2代目引田天功、通称“プリンセス・テンコー”ほど、謎に包まれたスターはいないでしょう。というより、この女性マジシャンが「スター」であることを、日本人は実感しづらい立場だと言い換えた方が適切かもしれません。


初代引田天功の急逝をうけ、2代目を名乗るようになったのは1980年のこと。以来、先代の遺志を継ぐ大掛かりな脱出マジックを披露して、人気を博すようになります。80年代末からは積極的に海外進出を推し進め、世界各国で公演を展開。これにより国外で抜群の名声を獲得。しかし、母国である日本では影が薄くなるという、ある種の逆転現象が生じていきます。

実は世界的スターのプリンセス・テンコー


実際、国内ではあまり知られていませんが、彼女が世界的スターであることを証明する逸話は実に豊富。例えば、アメリカで本人をキャラクター化したアニメが放送されたとか、同じく米国でテンコー人形が800万体も売れたとか、マイケル・ジャクソン、金正日とも親交が深かったとか……。

いずれのエピソードも浮世離れしすぎてて「本当に?」疑いたくなるものばかり。こんな大人物が、なぜ日本活動時は売れないCDを2枚リリースし、戦隊モノ番組にゲスト出演する程度のタレントとして燻っていたのでしょうか……。

突然の結婚宣言に世間は騒然


さて、そんなミステリアスなタレントであるため、私生活も謎に包まれているテンコー。しかし2000年11月、スポーツ紙上で結婚宣言したことで大きな話題を呼びました。当然、その「お相手」に注目が集まったわけですが、本人曰く、あまりにビッグネーム過ぎて「発表したら、殺されるかも」とのこと。
テンコーによると、相手と出会ったのは1995年ごろ。すぐに打ち解けて交際に発展し、ビバリーヒルズやニューヨークの彼の家で幾度となく逢瀬を重ねたのだとか。
彼は宝石や指輪をプレゼントしてくれたり、クルーザーやロールスロイスも用意してくれたりするなど、相当テンコーに入れあげていたというのです。

人気スターの名前が挙がるなかで……


このテンコーの談を受けて、マスコミは早速「花婿探し」を開始。キアヌ・リーブス、チャーリー・シーン、ジム・キャリー……さまざまなハリウッドスターが候補となります。

なかでも、有力視されていたのが、ジャン=クロード・ヴァン・ダム。「親日家で格闘技経験者」という噂がもとで、名前が上がったのです。ヴァン・ダムといえば、映画『ユニバーサル・ソルジャー』『タイム・コップ』などへの出演で、90年代前半に勇名を馳せた肉体派ムービースター。
11歳のときから始めた空手は黒帯を取得するほどの腕前であり、その格闘技経験に裏打ちされたダイナミックなアクションと、甘いマスクで人気を博していました。
また、日本への愛着も度々口にしている点でも、テンコーの言う条件にピッタリ一致していたのです。

「誰それ?」と発言したジャン=クロード・ヴァン・ダム


結婚宣言の後、テンコーは「宇宙ハネムーン計画」という、驚天動地のプロジェクトに向けて始動していることも発表しました。既にロシアで宇宙飛行訓練を行ったとも語り、いよいよ結婚は秒読みかと思われていた矢先。タイミングよくヴァン・ダムが来日します。
当然、報道陣はテンコーとの結婚についての言質を取るため、彼にマイクを向けたのですが、返ってきたのは「プリンセス? 誰それ?」「名前のつづりも知らない」との発言。さらに写真を見せられても「ビューティフルレディーだ。
いい人生を送ってほしいな」と、何とも他人行儀なコメント。どうやら、本当にテンコーとは面識がないようなのです。

この件を受けて、マスコミがテンコーに問いただしたところ、「ヴァン・ダムさんとは一言も言っていない」と噂を一蹴。じゃあ、ヴァン・ダムじゃなくて誰なの? そんな世間からのツッコミものらりくらりかわして、結局、2016年の現在に至るまで独身を貫いているプリンセス・テンコー。
幾度の大規模マジックによって、スターダムへとのし上がってきた彼女のこと。この騒動も自身の価値をより高めるため、マスコミを意図的に操作した壮大なイリュージョンだったのでしょうか……。
今となっては知る由もありません。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより引田天功の華麗な世界 [DVD]