新聞記者ならではのパワフルな調査もすごい。たとえば、はじめから給料に20時間分などの残業費をセットにした、「固定残業代」というシステムがある。このシステムを悪用した違法件数は公的には集計されておらず、著者が情報公開請求を使ってあつめた段ボール2箱の書類を数えるなど、執念を感じる取材の連続だ。
8時間労働は岩盤規制か?
安倍首相は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすと明言している。そのために、緩和がむずかしい「岩盤規制」を打ち砕くドリルになりたいとも言っている。
歴史的には「健康に生きていくために最低限、労働は最長8時間にすべきだ」と民衆が勝ち取ったルールが「8時間労働」。本書はこの「8時間労働」が、「果たして規制といえるものなのだろうか、打ち砕くべき岩盤なのだろうか?」と問いかけている。
「雇う側」は、強い。「命までは取らないだろう」と思いきや、こんなに人が死んでいる(労災認定されているだけでも毎年100人以上)。そのうえ、先進7カ国中最下位の労働生産性。是非この事実に、目を向けてみてほしい。『ルポ 過労社会 ─八時間労働は岩盤規制か』中澤誠著。筑摩書房より。
(香山哲)