2017年3月18日から公開されている「映画プリキュアドリームスターズ!」。オープニング2日間で動員13万5000人、興収1億5800万円を記録し、好調なスタートを切った。

監督の宮本浩史さんと、CGプロデューサーの野島淳志さんにお話を聞いた。
「映画プリキュアドリームスターズ!」感情的に泣いたら鼻水は出る、そこに嘘を吐きたくない
直近3世代が活躍するプリキュア映画は今回が初めて!
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

オールスターズからドリームスターズへ新しい挑戦


──今回、春恒例のオールスターズ映画から直近三世代が活躍するドリームスターズへコンセプトがガラリと変わりました。

宮本 そうですね。今までのオールスターズお約束の流れを一切踏襲できないので、ゼロから作りあげなければいけないところは苦労しました。でも、我々にとってメインのターゲット、映画を一番届けたい対象であるこどもたちにとってわかりやすい方を選ぶべきではないかと思って。こどもたちが馴染みある世代を中心に据えました。

野島 逆に、お話を一からしっかりと作ることができたことにはワクワクしました。


宮本 新しいことに挑戦できるのは楽しいですから。

──「ここでミラクルサクライトを準備するんだ!」と、こどもたちが意気込む雰囲気がすごく良かったです。

宮本 キックオフの段階で、プロデューサーの鷲尾天から「ミラクルライトの踏み込んだ使い方を考えたい」と言われていたんです。

──サクラとキュアホイップが映画館に来てくれたような演出は今までになかったですよね。

宮本 ドリームスターズの前に、あるアトラクション用の映像制作を担当していました。そこで同じような演出を試したとき、かなりウケが良かった。
会場との一体感を作ることができると確信できました。それで、今回もやってみようと。

言葉がなくても伝わる表情へのこだわり


──2Dはもちろん、3DCGでのキャラクターの表情がすごく魅力的ですよね。泣き顔や泥で汚れた顔など、ネガティブな表情も隠さず押し出している印象でした。

宮本 日本国内においては、3Dでここまで踏み込んで芝居をつけることはなかなかなかったと思います。「泥臭いんだけど、何か伝わってくるものがある」。そんな映像を作りたかった。


──サクラが過去を思い出すシーンでは、鼻水まで出ていてびっくりしました。

宮本 美少女だからちょっとないかなあ、とは思いつつも、やっぱり感情的に泣いたら鼻水は出るでしょう。そこに嘘を吐きたくないなと思ったんです。汚くは見えないように、だけど何か真に迫る映像になるように、頑張りました。

──まさに、真に迫ったサクラの表情に泣いてしまいました!

宮本 良かった(笑)。反対に、敵の鴉天狗や赤狗・黄狗はカートゥーン調にして、怖すぎない、楽しい敵キャラクターにしようと思いました。


野島 声優を務めてくれた山里亮太さんもライスのお二人も、ハマりましたね。「怖くなかった!」と喜んでくれたお子さんもいたみたいです。
「映画プリキュアドリームスターズ!」感情的に泣いたら鼻水は出る、そこに嘘を吐きたくない
鴉天狗はプリキュアたちの作戦会議を大人しく待ってくれる。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──後半、赤狗・黄狗が合体したときの声は……?

宮本 合体したときは、赤狗の声です。ライスの関町さんのほう。

野島 「勘弁してくれえ~い!」のほうです(笑)。

宮本 ライスのお二人の、おっとりとしたゆるい感じが、今回の敵の「強いんだけどちょっと間抜け」というイメージに上手くハマりましたね。
鴉天狗も色々と難しいことを言うのですが、もしまだ言葉が伝わらないお子さんが見たとしても面白い感じにしようと思っていました。

──「言葉が伝わらないお子さんに見せる」という点は、ずっと意識していますか。

宮本 2015年の「映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!」の中で、3DCGの中編作品「プリキュアとレフィのワンダーナイト」の監督を務めました。キュアフローラが敵のゼツボーグを倒して「ストライク!」と言うシーンがあったんです。そのシーンを見たお子さんがお母さんに「お母さん、『ストライク』って何?」と聞いているのを聴いて、ハッとしました。

──ストライク!

宮本 言葉がわからない未就学児のこどもたちが見てくれるんだということを、改めて実感しました。
言葉に頼るのではなく、見ているだけで笑えたり楽しくなったり悲しめたり、っていう、ビジュアルから何か伝わるものがある映像を作ろう。それは今回、全編を通してかなり意識した点です。海外の3DCG作品を見るとそうなんですよ。国をまたいで放映すること前提で作られているアニメーションが多いので、言葉が通じなくても、音を消しても面白い。

シズク=先輩監督たち? 世代交代への思い


「映画プリキュアドリームスターズ!」感情的に泣いたら鼻水は出る、そこに嘘を吐きたくない
プリキュアに勇気づけられるサクラは、こどもたちと同じ目線のキャラクター。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──こどもたちが「怖くない!」と言ってくれるのは嬉しいですか。

宮本 はい、それはストーリーでこだわった部分とも関係してきます。今までのプリキュア映画は、最初は楽しく始まって、最後に怖い敵が出てきて、それを倒して終わりという流れが多かった。そこを今回は、最初にちょっと怖いシーンを見せておいて、後はひたすらプリキュアたちがサクラを後押ししていくような、どんどんポジティブになっていく流れにしているんです。

