Twitterフォロワー20万人超のラブホスタッフ上野さんによる「空想恋愛読本」。本連載では、マンガ・ドラマ・アニメ等の登場人物が現実にいたらモテるのか分析。
そこから女性にモテるためのアドバイスを導き出します。
『化物語』“ド変態”の何倍も致命的な阿良々木暦の欠点【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「化物語 ひたぎクラブ

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阿良々木暦――彼が現実にいたらモテるかどうかについてそろそろ語らなくてはいけないだろう。現実にいたら、なんていう仮定に意味があるのかは分からないのだけれど、こうして話を始めてしまったのだから、最後まで話さないのは不親切な話だ。誰もがそんな無意味な仮定について考えて、無意味な結論に到達し――到達したゴールには意味なんてないのだけれど、その仮定は――過程を求めて、私たちは無意味な議論を通るのだろう。避けては通れない道――ではなく避けたくない道。目的地に到着するために道を歩くのではなく、通りたい道があるから目的地があるのだ。それがこのコラムの現実で――そしてこれから始まるフィクションを現実に仮定する過程の道。


ところで彼はフィクションの存在なのだけれど、そう決めつけるのはいくらなんでも私たちの早計ではないだろうか?
彼からすれば私たちこそがまたフィクションなのだ。私たちが彼のことをフィクションだと思うように、彼もまた自分のことを現実だと思い、私たちのことをフィクションだと思っている。

結局、この議論は永遠に平行線。平行で、決して交わらず並行で、そして閉口しなくてはならない話――どちらが真実かなんてどれだけ語ったところで意味はないのだろう。

ゴールは同じでも――いや、ゴールが同じだからこそ並行なのだ。同じ方向に向かって、同じ場所からスタートする平行線。


しかし、私がフィクションであったとしても、彼がフィクションであったとしても、フィクションが現実を語ることも、現実がフィクションを語ることも私の視点では何も変わらない。。

だってそれは、たとえ私がフィクションでも現実でも――私が為さねばならない仕事なのだから。
『化物語』“ド変態”の何倍も致命的な阿良々木暦の欠点【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「化物語 Blu-ray Disc Box

というわけで今回は『化物語』より、主人公の阿良々木暦が”現実にいたらモテるのか”ということをお話させて頂きます。

作中では人間に幽霊に怪異に神様に、ありとあらゆる女の子?からモテモテな阿良々木君ですが、彼がもし現実にいたら果たして彼はモテるのでしょうか?

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そもそも作中で阿良々木君がモテている理由を考えると、“お節介”と“自己犠牲精神”そして独特の“台詞回し”が大きいでしょう。

困っている人を見かければ誰かれ構わず救っちゃう“お節介さ”を持ち、なおかつ人を救う時には、吸血鬼の特性で多少体力が向上していることを踏まえても、無茶が過ぎるとしか言えない献身さ。

忍野忍、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、神原駿河、千石撫子、八九寺真宵、阿良々木月火、阿良々木火憐、と多くの女性が彼の“お節介”と“自己犠牲”に救われて、彼に好意を持っております。

『化物語』“ド変態”の何倍も致命的な阿良々木暦の欠点【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「化物語 Blu-ray Disc Box

もし彼が現実にいた場合でも、この“お節介さ”“自己犠牲精神”は間違いなくモテる要因になることでしょう。

さすがに彼が現実にいた場合、出会う女性すべてが〈物語〉シリーズのように何かしらの“重大な問題”を抱えているということはないでしょうが、それでも困っている人を放っておけない正義感はプラス評価。

たとえ直接彼から助けられなかったとしても、彼が誰かを救っているところを見て彼のことを好きになる女性だっていることでしょう。


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と、なんとなく彼が“現実でもモテる”風な話をさせて頂きましたが、彼には2つの“致命的な”欠点があるため、現実ではなかなかモテることが出来ないのではないかと思います。

1つ目の欠点は“変態性”

彼の性癖である“女の子の眼球を舐めたい”とか、そういうところは好みの問題なので一旦置いておくとして、日常から頻繁に行われるセクハラは普通に立件レベル。彼も場と相手をわきまえているとは思うのですが、現実では例え彼女が相手であっても彼の性癖、セクハラは擁護できないレベルですので、かなりネックになることでしょう。羽川や月火、火憐、八九寺が異常なだけで、あそこまで積極的にセクハラを受け入れる女性など現実には“まず”おりません。


しかし、実はこちらの欠点は“まだ”許せるレベル。
もちろん大問題なのは間違い無いのですが、それでも“もうひとつの欠点”と比較すればまだ軽微な欠点なのです。

そんなド変態の何倍も致命的な阿良々木暦の欠点。

それは“普通の会話”ができないということ。

これは彼がフィクションだから仕方がない、という側面もあるのですが、彼の会話は「いかにも演技っぽい会話」と「セクハラ」と「漫才のような会話」がほとんどで、「普通の会話」というものがほとんどないのです。

