ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんによる、話題の作品をランダムに取り上げて時評する文化放談。今回は『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』について語り合います。


極彩色の虹が見える……!


ダメ!絶対!ドラッグムービー「キンプラ」を観てを観て意識の階梯をのぼろう
「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」ウェブサイトよりキャプチャ

飯田 菱田正和監督によるアニメーション映画『KING OF PRISM -PRIDE the HERO-』(通称『キンプラ』)は女児向けTVアニメ『プリティーリズム・レインボーライブ』(2013年~2014年放映)に登場する男子プリズムスター(歌とダンスとフィギュアスケートを融合させたような競技「プリズムショー」のスター)であるヒロ、コウジ、カヅキによるユニットOver The Rainbow(オバレ)のその後を描いたスピンオフ作品である映画『KING OF PRISM by PrettyRhythm』(『キンプリ』)の続編(二部作の完結編)ですね。
 前作は、劇場にペンライトとかを持ち込んで歌ったり叫んだりキャラクターとコールアンドレスポンスしたりアフレコして(客がアフレコできるシーンが作中にある)OKという「応援上映」スタイルを全国的に知らしめた作品になり、非常に話題を呼びました。
 今回も応援上映、盛り上がってますね。

藤田 男性のイケメンアイドルたちが歌って戦うアニメですね。

飯田 菱田正和監督いわく「アイドルではない」そうです(「ユリイカ」2016年9月臨時増刊号総特集アイドルアニメを参照)。プリズムスターはアスリートに近い。ストーリー的にも泥臭いスポ根(+ドロドロな昼メロ的愛憎劇)ですからね、基本は。
 もともと仲がよかったヒロとコウジが、コウジの曲「pride」をヒロが自分の名義の曲にして奪ってひとりでデビューしたことで決裂、その後、カヅキの働きなどがあって紆余曲折の末に和解してやっとオバレを結成(TVシリーズ『レインボーライブ』)したのに、前作『キンプリ』ではコウジがハリウッドデビューするためにヒロの元を去るという衝撃展開をして、さてどうなる!? というのが本作ですね。サブタイトルに『PRIDE the HERO』とあるように、幹になっているのはヒロの話であり、「pride」という因縁の曲をめぐる物語です。
 そしてメインタイトルである「KING OF PRISM」の名の通り、プリズムキングカップの頂点に立つのは誰か? という争いを描いていく。

藤田 ぼくは応援上映の回を観に行ったのですが、女性たちが歓声を上げるわ、サイリウム振るわ、スクリーンと会話するわで、実に楽しそうでした。応援アリで見たほうが楽しかったですね。映画泥棒のダンスの時点で既にサイリウム振ってたのは面白かったですがw

『キンプラ』は観客を変性意識状態にいざなうヴィデオドラッグである


飯田 応援上映がすごいことがよく語られているんですが、本編がそもそもぶっ飛んでいるから、観客もネジがはずれていく。

藤田 TVシリーズは観ていないんですが、全然面白かったです。
前半のライバルとの因縁や修行のシーンも、キャラクターの個性を理解させつつも、モタモタしないで、サクッと処理するスピード感もよかった。もはや「記号」で「わかるでしょ?」と圧縮してる感じで。想像以上に面白かった。女性向けの恋愛パートや裸を出すシーンとかは、ぼくは想定されているお客さんではないんだと思うんですが、ぶっとんだ演出が笑えて派手で面白かったです。
 歌って踊ってスケートのジャンプみたいなのしたら、ジョジョのスタンドみたいな超能力が発動して、スタジアムが壊れたり、作り直されたり、物理法則がどうなっているのか分からないw エヴァ旧劇場版のような、地球スケールにまで演出が広がっていくのは、楽しかったですね。
 歌っている人の「かがやき」が、観客にとって「人間」の形に見えているから、舞台に複数いるように見える……とか、「スタンドかよ」ってツッコんでしまいそうになりました。万能すぎますね、かがやき。

飯田 観客はノンドラッグでティモシー・リアリーとかオルダス・ハクスリー的な境地に連れて行かれているのでしょう。意識の拡張が起こっている。
 菱田監督は富野由悠季監督、というかファーストガンダムがあまりに好きで就活でサンライズを記念受験したら受かってしまってアニメ業界に入った方なので(キンプリはタツノコプロ制作の作品です。念のため)、競技者の精神力と動きの激しさがそのままリアルワールドに及ぶようなプリズムショーの世界は、ニュータイプの脳内を表現したようなものだと個人的には思っています。ララァとアムロが波がざばーんとする中を飛んでるのと同じ状態が「プリズムの輝き」というやつなのではないかと。
刻が見えてる人たちの世界。

