
善悪両方のイメージを持つために犯罪者役に
漫才コンビ「ツービート」の片割れとして1980年のマンザイブームで頭角を現したたけしは、翌81年放送開始のラジオ番組「ビートたけしのオールナイトニッポン」とテレビバラエティ「オレたちひょうきん族」に単独で出演、カリスマ的な人気を集めることになる。
俳優としても81年公開の映画「マノン」(東陽一監督)、82年放送の連続ドラマ「刑事ヨロシク」(TBS系)などに出演しているが、エポックとなったのはやはり83年公開の大島渚監督の映画「戦場のメリークリスマス」だろう。同作での好演は俳優・ビートたけしを広く印象づけるに十分だった。しかし、当のたけしは、劇場に足を運んだ際、自分が出てくる場面で大爆笑が起こったのにショックを受ける。そこで善悪両方のイメージを持つために、悪い役をやらなきゃいけないと思ったという(「東京新聞」2014年1月18日付)。
TBSのドラマ「昭和四十六年、大久保清の犯罪 ~戦後最大の連続女性誘拐殺人事件~」(1983年)で、たけしが実在の殺人犯・大久保清の役に起用されたのはちょうどそんな時期だった。
1971年に起きた事件自体は本当に陰惨でひどい事件である。大久保はベレー帽にルパシカという出で立ちで芸術家を装い、次々と女性に声をかけては自分の車に誘い込んで、そのうち8人を殺害した。ドラマはこの事件のルポルタージュである筑波昭の『昭和四十六年、群馬の春 大久保清の犯罪』(1982年)を原作している。