NOTTV終了で「名古屋テレビ塔」が6月末に職を失う?

「NOTTV」終了で電波塔としての役割どうなる


東京のシンボルとなっている東京スカイツリーや東京タワー。これらは観光資源としての役割もあるが、本来の役割は、複数の放送電波を発射する「集約電波塔」である。日本に数ある電波塔のうち、日本で初めて建設された集約電波塔である名古屋テレビ塔が今、本来の役割を失う危機に直面している。


わが国のテレビ放送は開始当初、各テレビ局がそれぞれ独自の電波塔で電波を発射していた。たとえば東京では、NHKにアンテナを向けると日本テレビの映りが悪くなる、日本テレビにアンテナを向けるとTBSの映りが悪くなるといった事例が発生。すべてのテレビ局が同じ場所から電波を発射する「集約電波塔」が理想とされ、名古屋テレビ塔は1954年、その第1号として誕生している。

それ以来、名古屋テレビ塔は東海地区にVHF※テレビ放送の電波を送り届ける役割を担ってきたのだが、2011年7月24日にアナログテレビ放送が終了。東海地区の地デジ電波は、新たな集約電波塔である、瀬戸デジタルタワーから発射されることとなったため、名古屋テレビ塔はその役目を終えた。
※VHF…アナログテレビの1~12チャンネル

すると名古屋では、名古屋テレビ塔の存廃論議が巻き起こった。
電波塔は工作物として建てられているため、建築物として存在し続けるには耐震工事が必要になることが露呈。また、テレビ局からのアンテナ賃料も途絶えることで収益が大幅減少する見通しとなり、その存在意義が問われたのである。

そこに救世主が現れる。スマートフォン向けマルチメディア放送「NOTTV」である。2012年4月からNOTTVのプラットフォームとなるジャパン・モバイルキャスティング社が名古屋テレビ塔より電波の発射を開始。名古屋テレビ塔は再び電波塔としての役割を担うこととなり、株主である名古屋市とともに耐震を見据え、電波塔としての第2の人生が始まった。


あれから4年…。今年6月末をもってNOTTVが放送を終了することを発表。名古屋テレビ塔は再び電波塔としての役割を失う見通しとなり、今後どうなってしまうのか。名古屋テレビ塔と名古屋市にお話を伺った。

耐震化にかかる莫大な費用


名古屋市は、市民や関係者・有識者の意見を、2013年3月に「名古屋テレビ塔の活用調査」という報告書にまとめている。報告書によると、いくつもの問題を抱えていることがわかった。

名古屋テレビ塔は、5階までが建築物、それより上の鉄塔が電波塔という工作物としての扱いとなっている。
アナログテレビ送信設備があった場所を、商業利用するために改装するとなると、すべてが建築物という扱いになり、耐震化が前提となる。

そもそも、工作物だの建築物だのといった扱いの前に、現在の状態は「震度5強相当では耐力に余裕がない」と判定されており、その問題をクリアしなければならない。これについては、電波塔であるかどうかに関係なく整備を進める方向で動いており、耐震費用は名古屋テレビ塔の試算では約15億円、名古屋市の試算では約23億円となっている。

しかし、アナログテレビ放送の終了にともない、テレビ局からの賃料収入約7,600万円を失うこととなり、これは当時の経常利益とほぼ同額。その状況下で耐震費用を捻出するのは難しく、報告書のなかでは名古屋市が所有する形での「管理委託方式」「指定管理方式」「PFI方式」、市が所有しない場合の課題などの検討が行われた。

そんななか、NOTTVの開始にともないジャパン・モバイルキャスティング社より2千万円の賃料が入ることになり、名古屋テレビ塔の担当者によると「栄グランドビジョンという再開発計画が見え隠れしていたこともあり、節減して将来に備える」という方針をとり、名古屋市もそれ以降は様子見で、現状維持の状態が続いていた。


名古屋市民はどう考えているのか


名古屋市による活用調査報告では、市民アンケートや有識者会議を重ね、意見がまとめられている。まず、名古屋テレビ塔の存在性については「貴重な財産として存続することが大前提」「公園・道路と連携した名古屋の観光まちづくりの核に相応しい整備」「新たな形の社交場に」といった結論に達している。

一方で、名古屋市民へのアンケートの「名古屋テレビ塔を存続させるために協力したいこと」という設問では「金銭的な協力に消極的な層が一定割合みられる。」という結果が出ており、存続はしてほしいものの、自らが金銭的な協力をすることには消極的なようである。

イベント実施で売上減の吸収見込む


このように、名古屋テレビ塔の耐震化、観光のランドマーク化、活用などの調査・検討が行われたのだが、その前提には「現役の電波塔」としての役割があり、賃料収入はもちろんのこと、NOTTVのアンテナがあるということが、名古屋テレビ塔の本来の役割として大きな位置を担い続けるはずだった。

しかし昨年11月27日、NOTTVは2016年6月末をもって放送を終了すると発表。名古屋テレビ塔は再び、電波塔としての役割を失うこととなってしまった。

これについて名古屋市の担当者に聞いたところ、2013年に報告書をまとめて以降、名古屋テレビ塔の今後について具体的に何か動いていることはなく、NOTTVの終了に関しては「とにかく見守るしかない」と言葉は少ない。

一方、名古屋テレビ塔の担当者によると、「当社が契約していますジャパン・モバイルキャスティング社からは正式に解約のお話しはいただいていません」としたうえで「もともとNOTTVは、アナログテレビ放送終了に伴う電波帯の有効活用として、総務省主導で始まったものであり、活用を続けるためにも別の使用方法を模索しているのでは」と、薄いとしながらも期待をにじませている。


また、昨年より「節減して将来に備える方針」から転換、あくまでもNOTTVの終了を予測したものではないとの前置きで、「CITY LIGHT FANTASIAといったイベントを積極的に行うことで、売上を増やす取り組みを始めており、NOTTV撤退の売上減については吸収できる見込みを持っています」とのこと。

名古屋テレビ塔は今、新たなシンボル・聖地へ


結果的に、名古屋テレビ塔は「日本初の集約電波塔」でありながら、経営的には「脱電波塔」として収益を上げる構造へと転換せざるを得なくなったのである。名古屋のランドマークとして、魅力ある観光名所として第3の人生を今、歩みだす。

しかしその一方で、「NOTTVの電波の受信状況などがきわめて優れているという見解をいただいており、耐震整備などが完了した暁には様々な電波利用に向けた営業努力はできると思っています」とのことで、まだまだ、現役電波塔としての夢も抱き続ける。

かつては、戦後復興のシンボル、現在は「恋人の聖地」に認定されている名古屋テレビ塔。

これからはそれに加えて、時代の波に飲まれ仕事を失っても、取引先から契約を切られてもしぶとく生き残り続ける、リストラ・解雇を乗り越えるシンボルとして「転職の聖地」「起業の聖地」にもなりそうだ。

(川合登志和)