でなぜ悪い
11. ひらめき
12. スカート
13. 冬越え
14. 透明少女
15. 老夫婦
16. さすらい
17. MOTHER
18. 愛のせい
19. 桜の森
20. ワークソング
21. 夢の外へ
22. ばらばら
<アンコール>
1. Crazy Crazy
2. Stranger
●12月17日 バンドDay
1. デイジーお味噌汁
2. ギャグ
3. 化物
4. 穴を掘る
5. もしも
6. ステップ
7. 07. Night Troop
8. くせのうた
9. 未来
10. くだらないの中に
11. ひらめき
12. スカート
13. 老夫婦
14. 透明少女
15. 愛のせい
16. さようならのうみ
17. レコードノイズ
18. ワークソング
19. 兄妹
20. 地獄でなぜ悪い
21. 夢の外へ
22. 桜の森
<アンコール>
1. 君は薔薇より美しい
2. Crazy Crazy

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