こんなセリフから始まるマキヒロチ(『いつかティファニーで朝食を』)の『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』は、「不動産」をテーマにしたちょっと珍しいマンガだ。

吉祥寺といえば、住みたい街ランキング上位の常連として知られている。確かに、新宿・渋谷まで20分程度と交通の便がよく、デパートも個人商店も充実しているので買い物にも困らない。井の頭公園もあるので、自然豊かな環境としての魅力もある。さらには、街の利便性を上げるべく、大きな再開発も進行中だ。
お洒落で、キレイで、便利。吉祥寺は確かにいい街だ。しかし、吉祥寺"だけ”がいい街ではない。
吉祥寺盲信者に告ぐ「いっぺん吉祥寺は忘れよう」
新しい商業施設がどんどんできて利便性が高まる反面、個性を失いつつある街、吉祥寺。冒頭の「吉祥寺も終わったな」は、本書の主人公・重田姉妹(双子)の言葉だ。亡くなった両親の跡を継いで5年前から吉祥寺で不動産屋を営んでいる2人を訪ねてくるのは、「やっぱり、住むなら吉祥寺?」という人たち。
客たちは、さまざまな事情を抱えている。
例えば、第1話「重田不動産」に登場するのは、7年同棲していた男に「好きな人ができた」と告げられ、家を探すことになった若い女性である。
上京して以来7年、ずっと吉祥寺に住んでいるという彼女の探す家の条件は、こんな具合だ。
・家賃8万円
・吉祥寺駅から徒歩10分以内
・築浅
・風呂トイレ別
しかし、気に入る物件は見つからない。