椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

■椎名林檎/【椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015】ライブレポート
2015.11.06(FRI)at NHKホール
(※画像8点)

美しくもおどろおどろしい百鬼夜行へようこそ

歌舞伎や落語はもとより、小説や漫画にも多く見られるように、音楽でも怪談や説話を題材にした演目があっていい。全国11ヶ所18公演に及ぶホールツアー【椎名林檎と彼奴等がゆく 百鬼夜行2015】は、鬼や妖怪、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、おどろおどろしくも美しい音楽絵巻となっていた。


椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

ツインギターと管楽器隊を要する“MANGARAMA”と名付けられたバンドは、百鬼師団から観客を守る高僧(ラマ)だろうか。夜の7時を迎えると同時に、スクリーンに現れた無数の“MANGARAMA”のお札が破られ、地獄の門の扉が開いた。角かくしを冠った椎名林檎が身に纏(まと)っている振袖には、鶴の刺繍が施されている。狐ならぬ、鶴の嫁入りのような大行進の始まり。ピアノトリオによる張詰めたアンサンブルに管楽器がデカダンな彩りを添える「凡才肌」の演奏を終えると、一拍置いて、百鬼夜行に遭遇した観客をぐるりと見渡し、深々と頭を垂れた。洒脱なコード進行が映える「やさしい哲学」とタンバリンが軽快なリズムを奏でる「いろはにほへと」で、“今、この瞬間”の命の輝きを実感させた後、突如、雷が落ち、吹雪が吹き荒れ、天候が風雲急を告げる。
そして、「尖った手口」で映像に登場した虚無僧姿のMummy-Dの鋭いラップによって、我々はおそらく彼奴等と娑婆(しゃば)に出た。

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

角かくしを取った椎名による「みなさんようこそ」という口上。改めて、椎名林檎と彼奴等が地獄から現世へと辿り着いたことを告げられた後、ここから豪奢(ごうしゃ)なショウが繰り広げられた。不在の向井秀徳による念仏が炸裂した「神様、仏様」を始め、舞台と客席が一体となってスイングしている様を見届けた椎名は“MANGARAMA”に舞台を任せ、姿を消した。熱狂のソロ回しの最後にエレキギターが空間を歪ませると、濃紺のコートを羽織った椎名が再登壇。アーバンなR&Bからサンバ、ボサノバと自在にリズムを変えながら、「熱愛発覚中」ではコートを脱ぎ、赤のエナメルヒールを履いたナース姿がお目見得。
2本のエレキギターに囲まれて悩ましげに歌唱するとさらにナース服をも脱ぎ捨てた。ステージ上に紅一点が咲く、色に目がくらみそうになる緋色のシルクランジジェリー。アコギを掻き鳴らしながら「とりこし苦労」でコブシを効かせ、続くロックバラード「至上の人生」では漢語にした歌詞が投射された。歌い終わった彼女はやおら後ろを向き、うつむいた。グレイのファーコートを手にし、管楽器と光がシンクロする「ブラックアウト」で身体を弓のようにしならせ、ホットなフォービートの「迷彩」では番傘を持って歌い、舞踏家のような華麗なお辞儀をしてみせた。前奏から大きな歓声が上がった「罪と罰」を正面に睨みを利かせながら歌いきり、番傘を放り投げて退場。
浮雲の歌唱によるブルーボッサ「夢の途中」を経て、百鬼夜行は終盤へと向かっていった。

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

拡声器を手に現れた椎名は、太鼓がプリントされたロングシャツに縦縞の羽織、“MANGARAMA”の曼荼羅と林檎の花が織り込まれたロングスカートで、バンドとお揃いの出で立ちとなっていた。アブストラクトなヒップホップ「Σ」に刺激を受けながら、ふと会場内を見渡せば、同じ羽織り、シャツ、パンツ姿の観客も見えた。鬼や妖怪、市井の人々紛れ、いつの間にかラマの数が増えていたのかもしれない。管楽器のファンファーレを合図に“MANGARAMA”の電飾が登場しレビューを想起させる「マヤカシ優男」を経て、歌謡ファンク「名うての泥棒猫」を歌い終えるとステージ上で衣装の引き抜き。ご機嫌なスカナンバー「真夜中は純潔」に続く、ミニマルなテクノポップへとリアレンジされた「きらきら武士」は、扇子を振りながら浮雲とデュエット。
サンバのリズムが飛び出した「華麗なる逆襲」では観客が旗を振って応戦すると、天井から冒頭で割られたお札が降ってきた。リズムマニアックな「御祭騒ぎ」と「長く短い祭」を一気に歌い、踊りながら鬼や妖怪たちの帰路を見送った。

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

椎名林檎 “百鬼夜行”ツアーが終了。東京公演を詳細レポート/ライブレポート・セトリ
撮影/荒井俊哉

ロングスカートを剥ぎ取り、ブルーのタイトなカットソーに黒のチュチュ姿となった椎名が拡声器片手にステージ上を左右に歩き回る背景では、再び豪雨に見舞われたが、やがて雨は上がり「NIPPON」で快晴の空に日の丸が高々と掲げられた。会場も明るくなっており、夜の帳(とばり)が引かれるとともに百鬼夜行が去ったことが知らされたのだ。

「お客さんのリアクションを見て、さっき袖で話して決めました」という日替わりのアンコール曲は「青春の瞬き」であった。<目指していた場所へたどり着いたんだ>と唄われたが、演者が去ったあとエンドロールで80年代風のアニメーションを見せられてもなかなか現実世界に戻れず、此処が何処で今が何時なのかも分からない、惚けたような感覚のまま取り残された気分だった。
果たして現実に帰ってきたのか、それとも、師団の一人になってしまったのか分からない。ただ、もしも此処が地獄であっても、これほどスリリングで刺激的な夜を体験できるのであれば、女の幽霊にだって恋をするし、百鬼夜行についていったとしても後悔はない。
(取材・文/永堀アツオ)

≪セットリスト≫
1. 凡才肌
2. やさしい哲学
3. いろはにほへと
4. 尖った手口
5. 労働者
6. 走れゎナンバー
7. 神様、仏様
8. 現実を嗤う
9. SG
11. とりこし苦労
12. 至上の人生
13. ブラックアウト
14. 迷彩
15. 罪と罰
16. 夢の途中
17. Σ
18. 警告
19. マヤカシ優男
20. 名うての泥棒猫
21. 真夜中は純潔
22. きらきら武士
23. 華麗なる逆襲
24. 御祭騒ぎ
25. 長く短い祭
26. 群青日和
27. NIPPON
<アンコール>
1. 青春の瞬き

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