「知ってる? スティーヴン・スピルバーグもシルヴェスター・スタローンもデニス・ロッドマンもみんな地球人じゃなくエイリアンらしいよ」

かつてそんな無茶苦茶な世界観の映画があった。97年公開の『メン・イン・ブラック』(以下MIB)である。

主役のウィル・スミスとトミー・リー・ジョーンズの黒スーツにレイバンのサングラス姿のビジュアル面も含めて話題を呼び、日本公開に合わせてマルちゃんから「麺・イン・ブラック」という黒いパッケージの何だかよく分からないイカスミ入りのカップ麺まで発売された、90年代を代表する一本だ。

コメディタッチだった『メン・イン・ブラック』


正直、90年代中盤から後半の映画界は世紀末の終末論的なシリアスっていうか、マジすぎてつまらないSF映画が多い中、MIBは「実は地球上には1500体のエイリアンが人間に姿を変えて生活していて、その大半はマンハッタンで真面目に生計を立てている。人間に見えるけどプライベートなところでは完全にエイリアンなんだよ」なんて独自の設定で突っ走るコメディタッチ。

宇宙人を目撃した一般市民に対しては、銀の筒状のニューラライザーがピカッと光るのを見せたら、一瞬で記憶消去に成功。その明るく軽いノリが、普段はSF映画に興味がない層も取り込み、本国アメリカのみならず日本でも大ヒットを記録した。

トミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスの名コンビ


“K”と呼ばれるMIBが誇る伝説的エージェント(トミー・リー・ジョーンズ)は、生身の人間にもかかわらず宇宙人を走って追走するニューヨーク市警の期待の若手、ジェームズ・エドワーズ刑事(ウィル・スミス)のタフさと頭のキレの良さを見抜きスカウト。日常生活と過去を捨て捜査官エージェント“J”に生まれ変わるジェームズ。

「1日37時間シフト」というハードな職場環境で、KとJはコンビを組んで数々の宇宙人とのトラブルを解決して地球の危機を救っていく。
子どものおもちゃのようなスペースガンも驚異的な破壊力。人間を撃ったと思ったら、中から饒舌なエイリアンが顔を出す。で、巨大なエイリアンの腹の中に自らダイブ。

シリアスさとは無縁の98分はあっという間に過ぎていく。

現実とシンクロする映画内容


97年当時、トミー・リー・ジョーンズは51歳、ウィル・スミスは29歳。この頃は若手ラッパーから、注目の若手俳優への転換期だった。
それが5年後の02年公開の続編『メン・イン・ブラック2』では、現実社会において大物ハリウッドスターの仲間入りをしたウィル・スミスが、MIBの中でもエースエージェントに成り上がった姿が描かれている。


ちなみにトミー・リー・ジョーンズが日本での知名度を一気に上げた、サントリー缶コーヒーBOSSレインボーマウンテンのCM「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」の元ネタはもちろんこの映画である。

映画と現実の微妙なシンクロ。そう、2017年の今こそ、97年の1作目→02年の2作目→12年の3作目と『メン・イン・ブラック』シリーズ一気観賞をオススメしたい。作品内の時間の流れも丁寧に描かれており、シリーズを重ねるごとに徐々にKとJの過去の関係性が明らかになっていく。
ちなみに自分もAmazonプライムで一気観賞したが、98分、88分、108分と3作通しても計5時間弱で観ることができた。

動画配信は夢のまた夢だった90年代


思えば、MIB1作目が公開された90年代、もちろん動画配信なんて技術的に夢のまた夢だった。
劇場以外での映画を観る方法は、レンタルビデオ店と自宅でビデオ録画する地上波の日本語吹き替え版洋画のみ。
一般家庭でNHK以外の有料チャンネルと契約するというのはまだ珍しかった(だからWOWOWに憧れた少年は多い)。「シュワルツェネッガーが英語で話しているのは大人になってから初めて見た」なんて現象が普通に起きていた、あの頃の映画事情。

一度ヒットすると劇場とレンタルビデオ屋で合わせて1年近く、その作品を目にしていた記憶がある。97年末に公開された『タイタニック』は、99年に入ってもTSUTAYAの棚に大量に並べられていたリアル。すべてのサイクルが早い現代からしたら、信じられないくらいひとつの作品の消費期限が長い時代だった。
そりゃあ、マルちゃんから「麺・イン・ブラック」も出るわけだ。

個人的に90年代後半を象徴するSF映画は、『マトリックス』と『メン・イン・ブラック』だと思う。いわば、21世紀のSF映画の多くは、この2本の影響下から始まったのである。


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『メン・イン・ブラック』
発売日:1997年12月6日
監督:バリー・ソネンフェルド 出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、リンダ・フィオレンティーノ
キネマ懺悔ポイント:74点(100点満点)
5年後に公開されたシリーズ2作目にはあの故マイケル・ジャクソンもカメオ出演。キング・オブ・ポップがドアップで「ボクを捜査官Mにしてぇ~」と懇願する姿に刮目せよ!


※イメージ画像はamazonよりメン・イン・ブラック(1枚組) [SPE BEST] [DVD]