
男女どちらがお酒を注ぐべきか、いっそのことそんな決まりをすべて取り払って、手酌で好き勝手に飲めれば悩まなくていいのに……。そう単純にはいかないのが、現実であるらしい。
日本で女性は、食事会などの際につねに男性のグラスに気を配ることが、女性の振る舞いとして評価される傾向にある。フランスはその逆で、女性のグラスに飲み物を注ぐのは男性の役目だ。仏紙フィガロ電子版が載せるマナーの一覧には「女性は決して自分自身でグラスにワインを注いではいけない。グラスが空かどうかは男性が確かめることである」と書かれている(ただしどちらのケースも、きちんとしたサービス係がいて対応してくれるような場所であれば、それはサービス係の役目である)。
真逆の両者であるが、異なる文化圏に住んでいると、知識では得られても現場の雰囲気をつかむのが難しいことはよくある。フランスでは、この「男性または女性が飲み物を注ぐ行為」は、どのような感覚なのだろうか。
男性が女性のグラスを満たすフランス
記事をまとめるに先立ち、まず私の経験とそこからの認識に誤りがないよう複数のフランス人にも意見を求めた。結果、予想通り「通常フランスでは、女性は男性に飲み物を注がない」ということで一致した。
ただし男性が注ぐことを原則としつつも、「時と場合による」「カジュアルな場であれば、女性が注ぐことも可能性としてはある」という意見もあった。これは日本でも同じだろう。その場がどのような人との会食であるかによるし(親戚の集まりなのか、ビジネスなのか、または男女という性別関係なく仲良くしている友人なのか)、つねに女性から男性に飲み物が注がれる、といった決まりは存在しない。
では男性が女性に飲み物を注ぐという行為は、どのような状況で行われるのか。日本で知識としてレディーファーストを学ぶと、慣れていないと窮屈さを感じてしまうが、現実はもっと自然に行われる。これは「男性が注ぐ」という意識が、社会の共通認識としてあるからだろう。結果的にワインのボトルはつねに男性の近くにあり、女性のグラスは男性によってスムーズに満たされていく。

こういった環境で暮らすフランス人からすれば、「日本のことを知らないフランス人が、日本人女性が率先して日本人男性のグラスに飲み物を注いでいる姿を見たら、驚く」こともある(そういう意見も出た)。一方で、多くはないが「レディーファーストをできないフランス人男性はいる」との指摘もあった。すべての人が同じではないため、当然このような例外は、どこの国でも起こりうる。