藤田 ジョジョにおける「波紋」に相当していますね >「かがやき」

飯田 前作『キンプリ』を見たときに、これは『イデオン発動編』だと思ったんですよね。サイケデリック・ムービーであり精神世界系アニメであると。

藤田 サイケデリックでしたねぇ。バトルシーンは、ヴィデオドラッグとか、VJとか、ソーシャルゲームの画面とか、そっち方面の文法ですね。視覚的にキラキラさせて、音と映像で脳を酔わせていく。そのせいで、既存の映像作品とは異なる文法に踏み込んでいて、これはすごいなと思いました。現代の前衛映画みたいですよ。
 行き過ぎてて笑いそうになるギリギリ(というか、ぼくは笑ってたけど、応援している人は笑ってなかった)の演出が実にいいですね。大袈裟でやりすぎていて……しかも「メタです」的な鼻につく感じもなくて。

飯田 前作のBlu-rayでのオーディオコメンタリーでも、菱田監督以外の人がぶっ飛んだ演出を観て笑うと監督は何回も「笑うところじゃないですよ!」って言ってましたからね。
 前作でオバレが古代ギリシア人(というかギリシャ神話?)っぽい格好してましたけど、神話なんですよ。
あれは神々の闘争なので、踊りで闘技場が壊れても当たり前なのです。

藤田 爆発して崩れてたのに怪我人や死人が出てなさそうなのにも驚きましたよw

飯田 それはきっとカヅキのおかげでしょう!!!

本当にゲームムービー的なのか?


飯田 菱田監督は、プリズムジャンプをした人間が無限増殖して観客すべてをハグする「無限ハグ」(観ていない人には意味がわからないと思いますが本当にそういうもの)の演出とか、ゲームムービーではあのくらいハデなのも当たり前ではみたいなことをおっしゃっていたのですが(正直そんなことは全然ないと思いますが……)、ゲーセンにある『プリリズ』や『プリパラ』の筐体の画面サイズで見るならともかく劇場の大スクリーンにかかると異形ですよね。

藤田 無限ハグは素晴らしいですねw あんまり、ぼくがやるタイプのゲームのムービーでも見ないですよ、あれは、さすがに…… あ、『龍が如く0』のカラオケシーンは近いところあるかな。
 でも、ゲームの演出っぽさは確かに感じました。FFの召喚獣っぽさがありますね。
 薬物抜きでここまでの陶酔に持っていけるってのは実にすごいです。良し悪しとか善悪とか全部抜きで、ここまでドラッギーな感覚を与えることに特化し洗練された作品が出たことは、評価されてしかるべきかと思います。「脳科学化した文化産業」とぼくが呼ぶパラダイムの、ひとつの重要な作品ですね。
 エイベックスの音楽も、画面の演出も、色も、振り付けもうまい。応援している人たちはもっと楽しいんでしょうねぇ…… ぼくも叫んだり会話したりしたかった。最後は、登場人物がキスしてくる女性の視点になりきってセリフを叫ぶシーンがありましたね。みんな叫びまくってました。

飯田 ヒロ様が○○とキスするのは『レインボーライブ』を観てるとマジ泣けるシーンですね……。

 前作は予算がなくて女性声優さんを起用することができないなかでの苦肉の策というのが冒頭の観客アフレコシーンが生まれたきっかけのひとつらしいですが、今作ではちゃんと『レインボーライブ』の女性陣がみんな出てきてちゃんと声優さんが声をあてている! それができるくらい前作『キンプリ』に人が入って今作のために予算が付いた!!! というのも感動ポイントですね。

藤田 応援している人は冥利に尽きるでしょうなぁ
 少し映像で気になったのは、音楽シーン、白い丸みたいなのがずっと明滅してますが、あれって(作中の空間を撮影している仮想カメラの)画面の切り替えと関係なくあるんですよね。作中世界じゃないところに属している。ソシャゲとかのフィーバーのときの演出と同じですね。あれ、映画の文法として面白いなと思いました。
 デヴィッド・リンチも「Came Back Hounted」のPVであんなことやってたのを、少し思い出しました。作中世界じゃなくて、スクリーンなりモニタそのものの層に属している映像。

