5月13日。誉田哲也著作のミステリが2冊同時に発売された。
『硝子の太陽Noir』(中央公論新社)『硝子の太陽Rouge』(光文社)。両著は誉田哲也の代表作、〈ジウ〉シリーズと姫川玲子シリーズのコラボレーション小説である。
これは凄い。誉田哲也『硝子の太陽』〈ジウ〉シリーズ〈姫川玲子〉シリーズコラボで2冊同時刊行

硝子の太陽Noirで主に取り扱うのは、謎の覆面集団によるめった刺し事件。警部補・東弘樹が「左翼の親玉」の取り調べをしていたころに起きた。東が情報交換をする「ネタ元」の一人の男が被害者となっている。
これは凄い。誉田哲也『硝子の太陽』〈ジウ〉シリーズ〈姫川玲子〉シリーズコラボで2冊同時刊行

硝子の太陽Rougeでは一家惨殺事件が取り扱われる。
被害者は単身赴任である父・隆一を除く地下アイドルで25歳の繭子、大学生の高志、母親の桃子。股間近くを発砲された死体がリビングに並べられた形で発見された。

ドラマ化されたことがある両シリーズ


これは凄い。誉田哲也『硝子の太陽』〈ジウ〉シリーズ〈姫川玲子〉シリーズコラボで2冊同時刊行

ジウは2011年7月-9月にテレビ朝日系列にて放送されていた。主演は多部未華子と黒木メイサ。2人の女性刑事を主人公として巨悪組織「新世界秩序」と戦う物語。
これは凄い。誉田哲也『硝子の太陽』〈ジウ〉シリーズ〈姫川玲子〉シリーズコラボで2冊同時刊行

姫川玲子シリーズは『ストロベリーナイト』というタイトル(同タイトルの小説も出ている)でフジテレビ系列にて2012年に放送された。竹内結子演じる女刑事・姫川玲子が菊田(演・西島秀俊)や葉山(演・小出恵介)とチームを組んで難事件を解決していく刑事ものである。


殺人を犯した人間の日常生活


『硝子の太陽R』では各章の冒頭で事件上の重要人物の視点で私生活や生い立ち、事件当時の様子が語られる。
殺人を犯した人間であっても、普段は食事や家族との会話を繰り返し、何かしらの楽しみ・目標を持って生活(楽しみにしているテレビ番組を毎回チェックするとか、ダイエットのためにジム通いするとか)している。人を殺したことに対しての後悔を、家族に悟られることはなく、最初のうちは警察に目星をつけられていることもない。警察に接触されるとき、真実が暴かれたとき、この人物はどのように豹変してしまうのか。

章の途中からは姫川や菊田など、刑事たちそれぞれの視点から事件の捜査が進められる。章が重なるにつれて重要人物と警察の距離は近くなってくる。
警察側の人間が、『おれはうだつのあがらない警察官だったが、今回の事件は……!!』みたいに意気込んでいるのをみると死亡フラグなのではないかと疑ってしまう。


前編・後編というわけでもない


コラボレーション作品、とはいってもどちらの本も姫川シリーズ:〈ジウ〉サーガ=5:5という割合ではない。ルージュは姫川シリーズの方に重きを置いているし、ノワールはジウシリーズの方に重きを置いている。というのも、姫川玲子シリーズのほとんどは光文社から出版されているし、ジウシリーズは中央公論新社から出版されているからだ。

『かつて新宿の裏社会には、体をまったく傷つけず、まるで心臓発作のように人を死に至らしめる技を持った人間がいた。その通り名が「欠伸のリュウ」だったというのだ。』
ルージュでは噂程度にとどめられていた「欠伸のリュウ」がノワールで登場人物の一人として出てくる。また、一方の物語で何も語らずに死んでしまった重要人物も、もう一方で生前に主要人物と会話している場面もある。

ルージュとノワールでお互いの話、謎を補完し合うように物語が構成されている。一方を読み切っただけでは、事件の全貌を知って納得、という気持ちにはなれず、もう片方の本も気になってしまう。

なぜコラボレーションできたのか。


これは凄い。誉田哲也『硝子の太陽』〈ジウ〉シリーズ〈姫川玲子〉シリーズコラボで2冊同時刊行
誉田哲也の作家としてのルーツ、警察小説の作り方が書かれている。

『誉田哲也 ALL Works』(宝島社)で誉田哲也は小説づくりのこだわりについて話している一節があるので抜粋する。
『僕は作品ごとに年表を作っていますが、時間軸は統一してあるので、今は姫川シリーズと『ドルチェ』はそれぞれパラレルに進行していても、いつ世界観を付けあわせても整合性が取れるようになっています。つまり、玲子と久江の共演がいつか実演した場合、作中の事件や出来事が曜日レベルで齟齬が起きないよう配慮しているんです。

『ドルチェ』も『ジウ』や『姫川玲子シリーズ』同様、女刑事ものの話であり、久江は主人公。
誉田は刑事もの以外にも剣道小説『武士道シックスティーン』やバンド活動に勤しむ女の子を描いた小説『疾風ガール』などの青春ものも描いている。登場人物の女の子たちが部活やバンド活動をやっている世界のどこかで姫川玲子シリーズの凄惨な殺人事件が起きていたり、新世界秩序という巨悪組織が歌舞伎町に潜んでいたりするのだ。
今回は刑事もの×刑事ものというコラボレーションだったが、青春小説×青春小説というパターンや刑事もの×青春小説という組み合わせも可能であるということになる。
(山川悠)