このように「X JAPAN」をはじめ、「LUNA SEA」や「BUCK-TICK」「SIAM SHADE」「D’ERLANGER」など、1990年代に活躍したバンドが今、再び動きを見せはじめている。90年代といえば、空前のバンドブームが日本の音楽業界を席巻した時代だ。とくに象徴的だったのは、独特の美的感覚にもとづくメイクや衣装によって音楽性だけでなく視覚的な表現にも重きを置いたバンドが次々と登場したことである。こうしたバンドは「ヴィジュアル系バンド」と呼ばれ、現在まで続く一つの音楽シーンを形作った。
LUNATIC FEST.で再加熱!
2015年6月27日、28日。「LUNA SEA」の結成25周年ツアーファイナルとして行われた「LUNATIC FEST.」は、そんな90年代のバンドシーンを支えた“モンスターバンド”と、その先輩、後輩が一堂に会した歴史的なイベントとなった。
同イベントには、「X JAPAN」、「KA.F.KA」、「AION」、「D’ELRANGER」、「BUCK-TICK」、「DEAD END」、「TOKYO YANKEES」、「SIAM SHADE」、「LADIES ROOM」、「GLAY」、といった錚々たる面々が集結。さらに、これらのサウンドに影響を受けた「DIR EN GREY」、「MUCC」、「凛として時雨」、「[Alexandros]」、「9mm Parabellum Bullet」、「coldrain」、「the telephones」らの後輩バンドが同じ舞台で火花を散らした。
ヴィジュアル系シーンのみならず、日本のロックバンドシーン全体の歴史が濃縮された、まさに「最狂」のイベントが実現したのである。このイベントが日本のロック史における一つの分水嶺となり、またここから新たな歴史の幕が開くことを予感させてくれた。筆者も両日ともにフェスに参加し、実際にこの目でステージを観て、それを実感した一人だ。
後輩バンドによるコンピレーション・アルバム
もちろん、これらのモンスターバンドの“魂”は、2000年代以降に活躍している数々のヴィジュアル系バンドにも継承されてきた。とくに「ネオ・ヴィジュアル系」などと呼ばれたアーティストは、ダイレクトに90年代サウンドを浴びて育ってきたバンドキッズだ。
そんな彼らが90年代の名曲をカバーしたコンピレーション・アルバムがある。その名も、「CLUSH! -90’s V-Rock best hit cover songs-」(以下「CLUSH!」)。
「総売上800万枚! 大ヒット曲を集めた史上初のV-ROCKカバーコンピレーションアルバム」、というキャッチコピーを掲げた同アルバムは、シリーズ第一弾が2011年に発売されて以降、同年11月にはシリーズ第2弾が、また2012年には、ラブソングに特化したシリーズ第3弾が発売されている。
同アルバムに収録されているのは、次の15曲。(※カッコ()内が原曲アーティスト、[]が発売年)
1.ピンク スパイダー/heidi.(hide with Spread Beaver)[1998]
2.街/ドレミ團 (SOPHIA) [1997]
3.Melty Love/BugLug(SHAZNA)[1997]
4.1/3の純情な感情/NoGoD(SIAM SHADE)[1997]
5.月下の夜想曲/D(MALICE MIZER)[1998]
6.STORM/少女-ロリヰタ-23区(LUNA SEA)[1998]
7.紅/摩天楼オペラ(X)[1989]
8.With-you/DaizyStripper(La'cryma Christi)[1998]
9.Winter,again/12012(GLAY)[1999]
10.ロマンス/アンド(PENICILLIN)[1998]
11.S.O.S ロマンティック/Mix Speaker's,Inc.(CASCADE)
12.ENDLESS LOVE/LOST ASH(D-SHADE)[1998]
13.Schweinの椅子/MERRY(Dir en grey)
14.JUPITER/DuelJewel(BUCK-TICK)[1991]
15.夢より素敵な/DOG in Theパラレルワールドオーケストラ(Raphael)[1999]
もうお気づきだろう。
とくにおすすめの曲は?
大変恐縮ながら、ここで筆者の独断と偏見により、“これを聞け!”とシャウトしたくなるオススメ曲を紹介しておきたい。無論、好きなバンド、好きな音楽ジャンル等によって、「良い」と思うものは人それぞれ。
しかし、それを分かったうえで! あえて最も完成度が高いと思う楽曲を選ぶという罪をお許しいただきたい(ヘドバンをしながら)。というわけで、筆者が推薦したいのは、「摩天楼オペラ」がカバーした『紅』(X)である。
『紅』といえば、日本が世界に誇る名曲中の名曲。
悠(Dr.)の激しいツーバスドラム、苑(Vo.)の職人芸ともいうべきビブラートが効いたハイトーンボイスは、本家とはまた違った魅力に溢れている。またキーボーディスト(Key.彩雨)を擁するだけあって、シンセの音色が神秘さを演出。
イングウェイ・マルムスティーンを彷彿とさせる美しいギター(Gt.Anzi)は、オリジナル曲にはない至高のギターソロを奏で、なめらかなうねりと重厚感を兼ね備えたベース(Ba.燿)は、メロディアスでかつゴリゴリとした音の両立が素晴らしい。
他にも名手揃い!
また、師弟関係にある「Dir en grey」の楽曲をカバーした「MERRY」の『Schweinの椅子』、メタル色に生まれ変わった「NoGOD」の『1/3の純情な感情』、さらにクリアなハイトーンが売りの「DaizyStripper」による『With-you』、重厚感ある「12012」の『Winter,again』、Gacktに負けず劣らずの美声を披露した「D」の『月下の夜想曲』などは必聴だ。
もちろん「SOPHIA」の『街』や「LUNA SEA」の『STORM』などは、原曲があまりにも良すぎるゆえ、カバー曲でも泣けてしまうほど(すん、すん……すん)。ここ数年、90年代のモンスターバンドが再び動きを見せ始めている。そんなレジェンドたちの行く末を見守るためにも、まずは「CLUSH!」で過去の名曲に触れ、打ち震えていただきたい。
(ヤマグチユキコ)