飯田 ゲームムービーの映像的にエクストリームな部分、享楽をアニメーション映画に持ち込んでさらにフリーダムでバーニンなものにした感じですよね。

KING OF PRISMまたは戴冠せるアナーキスト


飯田 話をだいぶ戻しますが、『ガンダム』では地球の重力から解き放たれた、宇宙時代に適応した新しい人類がニュータイプなわけですよね。でも『キンプリ』は慈愛の光で地球を包み込んだりする、地球大好き映画じゃないですか。プリズムジャンプはしても重力から解放されて宇宙の住人になるわけではない。地上に戻ってくる。
でも完全にニューステージに突入している。スペースノイドじゃないかたちのニュータイプの精神世界を描いた作品だと思います。新しい人類の脳内世界はああなっている。それが作中の時空間と関係なく明滅する光のようなものとつながっている気がします。

藤田 エヴァ旧劇場版の綾波が地球包んで、みんなが魂になっていくシーンですよw
 融解して自他がなくなるわけでも地球が終わるわけでもない、というのは大きな違いですが。観客もニュータイプなんですかね、あの世界は。『ガンダム』世界のニュータイプってエリート主義で、一般人を置いていく感じがありますが、これはそうではないですよね。地球大好きと繋がるかもですが。

飯田 本作では最終的にキングが決まって黄金に輝きみんながひれ伏したわけですけど、エリート主義ではないですよね。観客が選ぶから。あ、いや、キンプリのファンのことは「プリズムエリート」と呼ばれているので、そういう意味ではエリート主義か!? それはともかく、映画が終わったあとに他に観ていた人たちが「あの世界は民主主義なのか絶対王政なのかわからない!」とか言ってましたが、しかし民主的に選ばれる王様がいても問題ないでしょう。絶対王政☆愛・N・G!

藤田 人々の情動を含めた意志を集める、ルソーの「一般意思」というアイデアがありましたが、あの王はそれに近い。
それを選ぶシステム(ファンの感動を集計する装置)も開発されているし。
 そもそも、ぼくはあの世界で「王」になるってのがどういう意味なのかすらもよくわかっていないのですがw 実際の支配者になるんですか? それとも、チャンピオン的な存在?

飯田 キングになっても別に権力は生じないはずですけどねw 「君臨すれども統治せず」ではないかと。

藤田 なんか料理漫画の対決っぽかったので、キングっていっても「TVチャンピオン」の「チャンピオン」ぐらいの価値なんだろうかと勝手に思ってましたw

飯田 たしかに『ミスター味っ子』に通じる狂気はあるね……共感覚的な画面の演出を含め。

藤田 技を繰り出したりしたときに背景に竜が出てきたり、食べた人の後ろに宇宙が現れたりする感じですね。
 ともあれ、これは面白いものです。次世代の映像のスタンダードになりうるかもしれません。そうならなくとも、現代日本だからこそ生まれた、ユニークでエッジな作品だと思います。すごいですね。興味がない人こそ、むしろ観に行くといいと思います。

飯田 そうですね。劇場で観られるうちに観るべき作品です。家で鑑賞しても楽しめるでしょうが、魔法が半減してしまうので……。家で観るときも誰かといっしょに観たほうがいい。

藤田 応援上映も体験してほしいですね。キャラクターと人間が堂々と会話する段階に文化が進んでいる衝撃を受けますw

飯田 席にしかけがある4DXと逆で、観客が動くことで体験価値を高めるというギミックを成立させた、応援上映できるような間だとか、声を出してみるとより盛り上がるような演出をあらかじめ仕込んでいるのがすごいですね。
 もちろん、『キンプリ』でいきなり成立したわけじゃなくて、その前からの技術的な積み重ねがあったからこそできたわけですが。

藤田 ええ。その辺りは細かく見ていくときっと色々な技術や仕掛けがあるのだと思いますが、さすがに劇場で観ただけでは語れない。その演出を徹底して分析すると、価値のある論文になりそうなぐらいです。

飯田 間違いなく歴史に残る二部作です。作ってくれてありがとうございますということしか言えないですね。
編集部おすすめ