誰もが知っている『週刊少年ジャンプ』。人気、売上ともにトップを走り続ける、日本一の少年誌だ。
230万部強の発行部数は、出版不況と言われる現在でも週刊少年誌の中でダントツ1位だが、90年代にはさらにとてつもない大記録を打ち立てているのをご存知だろうか?
1994年の年末に発売された1995年3ー4合併号は、驚異の653万部! 漫画雑誌の最高発行部数であり、ギネスにも登録されたこの記録は未だに破られていない。この歴史に残るジャンプの掲載マンガは下記の通りだ(掲載順)。

【巻頭カラー】スラムダンク/井上雄彦
【特別読切】SHADOW LADY/桂正和
【パートカラー】マインドアサシン/かずはじめ
ドラゴンボール/鳥山明
みどりのマキバオー/つの丸
とっても!ラッキーマン/ガモウひろし
るろうに剣心/和月伸宏
ボンボン坂高校演劇部/高橋ゆたか
【特別読切】NANPOUDEN~南方遊伝~/梅澤春人
地獄先生ぬ~べ~/岡野剛・真倉翔
ジョジョの奇妙な冒険/荒木飛呂彦
キャプテン翼ワールドユース編/高橋陽一
こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本治
新ジャングルの王者ターちゃん/徳広正也
DRAGON QUESTダイの大冒険/堀井雄二・三条陸・稲田浩司
影武者徳川家康/隆慶一郎・原哲夫
NINKU 忍空SECOND STAGE/桐山光侍
RASH!!/北条司
ろくでなしBLUES/森田まさのり
BOY ボーイ/梅澤春人
BAKUDAN/宮下あきら
王様はロバ~はったり帝国の逆襲~/なにわ小吉


大記録の牽引役は『スラムダンク』&『ドラゴンボール』


この時代の二枚看板は『スラムダンク』&『ドラゴンボール』。
『スラムダンク』はアニメも大人気で、バスケブームも沸騰中の頃。インターハイ1回戦、大阪代表・豊玉高校との熱戦がオールカラーで描かれている。1994年は5回も巻頭カラーを飾るなど、この時代のジャンプの大黒柱として大活躍。この号では、3作目の映画やスーパーファミコンの新作ゲームの告知も掲載と、ケタ違いの勢いを誇っていた。


『ドラゴンボール』もアニメ、映画、ゲームとすべてが絶好調の頃。魔人ブウと悟空の息子・悟飯が激闘中の500話が掲載されている。悟空を生き返らせるために大界王神さまが自らの命を差し出すシーンがクライマックス。と言っても、悟空の「天使の輪」が自身に移動するだけで、緊迫感ゼロ。……相変わらず命の軽いマンガである。
オマケのポスターカレンダーは折りたたみ式の超特大サイズ。
これは嬉しいサービスだ。

アニメ化・ゲーム化作品が目白押し


この号の発売時には『スラムダンク』『ドラゴンボール』の他にも、『とっても!ラッキーマン』『キャプテン翼』『ジャングルの王者ターちゃん』がアニメ放送中であり、『NINKU 忍空』はこの直後に放送開始、翌96年には『みどりのマキバオー』『るろうに剣心』『地獄先生ぬ~べ~』『こち亀』の放送がスタートしている。しかも、ほとんどが全国ネットのゴールデンタイム放送なのが凄い。

当時は、次世代ゲーム機としてプレイステーションやセガサターンが登場し、スーパーファミコンやゲームボーイも現役バリバリ、家庭用ゲーム機が花ざかりだった時代。どの作品も様々なハードでゲーム化され、どれもが平均点以上のヒットを飛ばしていた。
現在まで続く、ジャンプのメディアミックス路線の最盛期と言えそうだ。

現在まで連載が続く『ジョジョ』&『こち亀』


この時点での『ジョジョの奇妙な冒険』は第4部で、この部のラスボス・吉良vsナゾの生物・猫草というマニアックなバトルを掲載。
現在、青年向け月刊誌『ウルトラジャンプ』で連載されている第8部は、この第4部のパラレルワールドが舞台。
途中ブランクがあったとは言え、まさかここまで続くとは……そして、この第4部が20年以上の時を超えてアニメ化されるとは、この時点では誰も思っていなかったはずだ。
そう言えば、この時点でもジャンプ掲載時のタイトルに付いていたキャッチコピー「ロマンホラー!深紅の秘伝説」って一体何だったんだろうか?

『こち亀』は、両さんの弟・金次郎の娘が誕生し、皆で祝福するちょっとイイ話。しかしそこは『こち亀』。悪友がどうにかゲットした金髪美女の無修正ヌード写真のパズルに、興奮しながら取り組む両さんたちであったが、完成してみると金髪美女はニューハーフ。下品なオチが待っているのであった。

大御所でも短期打ち切りを食らうジャンプの厳しさ


『キャッツアイ』『シティーハンター』と連続で長期連載のヒット作を生み出した北条司は、続く3作目『こもれ陽の下で…』が短期打ち切りとなった直後の勝負の4作目『RASH!!』を連載中。

「こまかいことは気にせずにとにかく今日もラッシュ!ラッシュ!!」と煽りが付いている13話が掲載されている。悲しいことにこの作品は全16話で打ち切り。自身の連載作品の中でも最も短命という不名誉な記録となった。そう思うと、ヤケクソ気味のこの煽りに同情を禁じえない……。

『魁!!男塾』の大ヒットに次いで発表した『瑪羅門の家族』が『男塾』の二番煎じで中途半端に終わった宮下あきらは、満を持してボクシングマンガの『BAKUDAN』を連載中。
こちらの煽りは「プロボクサーの間で話題騒然!? 本格ボクシング漫画!!」とあるが、明らかにボクシングのルールを知らないであろう、勢い重視のボクシングマンガ。
こちらも全17話で終了している。

この時点では暗黒期にあった二人の大御所だが、現在、北条司は『月刊コミックゼノン』にて『シティーハンター』のパラレルワールドが舞台の続編『エンジェル・ハート 2ndシーズン』を、宮下あきらは『週刊漫画ゴラク』にて男塾の続編『極!!男塾』を連載中。看板マンガを持つ漫画家は実にタフでしぶとい。

掲載作品の一部を振り返ってみたが、あの頃の思い出が蘇った人も多いのでは。大記録から始まった1995年だが、この年についに『ドラゴンボール』が連載終了。それに伴い読者離れが加速し、翌96年の発行部数は500万部にまで急降下している。
(それでも80年代黄金期よりも凄いのだが……)
この時期、新人も新たな看板作品も育たずで、編集部も様々なテコ入れを模索。96年の新年2号では、ジャンプでは異例中の異例となるグラビア(当時人気の安達祐実)を掲載。その混迷ぶりは読者にも痛いほど伝わって来たのだった。

毎週少年ジャンプを買い続けてすでに30年以上、とっくに中年になっている筆者は、ジャンプのいい時代も悪い時代も見守り続けて来た。そんな筆者が今のジャンプに言いたいことはただひとつ。
「『ハンター×ハンター』よ、早く再開してくれ!」
それだけである。
(バーグマン田形)