日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は4人に1人。 2060年には国民の約2,5人に1人が65歳以上の高齢者となるという(平成28年版高齢社会白書)。
そんな時代を象徴する雑誌が、シニア向けファッションカタログ、その名も「日本橋」。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
2016年・秋冬号(最新号)
 

「春・夏」と「秋・冬」という年2回の季刊誌で、2013年の春・夏号を0号として計7冊刊行。

ほかの号の中身を見ても、シニアの方々がそれぞれオシャレを楽しんでいる。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
2014年・秋冬号 
 

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
2013 年・秋冬号


さて、どの号にも最後のページには「読者モデル」の募集があった。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた


てことは写真の彼女はみな読モなのか? また「日本橋」という誌名も気になる。ということで、出版元である「長井スプリング製作所」(港区芝)にアポをとり、これまで誌面に登場したことのある方々を集めていただいてインタビューを試みた。


合計年齢595歳、平均年齢85歳の読モ軍団


当日来るのは2~3人と聞いていたのだが、フタを開けたら7人の方々が一挙大集合!

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
写真左上から平野さん、櫻井さん、山村さん

左下から松尾さん、須藤さん、立石さん、宮本さん
(港区芝「三田いきいきプラザ」にて)


話を聞けば皆さん、やはりというべきかプロのモデルさんではなく、一般の方だった。巷では「原宿系読モ」なるモデルが若者の間で人気だが、こちらはさしづめ「巣鴨系読モ」といったところか!? ちなみに若い方でも櫻井さんが72歳。最高齢は宮本さんで89歳。7人合わせて595歳!

そんな彼女たちをつないでいるのはやはり最年長の宮本さん。港区三田界隈で最も顔が広い、人呼んで「三田の営業本部長」。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
宮本さん 若い頃は「軍需工場で戦車をこしらえていた」とか


もともと「長井スプリング製作所」のおばあさんと知り合いだったことから、モデルの口利き役を引き受けたという宮本さん。古い友達や町会員、体操教室の仲間などに「モデルやってみない?」と声をかけていったのだとか。
つまり全員、顔見知り、ご近所さんというわけである。

さてモデルのお仕事について聞いてみると、撮影時間は毎回30分、多くても1時間程度。ロケ車に乗り込み、愛宕神社や六本木ヒルズ、天王洲アイルなど港区内の撮影ポイントを何か所か回って撮影。ちなみに洋服は車中で着替えするという。まさに人気モデル気分を味わえる!

読モ7人と、ワイワイガヤガヤ


ここからは私と読モ軍団7人とのやり取りを再録してみよう。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた


――みなさん撮影で大変だったことは?

須藤さん「お天気に左右されますね。こないだ、すっごい台風だったでしょ」
山村さん「それから夏の暑いときに冬物着なきゃいけないからね。
汗かいて」

――撮影は前倒しで、やってるんですね。

山村さん「でも面白かったですよ、こうやってとか、こうやってとか言われて」

――ポーズも指定されたということですか?

櫻井さん「たまにね」
宮本さん「いやあ、歩けって言われたから歩いただけ」
(一同笑)

――ほかご苦労されたことは?

山村さん「売るお洋服だから、できるだけキレイに見せてあげたいとは素人でも思いますでしょ。でも心の中では思っていてもどうしていいかわからない」

――逆に出てみて良かったことは?

山村さん「いやあ、恥ずかしいですね」
平野さん「初めてだったから、びっくりしちゃうねぇ」

――(冊子を見ながら)みなさんどの号に載られたんですか?例えばこちらは・・・

松尾さん「それは私と立石さん」

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
肩を組んで笑いあう立石さん(左)と松尾さん(2016年・春夏号)


――満面の笑みで肩組まれてますけど

松尾さん「自然とね」

――こちらの場所は?

立石さん「それは東京プリンスホテルかもしれない」

――時期的にはいつだったんですか?

松尾さん「秋かな」

――でも空気も良さそうでいいですよね。あと、こちらは・・・

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
背筋を伸ばして歩く須藤さん (2016年・秋冬号)


須藤さん「私だわね」

――颯爽と歩いてますね。

須藤さん「恥ずかしい限り。表情が固いのよね。
モデルなんかやったことないから」

――でも皆さんおキレイで

櫻井さん「いやあ、もっとバッチリ化粧していけばよかった」
宮本さん「口紅塗っていったらよかったな」

(一同笑)

とまあ和やかにインタビューは進んだ。みなさん、読モを楽しんでやっていたのがわかり、何より元気だった。


介護施設に配布 入居者のオシャレに


さてこの「日本橋」は、実は介護施設の入居者のためものだとか。服の展示販売会を施設内で開催するにあたり、前もってこの冊子の中からお気に入りの服を選んでもらっているのだという。

現在、東京・神奈川・千葉・埼玉・栃木など120~130か所の介護施設に計5000部配布。どうして「長井スプリング製作所」が発刊しているのかというと、取締役の長井孝仁さんが、社内ベンチャーで新規事業として立ち上げたからだとか。


「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
創業92年、バネ製造の老舗「長井スプリング製作所」取締役の長井孝仁さん


長井さんは冊子を考案した理由として、「祖母が生前脳梗塞を患い、車いす生活を余儀なくされたんです。外に出られなくなった祖母の楽しみを考えているうちにオシャレをすれば外にも出てもらえるかなと思ってこのファッションカタログを考えた」と語る。

「読者モデル」も高齢化? 平均年齢85歳の読モ軍団に会ってきた
長井さんは、ありし日のおばあちゃんを、テスト用の0号の表紙に起用 「家族の思い出になった」と長井さん


さて「日本橋」の気になる由来だが、高齢者にも広く知られている街の名前ということから命名したという。全国展開も考えているというこの事業。「日本橋」という誌名がもっと広がり、入居者のオシャレにさらに役立つことを願いたい。