40代以上ならまず思い出すのが、堺正章主演、三蔵法師を夏目雅子が演じた1978年の『西遊記』(日テレ系)だろう。沙悟浄が岸部四郎(※当時は岸部シロー)、猪八戒は西田敏行。
円谷プロが特撮を担当し、平均視聴率は20%近く獲得、ゴダイゴが歌う主題歌『ガンダーラ』『Monkey Magic』も大ヒット、翌年には続編も制作された(※2作目で猪八戒を演じたのは左とん平)。
三蔵法師を女性が演じ、中世的な神秘性を演出するのが定番になったのも、この作品がきっかけだ。
2000年代なら、2006年にフジテレビ系で放送された、香取慎吾主演の『西遊記』だろうか。三蔵法師が深津絵里、沙悟浄は内村光良、猪八戒は伊藤淳史がそれぞれ演じた。
こちらも平均視聴率20%超え、翌年には劇場版も公開された。最終回には、堺正章がお釈迦様役ゲスト出演したり、悟空が“仲間”のことを、“なまか”と呼ぶのが口ぐせだったりした。


宮沢りえとモックンが出演した『西遊記』


じゃあ、90年代はどうか。「宮沢りえとモックンのやつ!」と答える人、多いかもしれない。
93年に日テレ開局40周年の記念作品として製作され、大々的に放送された、単発のスペシャルドラマだ。孫悟空が本木雅弘、三蔵法師は宮沢りえ。沙悟浄が嶋田久作で、猪八戒は河原さぶが演じた。
今も続くCMの“伊右衛門コンビ”でもあるが、美しすぎる悟空と三蔵だ。前述の通り40周年記念ドラマということで宣伝などにも気合いが入っていたかと思うが、26.9%という高視聴率を記録した。
ヒットの印象と、何よりその主演の2人のイメージが強く、その翌年に放送された、連ドラとして放送された『西遊記』の存在は、つい忘れがちになってしまう。

唐沢寿明のアクションが魅力的だった『新・西遊記』


94年4月から日テレで放送されたドラマ『新・西遊記』。孫悟空は唐沢寿明、三蔵法師を牧瀬里穂が演じた。沙悟浄は柄本明、猪八戒は小倉久寛。前述の、本木・宮沢版スペシャルドラマのヒットによって連ドラ化されたわけだが、視聴率は当時としてはかなり低い、ヒトケタを連発し、最高視聴率も12.3%にとどまるなど、かなり苦戦した作品だったようである。

本作の魅力は、まず、主演の唐沢のアクション。トーク番組などで時折語られているが、唐沢は若手俳優時代にスタントマンを経験、ヒーローショー等にも出演している。
そういった経験から、劇中バク転やアクロバットなどを自ら披露していた。
そして、当時のテレビドラマとしてはまだ珍しかったCGを多様、“馬”を演じた柳沢慎吾がモーフィングで馬から人間になったり、妖怪たちが繰り出す技が、かめはめ波のように派手な合成で描かれたりしていた。

苦戦した唐沢版『西遊記』


アクションやCG合成、そして唐沢が演じた、少年マンガの主人公のような、明るくカッコいい悟空は、トーク番組で見られる、“素”の唐沢のイメージにも近い印象もある。そのためか、ちょっと特撮ヒーローモノのような雰囲気もあった。明るく派手ではあるが、そこにちょっと「お子様向け」的な印象を抱いた人もいたかもしれない。
そして何より、「モックン版のヒットを受けて製作が決定した」、これが苦戦の最大の理由だったのかもしれない。
モックンとりえの『西遊記』を見たかったのに、ということで。さらにいえば、昭和の堺版『西遊記』の印象も強すぎるところもあるか。

牧瀬里穂にしても、当時、宮沢りえ、観月ありさと並んで「3M」と言われる存在ではあったが、明るく元気なイメージも強い牧瀬は、夏目雅子から続く三蔵法師のイメージの、神秘性の面も、どうしても薄くなってしまったかもしれない(仮に観月ありさでもそうだったかもしれないが)。
加えて、このドラマ、金曜20時という時間帯だったこともあり、ナイターで休止ということも多かった。そのため、数話ぶんが短縮されたそうである。

不利な条件も多く重なった、90年代『西遊記』。
上述のCGの意欲的な使われ方や、唐沢の派手なアクションも、他の作品ではなかなか見ることができない。現在までビデオやDVDなどで、全話のソフト化をされたことがないというのも、幻の作品感を高めているかもしれない。
「つい忘れて」しまわないよう、時々思い出したい90年代『西遊記』である。
(太田サトル)
※画像はamazonより「西遊記」