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会話は、身だしなみと並んで人間関係の基本といっても過言ではありません。
ですので、会話が出来なければ、他がどれだけ優れていたとしても、円滑な人間関係を築くことは絶対に出来ないのです。

『化物語』“ド変態”の何倍も致命的な阿良々木暦の欠点【ラブホの上野さんの空想恋愛読本】
画像出典:Amazon.co.jp「figma 化物語 阿良々木暦

さて、そんな人間関係の基本である“会話”ですが、阿良々木くんは“会話力”という意味でのコミュニケーション能力は極めて低いと言わざるを得ません。

確かに彼は饒舌ですし、細かいギャグやセンスのある言い回し、人を説得したり、心を癒すようなことを言うことが出来るでしょう。そういう意味では「トーク力」は間違いなく御座います。

ですが、少なくとも作中を見る限り、彼は「特に面白くもない普通の会話」があまりにも出来ないのです。

まさに“雑談”が出来ないという言葉が適切でしょう。一見すると雑談のように見える八九寺との会話は台本のある漫才のようになっていますし、羽川との会話はほぼほぼセクハラ。
撫子、月火、火憐、神原、たちとの会話も台本があるような流れにしか見えません。

「寒くね?」
「うん、寒い。てかやばい」
「コンビニ行くか。」
「うい」
「腹減った」
「何食う?」
「ファミチキ」

的な、なんの意味も面白みもない会話が阿良々木くんは出来ない。これはおそらく彼が「人間強度が下がる」という理由で、友人をあまりにも作ってこなかったことが原因でしょう。
どんなしょうもない内容の会話をするときも、必ず分かりやすいボケやツッコミを入れてしまうのです。

もちろん物語の登場人物としては、そこが非常に魅力的なのですが、彼の喋り方と言うのは分かりやすく言うと演技的、漫才的であり決して日常会話では御座いません。

会話をしていく中で、たまにそういった演技的、漫才的な喋りを入れるのは全くもって問題ないものの、それはあくまでも「普通の会話」をメインとしている場合に限ります。彼のように“常に”演技的、漫才的に喋る方と言うのは、実際に相手をしてみれば判りますが、非常に疲れますし、ツッコミ側に阿良々木くんのボケをきちんと拾える技量がなければ、凄まじく滑っている人にしかなり得ません。

八九寺や撫子のように適切なボケを入れるのも、羽川のようにどんなボケにも適切なツッコミをするのは、彼らがフィクションの存在だから出来るに過ぎないのです。

現実であれば、私が「愛はコンビニでも買えるよね」と言ったとしても、とっさに「おいおいそんな大事なものがコンビニで買えるわけないだろう?」みたいなツッコミを出来る人などいません。現実的な線で「え?」 ツッコミが上手い人で「買えねえよ」「売ってねえよ」が限界。「コンビニでも買えるけどさ、もう少し探そうよ?」なんていうようなツッコミが出来る人などおりません。

よくネットでは「リア充の会話って中身なさ過ぎじゃない?」というような指摘が上がりますが、お互いに理解が出来る話をしようと思ったら、特殊な状況を除き「中身」を減らさなくてはならない。しかし、コミュニケーション能力という意味ではそれで良いのです。言葉を交換し、一緒に笑うことが重要で、話の中身なんて関係ありません。
面白い話をするのは「トーク力」。「コミュニケーション能力」とは違ったスキルであるということをご理解くださいませ。


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化物語の魅力の一つとして、彼らのセンスのある会話劇が挙げられることは間違い御座いませんが、現実でこういう会話劇をしようとすると、相手の方に相当のスキルがない限り、まず間違いなくただの「なんかよく分からないボケを言っている人」で終わってしまいます。

これはオタクの方が、現実でも極めてやりがちなミスの1つ。

「俺が会話中に色々なボケやツッコミをしてるのに、他の奴が拾わないから俺が滑ったみたいになるのはなんなの? あいつらがコミュ力低いんじゃね?」

と感じることがあったら要注意で御座います。それは残念ながら「拾えないボケ」をしている方が悪いのです。自分は「ツッコミの形」を想定してボケているから、ツッコミが一瞬で思いつきますが、相手からすれば不意打ちなのです。そうそう見事なツッコミなどできません。

トーク力とコミュニケーション能力は違うのです。

様々なボケやツッコミが上手に出来る方、一人で長い時間それなりに面白い話が出来る方、こういった方は「トーク力」があるのは間違い無いのですが、それはコミュニケーションが得意なのではなく、「演劇がうまい」という言葉に近いと言えるでしょう。確かに「話の内容」は面白いかも知れませんが、だからと言ってそれが「コミュニケーション能力が高い」ということとは必ずしも一致しないということをどうかお忘れなきよう願います。

さて、今回のテーマである阿良々木暦ですが、彼は人間的魅力があり、トーク力もありますが、残念ながら「コミュニケーション能力」が致命的に欠如しています。

それは「普通の会話」が出来ないということであり、人間関係の基本が出来ていない以上、現実では彼がモテることはかなり難しいでしょう。
(上野)