──怖いシーンというのは、サクラとシズクが鴉天狗たちに追いかけられているシーンですよね。

宮本 だから、こどもたちは、最初はあの世界を怖いと感じてしまうかもしれない。そこを、プリキュアたちと一緒に過ごすことによって「プリキュアたちがいてくれるから、もう何も怖くない!」と勇気づけられていくようにしたかった。サクラと同じ気持ちになってもらいたいという思いで演出を考えていきました。

──最後、サクラは成長して大人になるのではなく、またシズクに甘える日常に戻ったような終わり方でした。

宮本 サクラはサクラでちょっとは成長しています。でも、今回の映画で成長させたかったのは、実はいちか(キュアホイップ)です。先ほどもお話ししたように、こどもたちが世界観を追体験できるような受け皿的なキャラクターでした。サクラを助けたり、プリンセスプリキュア、魔法つかいプリキュアのみんなに励まされたりする。もちろん、ミラクルサクライトでこどもたちにも応援してもらう。そうやって、いちかが1人のプリキュアとして自覚を持ったり、強くなったりする成長を描きました。
「映画プリキュアドリームスターズ!」感情的に泣いたら鼻水は出る、そこに嘘を吐きたくない
作中、何度も目線を合わせて会話するサクラとシズク。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──サクラとシズクは「友達」ですよね。でも、シズク役の木村佳乃さんの演技やシズクの振る舞いを見ると、どこか母親的な印象も受けたのですが……。

宮本 そこは意識して、木村さんにも「少女ではなく母性を出していく方向でお芝居をしてください」とお願いしました。後半、シズクはあまり多くを語らないのですが「サクラと同じ景色が見たかっただけや」と言いながら目線を合わせるカットがあります。それは、もの作りの現場でも同じで。東映アニメの鷲尾やABCアニメーションの西出将之さんという何年もプリキュアに関わってきた大先輩たちがいます。彼らは、会議や何か相談をするときに「プリキュアはこういうもの」という決めつけや押しつけをしない。自分のような、監督として経験の浅い若い人間に対しても、意見を丁寧に聞いてくれて、一緒に考えてくれました。まさに「目線を合わせてくれていた」んです。

──シズクとサクラは、鷲尾さんや西出さんと宮本監督だったんですね。

宮本 ……そうですね(笑)。「こいつら、言っていることもやっていることもまだまだだなあ」という歯がゆい気持ちがあったと思います。それでも、若い世代から何かを引き出そうとして、一緒に物事を考えてくれた。尊敬できる大人な存在です。そういう人たちが、サクラみたいな小さい存在に寄り添って、目線を合わせてくれている。そういう象徴の1つとして、シズクの存在がありました。

野島 そう思って、もう1回シズクとサクラを見てください(笑)。

宮本 おっさんとおっさんが鼻を突き合わせている、異様な光景になっちゃうなあ。特に今回、オールスターズからドリームスターズにコンセプトが変わりました。過去にプリキュアに関わってきた人たちからバトンを引き継いで、新しい世代で物語を進めていこうという1つの転機でした。だから、サクラとシズクに自分たちを投影したというか、意識した部分は大きかったと思います。自分も、監督になったからには、鷲尾や西出さんのように若いスタッフの意見を、目線を合わせて聞こうと心がけていました。

野島 今回、どうしても一緒にやりたいと言ってくれた若いスタッフがいました。

宮本 ああ、すごく嬉しかったですね。

野島 レフィを一緒に作った若いスタッフが、どうしても宮本監督とやりたいと言って無理矢理参加してくれました。

──無理矢理!

野島 別な作品に配属されていたのに(笑)。

宮本 前作のレフィのときもなのですが、当時まだ20歳、21歳という若いアニメーターの子たちがいました。言っていることは若いし、まだまだだなと思うこともたくさんあったのですが、その中にすごく情熱を持っているんです。自分も業界10年やってきて、色々立場が上がれば上がるほど、若い子たちが自分に意見を言いにくくなってしまう雰囲気は感じます。それでも、無礼なくらい色々と言ってきてくれるスタッフのほうが、一緒にやっていて楽しいです。
「映画プリキュアドリームスターズ!」感情的に泣いたら鼻水は出る、そこに嘘を吐きたくない
『映画プリキュアドリームスターズ!』大ヒット上映中!
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

▼プロフィール▼

監督:宮本浩史(みやもと・ひろし)

1985年生まれ。兵庫県出身。
20歳で業界に入り、スクウェア・エニックス、Production I.Gを経て2010年東映アニメーション入社。 Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督を目指す。 『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』(『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』)/監督 『Go!プリンセスプリキュア』後期エンディング/演出・CGディレクター 東京ワンピースタワーのアトラクション映像(「ルフィのエンドレスアドベンチャー」内で上映)/監督 『スマイルプリキュア!』『ハピネスチャージプリキュア!』/CGディレクター 映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』/キャラクターデザイン リアルからセルルックまでジャンルを超えた作品づくりに挑戦している。

CGプロデューサー:野島淳志(のじま・あつし)

1979年生まれ。栃木県出身。
『ハピネスチャージプリキュア!』以降「プリキュア」シリーズのCG製作を担当。
『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』(『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』)
『映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』
『映画プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』などで、CGプロデューサーを務める。
その他の主な担当作品は、『ONE PIECE FILM GOLD』CGラインプロデューサーなど
より多くの子供達に愛される作品を目指し奮闘中。


3DCGを生かした作品作りへの思いや今後の展望を詳しく聞いた後編に続く(4/1公開予定)


(むらたえりか)